第3回
仕事の細部を聞き取る

『建設業者』


建設知識編集部 編著
エクスナレッジ/本体1,400円+税
更新:2013/02/18

書店に平積みで並ぶ本が、わたしに向かって語りかけてくる気がした。鉄骨鳶から塗師まで37人のインタビューを一気に読んだ。

佐藤豊さんは、生コンを流し込む型枠を組み上げる職人だ。大工になりたくて高校1年で中退、宮城から上京。知り合いの紹介で型枠大工になる。材料の合板を運搬する見習いを6年、別の会社の親方に気に入られて本格的な修業に励む。それが、30歳で会社を移ってレベルの違いを見せつけられる。やっていることは同じなのに、自分が組んだ型枠は、先輩たちの型枠ほどコンクリートがきれいに打ちあがらない。

何かコツがあるのか。悶々としていたときに「そうか、自分は型枠の組み方だけしか知らないんだ」と気づく。ちゃんとした型枠を組もうと思ったら、建物の構造からコンクリートの性質まで全てに精通しなければならないのだ。現場監督に参考書を借りて独学、二級建築士の資格を取るなど知識を増やす。

何かに熱中するうちに壁に突き当たって先が見えなくなる。それが、あるきっかけで一挙に視野がひろがり、次の段階へと飛躍する。学んだり仕事をしたりする人に、ひろく一般性をもつ話だと思う。この本は頁を繰るごとに、こんな印象深い話が続く。

ところで、多種多様な職人が協力する建設業では、気難しい職人は通用しないという。人づきあいのわざが必要とされる。これを何人もの職人が語っている。ただし、このところ盛んに称揚される“コミュニケーション能力”ではない。どこでも役立つというふれこみの能力は、就活の若者を追い詰めるだけだろう。職人の場合は、技能の上達と人づきあいの熟達が結び付いている。この点も見逃せない。

この本に登場するのは、職人の王道を歩いてきた人びとだ。事業所の経営者(親方)も少なくない。今度は、気難しい孤高の職人や、中途半端だが面白味のある職人の話も聞いてみたいと思った。

石井 タケオ
書評家。教育雑誌、書評専門紙、出版業界誌などで、教育書を中心に本の紹介を続けてきた。“学校”と“本”はメディアとしての共通性を有している。じっさい、近代化の時代には、師範学校教師の下中弥三郎のように、平凡社を創業して日本初の百科事典を刊行するという具合に、二つの世界で活躍した人物がいる。最近はどうだろうか。メディアの語源がメディウム(霊媒)であるにもかかわらず、“学校”と“本”の力が衰弱しているようにみえる。この連載を通して、二つのメディアの力を、あらためて確認したい。