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読者の中に「プレカリアート」という語をご存知の方は、どれくらいいるだろうか? 著者によれば、「『Precario(不安定な)』と『Proletariato(プロレタリアート)』を合わせた造語らしい」ということだ。ネット上では、既にかなり普及している言葉のようで、日本語でプレカリアートとgoogleで検索したところ、42,000件を超えていた(07年3月25日現在)。ネット上では、すでに市民権を得た言葉のようだ。
Wikipediaによれば、「新自由主義経済下の不安定な雇用・労働状況における非正規雇用者および失業者の総称」で、フリーター、ニートはいうに及ばず、パートタイマー、派遣労働者、契約社員、委託労働者、移住労働者、失業者まで含む幅広い概念だ。著者は、この本で、フリーターを中心としたプレカリアートの実態を明らかにし、それに抵抗する運動を紹介し、若者の雇用の不安定化がなぜ進行したのかを解明していく。
本の構成とは異なるが、若者の雇用が不安定化した最大の理由は、グローバリゼーションにある。ネオリベラリズムの論理では、フリーターになったのは、今までフリーターになるような生活をしてきたからだと説明する。自由競争を推奨し、自己責任を追及する。しかし、はたしてそうであろうか。より安い労働力を求め、労働市場を流動化させた資本論理のしわ寄せが、若者の不安定雇用という形で現れているのではないのか。
この本、前半は作者自身のフリーター経験を含めて、フリーター、派遣・請負の実態を追う。正社員は正社員で、寝る間もなくこき使われて、過労死寸前まで働かされた弟の例も出てくる。いやそれどころか、裁量労働制の下で現実に過労自殺したケースも出てくる。一方、フリーターは、フリーターで、ホームレス化し所持金もほとんどなくマンガ喫茶で暮らすというありさまだ。悲惨な思いがしてくる。
しかし、この本はそういったルポルタージュで終わっているものではない。たとえば、「NPO法人自立サポートセンター・もやい」の活動が紹介されている。生活保護の申請から、それによる生活の立て直しまで地道な活動が実を結んでいることを示したりもしている。また労働組合では、フリーター労組が団体交渉にはいり、解決金を手にした事例も挙げられている。新しい労働運動をめざし、「若者の『仕事』調査アンケート」をおこなったPOSSE(NPO申請中)も取り上げられている。これには、著者自身もコミットしている。
こういったシリアスな例だけでなく、「貧乏人新聞」を発行したり、六本木ヒルズで「クリスマス粉砕集会」を行ったり「すっぽかしデモ」をする「高円寺ニート組合」「素人の乱」(この9号店「セピア」には、外山恒一やぺぺ長谷川も出入りしているようだ)の松本哉らの、一見馬鹿げた動きにも着目している。
紹介が長くなってしまった。この奇妙な好景気のなか、格差社会・階級間格差が広まり、ニート、フリーター、プレカリアートが問題となるのは、決して若者の精神がたるんでいるからとかという精神論が理由ではないのだ。それをもたらしたのは、グローバリゼーション=アメリカンスタンダードという社会構造的な問題なのだ。そして、それにいかに対抗していくかが模索されるべき時が来ているのだ。
生きさせろ! 悲痛な響きのタイトルだ。
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竹村 洋介
たけむら ようすけ
東京大学文学部社会学科卒業、同大学院教育学研究科博士課程修了。専門は不登校、フリースクール、ひきこもり、NEET論など。NPO法人越谷らるご顧問理事を勤める。このように、現実の社会問題をフィールドワークする一方で、書評子としては、『ドリコムアイ』誌を中心にいくつかの雑誌でほぼ25年近くにわたり連載を重ねる。社会科学全般、社会学、教育学、心理学、経済学、政治学からはては精神医療にまでその広い守備範囲とし、日本児童青年精神医学会の評議員などをも勤めた。近畿大学では、社会学、生涯学習論などの講義をおこなっている。著書に『近代化のねじれと日本社会』(批評社)、『ひきこもり』、『学校の崩壊』(共著、ともに批評社)などがある。
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