世界遺産「軍艦島」の建築群を維持する研究発表
~日本最古の鉄筋コンクリート構造物の
崩壊を食い止める補修材料・工法を提案~


芝浦工業大学
日本建築学会
更新:2015/08/03

芝浦工業大学(東京都江東区・村上雅人学長)では、去る7月14日、JCIコンクリート工学年次大会2015(主催:公益社団法人日本コンクリート工学会)にて、同学工学部建築学科の濱崎仁准教授が論文「亜硝酸リチウム含浸による経年構造物の補修工法に関する屋外暴露試験」を発表した。

これは、日本建築学会の研究チームが長崎県長崎市の軍艦島(端島)における鉄筋コンクリート造(RC造)建築物の補修について2011年から現地調査を行いながら取り組んできた研究成果について、濱崎准教授が発表したものだ。

軍艦島の一部は「明治日本の産業革命遺産」として、去る7月5日にユネスコ世界文化遺産に登録されたが、同島に現存する日本最古といわれるRC造集合住宅を含めた建築群は、長い年月に渡って人の手が入らず塩害や風雨にさらされる厳しい環境下に置かれたため、著しく劣化している。

鉄筋やコンクリートの老朽化による建築物の崩壊は刻々と進んでいるが、このように損傷が進んだ歴史的RC造建築物の保存は世界的にも例がなく、非常に困難な課題となっているという。濱崎准教授は以上を解決するべく、歴史的価値を損なわずに経年の変化を抑えるコンクリート建築物補修工法として、『亜硝酸リチウム』を用いて鉄筋の腐食を治療する有効性を検討した。

◆歴史的建造物を保存する難しさと補修仕様

歴史的建造物の保存・修復には「オーセンティシティ(真正性)の確保」という大前提があり、

①当時と同じ材料・工法を用いること
②外観をできるだけ変えないこと
③外観が変わる場合にあってはオリジナルと明確に区別ができ可逆性を損なわない(元に戻せること)

などの要件が課されている。このうち、軍艦島の建築物群保存においては物理的に①が不可能なため、②並びに③の要件を満たす必要がある。

◆「コンクリート崩壊の主因=鉄筋の腐食」を抑制
~濱崎准教授の研究について~

コンクリートに含まれるセメントは高アルカリ性であるため、鉄筋が酸素や塩分に触れることによる酸化=錆びることを抑制している。しかし、年月を経てコンクリートの中性化や塩化物の浸透が進むと鉄筋の腐食が進行し鉄筋が膨張することで、コンクリートの剥離や剥落が生じる。

このため濱崎准教授らは、コンクリート崩壊の根本原因を治療する「鉄筋の腐食抑制」に主眼を置いてさまざまな補修材料・工法を施した試験体を作製し、現地で暴露実験を行った。

そこでこれらの試験体について鉄筋の腐食抑制効果や補修材料の浸透状況などを評価して、高経年、厳しい島内環境および内在する塩分量に対応できる、工法や材料の要件など適切な補修方法を提案している。

以上の実験結果から、当時の打放しコンクリート同様の外観の色や形状を変えずに、鉄筋の腐食を食い止めることができる防錆剤“亜硝酸リチウム(LiNO2)”のコンクリートへの含浸および注入工法に着目し、軍艦島のRC建造物における補修工法として、その有効性や必要量等を確認した。

◆今後の展望

同研究は現在、軍艦島で崩壊寸前の建築物を維持し後世に残すのに、有力な補修方法の1つとして検討が進められている。ここでの効果が実証されれば、今後増えゆくことが予想される歴史的RC造建築物の保存・修復だけでなく、一般の近代建築物や社会インフラ全体の長寿命化にも役立つことが期待される。

◆軍艦島調査の経緯

2011年に長崎市より日本建築学会に対して、長崎市端島(軍艦島)のコンクリート構造物群について、劣化・損傷状況の評価や将来予測、補修方法の提案に関する調査が委託された。

これを受けて同学会では「軍艦島コンクリート構造物劣化調査ワーキンググループ(WG)」を設置し、劣化外力、劣化状況、構造性能、補修方法等検討のための調査などを実施。濱崎准教授は当初から同WGのメンバーとして軍艦島の補修分野の調査と研究に携わってきた。同研究はその一環として行われたもので、長崎市からの特別な許可を得て実施している。

■芝浦工業大学
http://www.shibaura-it.ac.jp/
■一般社団法人 日本建築学会
https://www.aij.or.jp/