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橋本治とは何者なのか? 若くして、東大全共闘で「とめてくれるなおっかさん 背中の銀杏が泣いている 男東大どこへ行く」というコピーを打った東京大学駒場祭のポスターを作り、イラストレーターとして注目を浴びた(当時まだ「コピーライター」と言われる職業はなかった)。小説家としては『桃尻娘』シリーズで脚光を浴び、同時に批評家として『世界秘本生卵』を世に問うた。作詞者としてはロック歌手Pantaの曲に歌詞を書いたりもしている。また、編み物で世間を驚かせたりもしている。もちろん、日本の古典教養も深く『桃尻語訳 枕草子』や『窯変 源氏物語』『古事記 少年少女古典文学館』『絵本 徒然草』『双調 平家物語』等の諸作品もある。
その著者が、「今の日本の社会は、なにがおかしいのか? どうおかしいのか?」、「なにかがおかしい日本の、途方もない原因を探る」のがこの本だ。
著者は、子供がいじめで自殺するようになり、自助努力を強制する思いやりのない社会ができたのは、産業革命に端を発する経済発展が原因だと主張し、産業革命前に戻せばいい、“江戸時代に戻せ”、せめて、1960年代前半に戻せと、論陣を張る。それは、教育・家・経済・政治という広範囲にわたって展開される。障害者自立支援法を引き合いに出し、「自立」の意味を問い返す一方で、超高層ビルをなくし、人力による二酸化炭素の排出の少ない新たな社会の構築を呼びかける。
一見、荒唐無稽のように思えるかもしれないが、この背景には、岸田秀や呉智英、芥川龍之介といった巨人たちの思想が横たわっている(明示はされていないものもあるが)。著者の該博な知識を以てして、初めてできる荒技だということもできるだろう。
途方もない議論と思われる人もいるかもしれないが、強い説得力を持っているのだ。それは、近代化、進歩といった考え方に距離を置く著者独自のラディカル(=根源的)な思想性によって立つところが大きい。
思いを馳せてみるならば、この50年間というものは、生産力主義をひた走ってきた、歴史的に見れば、特異な半世紀だったということもできるだろう。この生産力主義に著者が冷ややかな視線を浴びせているのは、言うまでもない。
橋本ワールドに魅了されてみるのも悪くはない、と喉から出かかりそうになる一冊である。
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竹村 洋介
たけむら ようすけ
東京大学文学部社会学科卒業、同大学院教育学研究科博士課程修了。専門は不登校、フリースクール、ひきこもり、NEET論など。NPO法人越谷らるご顧問理事を勤める。このように、現実の社会問題をフィールドワークする一方で、書評子としては、『ドリコムアイ』誌を中心にいくつかの雑誌でほぼ25年近くにわたり連載を重ねる。社会科学全般、社会学、教育学、心理学、経済学、政治学からはては精神医療にまでその広い守備範囲とし、日本児童青年精神医学会の評議員などをも勤めた。近畿大学では、社会学、生涯学習論などの講義をおこなっている。著書に『近代化のねじれと日本社会』(批評社)、『ひきこもり』、『学校の崩壊』(共著、ともに批評社)などがある。
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