第1回
主体性を身につける教育実践

『命を守る教育 3.11 釜石からの教訓』


片田敏孝 著
PHP研究所/本体1,200円+税
更新:2012/06/18

大津波に襲われた岩手県釜石市では、小・中学校の児童生徒約三千人全員の命が救われた(学校に居なかった5人が犠牲となった)。この本は、釜石市で2004年から津波防災教育を実践してきた片田敏孝(群馬大学、災害社会工学)によってまとめられた、臨場感溢れる報告である。図版を掲載した、読みやすい、小さな本だが、極めて中身の濃い教育実践記録といえる。

釜石市の防災教育の驚くべき成果については、避難三原則の「想定にとらわれるな」「その状況下において最善を尽くせ」「率先避難者たれ」とともに震災直後から広く注目されてきた。ところが残念なことに新聞報道などの断片的な情報にかぎられていた。それが、震災から1年後に刊行されたこの本をとおして、その全体像を知ることができるようになったのである。そればかりか、片田の防災教育が、学校改革論、地域再生論を土台とするものであることが分かる。

片田は最初、大人を対象とした防災教育を試みるが、効果を期待できないことに気づくと、児童生徒を対象に「知識の防災教育」の弊害を批判する、「姿勢の防災教育」に着手する。それは、自分の命を守る主体性を身につける教育であり、それこそ教育の本質とかかわる教育実践である。片田の大胆な提案を受け止めた、市役所、教育委員会、教職員の見識に感心する。

学校施設の防災拠点としての機能を拡充させるとか、学校を地域文化形成のための地域コミュニティセンターにするという提案も注目される。これまでにも、このような提案がなかったわけではないが、それとは違って、自助・共助・公助という考え方で行政と住民の関係を変えていこうとするものである。

津波被害の当事者である、釜石東中学校3年生の作文が掲載されている。彼らこそ防災教育の主人公である。巻末付録「釜石市の防災教育資料(一部)」も役に立つだろう。

石井 タケオ
書評家。教育雑誌、書評専門紙、出版業界誌などで、教育書を中心に本の紹介を続けてきた。“学校”と“本”はメディアとしての共通性を有している。じっさい、近代化の時代には、師範学校教師の下中弥三郎のように、平凡社を創業して日本初の百科事典を刊行するという具合に、二つの世界で活躍した人物がいる。最近はどうだろうか。メディアの語源がメディウム(霊媒)であるにもかかわらず、“学校”と“本”の力が衰弱しているようにみえる。この連載を通して、二つのメディアの力を、あらためて確認したい。