第6回
もう一つの読み方

『ヤンキー経済 ― 消費の主役・新保守層の正体 ―


原田 曜平 著
幻冬舎新書/本体780円+税
更新:2014/04/14

地元志向の若者は消費意欲が旺盛だから商売になりますよ、その知恵を教えましょう、という趣向の本。サブタイトルは「消費の主役・新保守層の正体」。巻末に12の商品開発のアイデアがまとめられている。著者は大手広告代理店勤務、メディアで精力的に若者論を語っている。

いや、こういってしまっては身も蓋もないか。それとは別の読み方ができるのが、この本の取り柄なのだ。

現在のヤンキーはマイルドヤンキーと呼ばれる。絶滅危惧種の残存ヤンキー、内心でヤンキー性に憧れる地元族、この二つのタイプがある。「上京志向がなく、地元で強固な人間関係と生活基盤を構築し、地元から出たがらない若者たち」のこと。地元とは、5km四方の小・中学校の校区程度と、うんと狭い。

消費活動の特徴は、EXILE、安室奈美恵、浜崎あゆみのファンで、パチンコやスロットを好み、喫煙率が高く、焼酎を愛飲、高級ブランドや高級ミニバンに憧れる。給料が5万円上がるか家賃が1、2万円下がることが「夢」という具合に、生活満足度は高い。なお、旧ヤンキーとちがって、根強い大学生コンプレックスをもつのは、大学進学率が50%を超えたせいだろう。

わたしが注目するのは、仲間で助け合う相互扶助の暮らしぶりだ。自己責任が幅を利かせるこの社会では希少価値の生活文化ではないか。しかしこの本ではそこのところを「郷土愛が強いわけではなく、単に『昔と変わらない生活』を望んでいるだけ」と容赦なく切り捨て、祭りや年中行事、自治会町内会などの地域活動との繋がりについては一切触れない。また、低賃金で不安定な雇用の問題はやり過ごす。マーケティング理論の限界だろう。

彼ら彼女らを消費社会の方へ回収するのでなく、地域の暮らしを支える後継者へと育てる、もう一つの途が考えられる。大人(教師、住民)の責任が問われるところだ。そう、こういう読み方もできる、ということだ。

石井 タケオ
いしい たけお

書評家。教育雑誌、書評専門紙、出版業界誌などで、教育書を中心に本の紹介を続けてきた。“学校”と“本”はメディアとしての共通性を有している。 じっさい、近代化の時代には、師範学校教師の下中弥三郎のように、平凡社を創業して日本初の百科事典を刊行するという具合に、二つの世界で活躍した人物がいる。 最近はどうだろうか。メディアの語源がメディウム(霊媒)であるにもかかわらず、“学校”と“本”の力が衰弱しているようにみえる。この連載を通して、二つのメディアの力を、あらためて確認したい。