第36回

2007-12-3UP

『プライドワーク―自分を作る働き方』

今 一生 著
春秋社
本体1800円+税

第41回 『イラクは食べる』

第40回 『学校裏サイト−進化するネットいじめ』

第39回 『日本の行く道』

第38回 『家族パラドクス』

第37回 『エビと日本人II』

第36回 『プライドワーク―自分を作る働き方』

第35回 『しごとダイアリー』

第34回 『雨宮処凛の「オールニートニッポン」』

第33回 『ベースボールの夢−アメリカ人は何をはじめたのか』

第32回 『サマースプリング』

第31回 『右翼と左翼はどうちがう?』

第30回 『人間自身 考えることに終わりなく』

第29回 『精神科医の本音トークがきける本』

第28回 『教育大混乱』

第27回 『豊かさと棄民たち 水俣学事始め』

第26回 『全国学力テスト、参加しません。』

第25回 『狼少年のパラドクス』

第24回 『生きさせろ! 難民化する若者たち』

第23回 『親より稼ぐネオニート』

第22回 『東京から考える』

第21回 『ヒット曲が世界を変える』

 ひとことで言ってしまえば、自営業のすすめの書である。

 その意味では『親より稼ぐネオニート』(http://dricomeye.net/07_book/book070319.html)の続編でもある。

 しかし、前著で使われていた「不労所得」「ネオニート」という概念は、「プライドワーク」「ソーシャル・ベンチャー」ということばに置き代えられている。適切な変更であろう。

「ネオニート」というのは、テリー伊藤の命名らしいが、どういうふうに新しいのかよくわからなかった。「不労所得」にいたっては、働かずに得たキャピタルゲインを連想させた。実態は、起業家精神に燃えた自営業者として、猛烈に働いているにもかかわらず、語感は正反対の意味であるかのように響いてしまっていた。

 著者の本意はそういうところにはまったくない。「学校的な価値観(進学→就職→結婚→〈退社→年金生活〉という直線的で画一的なレール)とは異なる人生観を切り拓こう」というところにあるのだ。

 2015年には、正社員は50%を割り、残りはフリーター・派遣・請負などの非正規雇用と自営になるという未来予想もある。そのような現状のなかで、起業家精神に満ちた自営業者を多く輩出しようというのが、著者の主張である。しかも、そうやってできてきた自営業・新興企業が、社会のさまざまな人々のニーズにマッチし、社会全体の活力を増すことをめざす、それゆえにソーシャル・ベンチャーなのである。

 人前で授乳ができる授乳服の普及につとめるMo-Houseの光畑由佳さん、作家志願のニート・ひきこもりを相手に、プロの講師が文章技術の向上や就労などを支援する「神保町小説アカデミー」を開校し、ネット・ラジオ「オールニートニッポン」を運営するまでにいたったNPO「コトバノアトリエ」代表理事・山本繁さんなど、多数の起業家が紹介されている。あわせて著者自身の、大学を中退して以来の「ライフヒストリー」も記されている。

 考えてもみよう。若い人が「夢さえ持てず、あの世に行く日を待ちわびるだけ」の鬱屈した社会に、あなたは住みたいと思うだろうか?

 ただし、このことは社会保障費を削り、すべてを市場原理に任せようというネオ・リベラリズムの思想とは異なるものだ。しっかりとした社会保障がなければ、たとえ起業家精神を持っていたとしても、その実現に二の足を踏むということになってしまうからだ。

 しっかりとした社会保障制度をもとに、起業家精神を活性化し、皆が夢を持てる社会を実現化する、これが日本社会のめざすべき方向性ではないだろうか。





竹村 洋介
たけむら ようすけ

東京大学文学部社会学科卒業、同大学院教育学研究科博士課程修了。専門は不登校、フリースクール、ひきこもり、NEET論など。NPO法人越谷らるご顧問理事を勤める。このように、現実の社会問題をフィールドワークする一方で、書評子としては、『ドリコムアイ』誌を中心にいくつかの雑誌でほぼ25年近くにわたり連載を重ねる。社会科学全般、社会学、教育学、心理学、経済学、政治学からはては精神医療にまでその広い守備範囲とし、日本児童青年精神医学会の評議員などをも勤めた。近畿大学では、社会学、生涯学習論などの講義をおこなっている。著書に『近代化のねじれと日本社会』(批評社)、『ひきこもり』、『学校の崩壊』(共著、ともに批評社)などがある。