第19回

2007-01-29UP

反戦ストリッパー白血病に死す』

正狩 炎 著
グラフ社
本体1238円+税

第20回 〜 第1回

第20回 『ジェンダーと社会理論』

第19回 『反戦ストリッパー白血病に死す』

第18回 『≪宮崎勤≫を探して』

第17回 『満鉄全史 「国策会社」の全貌』

第16回 『学校だけが人生じゃない』

第15回 『階級社会』

第14回 『何がおかしい』

第13回 『寄る辺なき時代の希望−人は死ぬのになぜ生きるのか』

第12回 『薬でうつは治るのか?』

第11回 『岸田秀最終講義DVD本』

第10回 『戦争で死ぬ、ということ』

第9回 『自傷行為〜私が私であるために〜』

第8回 『自分の居場所のみつけかた』

第7回 『30日間マクドナルド生活』

第6回 『社会運動の力 集合行為の比較社会学』

第5回 『社会学入門 人間と社会の未来』

第4回 『学問の力』

第3回 『そして、憲法九条は。』

第2回 『子どものリアリティ 学校のバーチャリティ』

第1回 書き出すにあたって

 ずいぶん数奇な運命にもてあそばれた人がいたものだ。かつて自衛隊出身のストリッパーとして有名であった沢口友美は、広島原爆の被爆2世でもあったのだ。彼女が死んで、この1月10日で1年がたつことになる。それにあわせて、生前、彼女と親しかった雨宮処凛と塩見孝也のトークセッションもおこなわれたばかりだ。被爆2世であることが、直接にかなり特異な種類の白血病に繋がったとは断言できないが、その可能性も高いことだろう。しかし、生前彼女を悩ませたことは、被爆2世であるという社会的差別だったという。ストリッパーという職業もさることながら、被爆2世であるという差別が、彼女を反戦に、反米に走らせ、朝鮮民主主義人民共和国へ行かそうとし、何度ものイラク訪問に向かわせたのだろう。

 反戦ストリッパーといっても理論的に小難しいことを言い立てたりかき立てたりするのではない。現に、高校を卒業した時点では、安定した公務員の職として自衛隊に入隊している。それは、彼女が育った軍港の街・呉では、さほど不思議という選択ではなかったようだ。結婚し、子どももでき寿除隊した後、明確な理由は記されていないが夫と不和になり離婚した彼女は、ストリッパーという職業を選ぶ。踊りが好きで、脚光を浴びることに快感を覚えたようだとこの評伝にはある。異色のストリッパーとして活躍する中、いろいろな外国人との恋にも落ちる。しかし、そんな中、風俗で働く人々が搾取されている様に義憤を駆られ、いわゆる風組日本党を結成する。新右翼一水会顧問の鈴木邦男と交流をもてば、一方では共産同赤軍派元議長塩見孝也と行動を共にする。一介のストリッパーであり、被爆2世である彼女にとっては、右も左もなかったようだ。

 そして、実際にイラク現地に赴き、名演説をぶち、聴衆を感動の嵐に巻き込んだというのだ。観念的な左翼や右翼でない被爆2世としての彼女の実在が、そこにあったのだろう。

 しかし、慢性骨髄単球性白血病という病魔の手はそんな彼女をも打ちのめしてしまう。移植手術をすることになりドナーが見つかっても、彼女は救われることなく2006年1月10日息を引き取ることとなった。あまりにも行き急いだ人生だったといえるかもしれない。

 著者の手による本文だけでなく、鈴木邦男、平野悠、雨宮処凛、塩見孝也らの証言もあり、その壮絶な生き様が描き出されており、興味深い。また後半は、沢口友美自身の闘病記ブログ「白血病で世をシノブ」http://air.ap.teacup.com/kure/になっており、これだけでも充分に一冊の本になる面白さをもっている。白血病だといっても、妙に深刻にならず、痛さ辛さは正直に書きながらも、じめじめしたところがない。その時々を精一杯生きる様がよく伝わってくる。

 かわいそうな被爆2世の物語というよりも、44年の人生を疾走した爽やかさがある種の快感さえもたらす。葬儀場から棺を送ったのが、彼女の好きだったQueenの「Too much love will kill you」だったというエピソードも実に彼女らしくてすばらしい。




竹村 洋介
たけむら ようすけ

東京大学文学部社会学科卒業、同大学院教育学研究科博士課程修了。専門は不登校、フリースクール、ひきこもり、NEET論など。NPO法人越谷らるご顧問理事を勤める。このように、現実の社会問題をフィールドワークする一方で、書評子としては、『ドリコムアイ』誌を中心にいくつかの雑誌でほぼ25年近くにわたり連載を重ねる。社会科学全般、社会学、教育学、心理学、経済学、政治学からはては精神医療にまでその広い守備範囲とし、日本児童青年精神医学会の評議員などをも勤めた。近畿大学では、社会学、生涯学習論などの講義をおこなっている。著書に『近代化のねじれと日本社会』(批評社)、『ひきこもり』、『学校の崩壊』(共著、ともに批評社)などがある。