第33回

2007-10-01UP

『ベースボールの夢−アメリカ人は何をはじめたのか』

内田 隆三 著
岩波新書
本体740円+税

第41回 『イラクは食べる』

第40回 『学校裏サイト−進化するネットいじめ』

第39回 『日本の行く道』

第38回 『家族パラドクス』

第37回 『エビと日本人II』

第36回 『プライドワーク―自分を作る働き方』

第35回 『しごとダイアリー』

第34回 『雨宮処凛の「オールニートニッポン」』

第33回 『ベースボールの夢−アメリカ人は何をはじめたのか』

第32回 『サマースプリング』

第31回 『右翼と左翼はどうちがう?』

第30回 『人間自身 考えることに終わりなく』

第29回 『精神科医の本音トークがきける本』

第28回 『教育大混乱』

第27回 『豊かさと棄民たち 水俣学事始め』

第26回 『全国学力テスト、参加しません。』

第25回 『狼少年のパラドクス』

第24回 『生きさせろ! 難民化する若者たち』

第23回 『親より稼ぐネオニート』

第22回 『東京から考える』

第21回 『ヒット曲が世界を変える』

 野茂以来、イチロー、松井と日本人も活躍しているメジャーリーグだが、アメリカ人は、それをいかにして作り上げてきたのだろうか。日本のプロ野球にも、長島・王の伝説があるが、アメリカ合衆国のベースボールは、その歴史も古く、人気も絶大なものがあるだけに、その伝説もまた、壮大なものがある。

 日本ではあまり知られていないが、ベースボールの発明に関して「ダブルデー=クーパーズタウン神話」というものがある。アメリカ合衆国のベースボールファンなら、誰でも知っているという神話だ。後に南北戦争の北軍の将軍として開戦の火蓋を切ったアブナー・ダブルデー将軍が、若き日にニューヨーク州のクーパーズタウンで、野球を発明したという伝説である。時は、1839年のことだったという。

 この本は、この神話をめぐって、それが捏造されたものであることを暴き、ベースボールがアメリカ合衆国のナショナルスポーツになるために、なぜ伝説が必要だったかを解明する。19世紀、さまざまにあったボールゲームのなかで、ニューヨークゲームがベースボールとしてその地位を確立し、いかにして人々の心情をつかみ取っていったか、さまざまな統計や史料などをもとに、明らかにしていくのだ。

 19世紀当時、アメリカ合衆国は、フロンティア精神を持った独立自営の開拓農民の社会であった。それが世紀を挟んで、20世紀になると資本主義が勃興し、ホワイトカラーの社会へと変遷していく。しかし、人々の心性はすぐに切り替わるものではなく、古き良きアメリカ合衆国を追い求める。そこへベースボールは、田園風景の幻想をしょって、また北軍・南軍ともに楽しんだという愛国心をかきたてながら、さまざまな伝説を身にまとって登場する。そして19世紀のニッカボッカーズの時代から、20世紀初頭のタイ・カップ、ベーブ・ルースの時代まで、ナショナルスポーツとしての地位をゆるぎないものにしていく。

 こういった歴史を、単色刷の新書版でありながら、多数の図版を使用してイコノロジーの手法を駆使しながら社会史的に描き出している。

 アメリカ人のメジャーリーグへの思い入れの深さが、なぜもあのように大きいのか、分からせてくれる一冊である。





竹村 洋介
たけむら ようすけ

東京大学文学部社会学科卒業、同大学院教育学研究科博士課程修了。専門は不登校、フリースクール、ひきこもり、NEET論など。NPO法人越谷らるご顧問理事を勤める。このように、現実の社会問題をフィールドワークする一方で、書評子としては、『ドリコムアイ』誌を中心にいくつかの雑誌でほぼ25年近くにわたり連載を重ねる。社会科学全般、社会学、教育学、心理学、経済学、政治学からはては精神医療にまでその広い守備範囲とし、日本児童青年精神医学会の評議員などをも勤めた。近畿大学では、社会学、生涯学習論などの講義をおこなっている。著書に『近代化のねじれと日本社会』(批評社)、『ひきこもり』、『学校の崩壊』(共著、ともに批評社)などがある。