第2回
みんなで楽しく暮らす方法

『ナリワイをつくる 人生を盗まれない働き方』


伊藤洋志 著
東京書籍/本体1,300円+税
更新:2012/11/05

この本には二つの注目される点がある。一つは、若者就労支援を考え直すきっかけになることだ。パートタイムや短期雇用などの不安定就労がひろがっている。正規雇用の場合も、一部の大企業を除けば、低賃金で極めて過酷な労働を強いられている。終身雇用・年功序列モデルの時代と同じような就労支援を続けても意味がない。

この状況のなかで、伊藤(1979年生)は、高度経済成長期以前の暮らしを振り返り、ナリワイをつくるという方法を提案する。ナリワイとは何か。

「個人レベルではじめられて、自分の時間と健康をマネーと交換するのではなく、やればやるほど頭と体が鍛えられ、技が身につく仕事を『ナリワイ』(生業)と呼ぶ。」

うーん、そんなうまい話があるのか。「私は実験台」と自称する伊藤はすでに実践しているという。都内のシェアアトリエ、京都の一軒貸し宿、モンゴル武者修行ツアー、木造校舎ウエディング、床張り協会、ブロック塀ハンマー解体協会。どれも、たいした稼ぎになりそうにないなあと、つい、つぶやくが、実験台であれば仕方がないか。話を先へすすめよう。

もう一つ、この本が注目される点がある。それは、「人生における支出を点検し、カットする」と、消費社会の暮らしぶりを問うと共に、「ナリワイはみんなでやればもっと楽しい」と、助け合いの仲間づくりを提案するところだ。経済成長への期待を空しく語るのではなく、そうかといって、他人事のように現状に文句をいうのでもない。新しい暮らし方を仲間と一緒にやってみようというのだ。これこそが、この本のキモだ。

伊藤は京都大学大学院修了、ベンチャー企業勤務のあと、フリーランスの記者という経歴の、それなりにパワーのある人だから、少し説得力に欠ける気もするが、この時代の水先案内人のような位置にいるとみればよいのだろう。

この本は、高度経済成長期以降の世代にとって、常日ごろのわだかまりを整理するためにも役に立つ。それにしても「貨幣が一時的にせよ機能停止したときもしのげるようにしておくのが最大のリスクヘッジ」ということばは重い。

石井 タケオ
書評家。教育雑誌、書評専門紙、出版業界誌などで、教育書を中心に本の紹介を続けてきた。“学校”と“本”はメディアとしての共通性を有している。じっさい、近代化の時代には、師範学校教師の下中弥三郎のように、平凡社を創業して日本初の百科事典を刊行するという具合に、二つの世界で活躍した人物がいる。最近はどうだろうか。メディアの語源がメディウム(霊媒)であるにもかかわらず、“学校”と“本”の力が衰弱しているようにみえる。この連載を通して、二つのメディアの力を、あらためて確認したい。