ドリコムアイ.net…高校生の進路と教育を考えるWebマガジン
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第11回

2006-09-19UP

岸田秀最終講義DVD本』

岸田 秀 著
飛鳥新社
本体2800円+税

第20回 〜 第1回

第20回 『ジェンダーと社会理論』

第19回 『反戦ストリッパー白血病に死す』

第18回 『≪宮崎勤≫を探して』

第17回 『満鉄全史 「国策会社」の全貌』

第16回 『学校だけが人生じゃない』

第15回 『階級社会』

第14回 『何がおかしい』

第13回 『寄る辺なき時代の希望−人は死ぬのになぜ生きるのか』

第12回 『薬でうつは治るのか?』

第11回 『岸田秀最終講義DVD本』

第10回 『戦争で死ぬ、ということ』

第9回 『自傷行為〜私が私であるために〜』

第8回 『自分の居場所のみつけかた』

第7回 『30日間マクドナルド生活』

第6回 『社会運動の力 集合行為の比較社会学』

第5回 『社会学入門 人間と社会の未来』

第4回 『学問の力』

第3回 『そして、憲法九条は。』

第2回 『子どものリアリティ 学校のバーチャリティ』

第1回 書き出すにあたって

 これもマルチメディア、メディア・ミックスというのだろうか。著者の最終講義のレジュメを活字で掲載するだけでなく、DVDで実際の最終講演がそのまま収録されているのである。活字の方は、早稲田大学と、いわくつきのストラスブール大学に提出された学位論文が2本収録されている。岸田「唯幻論」者ならまたとないアイテムとして必携のものとなるだろう。しかし、そのため唯幻論をまったく知らない人にとっては、「唯幻論」とはかくも難解なものかと誤解を招くかもしれない。活字部分に限って言うなら、初心者には、やはり『ものぐさ精神分析』あたりから入ることをお奨めしておくべきかもしれない。

 しかし、活字を抜きにしてDVDだけでも充分に楽しめるものだ。それゆえ、この作品を鑑賞するためにはDVD再生機は必携。DVDの部分を見ずに、これを読んだとは言えないほどだ。

 講演のタイトルは「ある西洋史」。黒人から白人が差別され、さらにキリスト教者が迫害を受け、そのなかでさらにプロテスタントが新大陸へ逃げていったという著者みずから言う「史的唯幻論」による歴史解釈が63分にわたり展開されている。実は私はこの最終講義を見に行ったのだが、マイクを持ちぶらぶら歩きながら喋る姿が実にリアルに再現されている。もちろん内容も「人間は本能の壊れた動物である」(このフレーズ自体は本書には書かれていない)から基礎をおいた、「唯幻論」の歴史への展開は(本書ではタイトルにもあるように西洋史への展開)、著者ならではの人の度肝を抜くものである。何しろ和光大学の教員を務めている私の友人(ただし、彼は自然科学系である)は、「和光大生は、あんな歴史を教わって卒業していくのか」と心配して感嘆していたほどである。

 和光大教員としての責任感から発せられた嘆慨であろうが、和光大卒業生の名誉のために蛇足を承知でことわっておくならば、彼らとて歴史が全て唯幻論だけで解説しうると信じているわけではない。その意味では、マルクス主義史観が全てを解説しえないのと同じことである。ただ、言えることは、今までにない新しい観点から歴史を見ると少し様相を異にして見えてくるということである。

 かつて、このドリコムアイ.netの前身であるペーパー媒体であった『ドリコムアイ』誌では、私の無茶な希望にもかかわらず気軽に対談を引き受けて頂いたこともある著者だが、映像メディアへの露出は極めて少ない。また大学の講義をDVD化したという事例も寡聞にしてか、私は知らない。内田春菊の表紙も魅力的で、岸田ファンならずとも心をくすぐられるに違いない。




竹村 洋介
たけむら ようすけ

東京大学文学部社会学科卒業、同大学院教育学研究科博士課程修了。専門は不登校、フリースクール、ひきこもり、NEET論など。NPO法人越谷らるご顧問理事を勤める。このように、現実の社会問題をフィールドワークする一方で、書評子としては、『ドリコムアイ』誌を中心にいくつかの雑誌でほぼ25年近くにわたり連載を重ねる。社会科学全般、社会学、教育学、心理学、経済学、政治学からはては精神医療にまでその広い守備範囲とし、日本児童青年精神医学会の評議員などをも勤めた。近畿大学では、社会学、生涯学習論などの講義をおこなっている。著書に『近代化のねじれと日本社会』(批評社)、『ひきこもり』、『学校の崩壊』(共著、ともに批評社)などがある。