第4回
自己責任を、ゆるやかに退ける

『大卒だって無職になる―“はたらく”につまずく若者たち


工藤 啓 著
エンターブレイン/本体1,300円+税
更新:2013/05/07

就活に励む大学生には「大卒だって無職になる」ということばは、他人事ではない、リアリティをもつものだろう。しかし、その親や祖父母の世代の場合は、どうか。大学まで行ったのに、有名大学を卒業したのに、と嘆く声が聞こえてくる気がする。そして問題が単純でないのは、大学生自身が、このような上の世代の意識を内面化しているようにみえることだ。

大卒の就職率は90%を超えるとメディアでは伝えられるが、その実態は65%程度ではないかとの指摘もある。50%を超える大学進学率をみれば、大卒はエリートでも何でもないわけで、昨今の厳しい雇用状況を考えると、むしろその指摘のほうに納得してしまう。

この本は、若者支援の現場から大学生の就職について広く読者に問題提起をするものだ。それも、リアルな大学生の姿にことよせて語るというスタイルだ。有名国立大卒のH君、就活がうまくいかなかったR子さん、合わない仕事で早期離職したI君、仕事ができそうにみえるW君、親孝行したかったY君。このほか何人もの大学生が登場する。企業でバリバリ働く若手社員や若者支援のNPOスタッフが読者とのあいだの中継ぎ役を演じるという工夫もあって、親や教師は、大学生が直面する問題を整理することができるし、当事者の大学生は、自分の姿を少し距離を置いて見つめ直すことができる。

今更ながら日本は不気味な社会だなあと思う。企業社会のモノサシから、ちょっと外れているだけの、人の良い若者が理不尽な扱いを受けている。大学へ進学した者は相対的に恵まれた位置にあるが、その恵まれた環境のなかに、生きる希望を奪われるような過酷な現実が横たわっているのだ。「自己責任」なんてことばをドブに捨てたくなる。

その一方で、この本の背後に、若者支援の仕事の困難さを想像しないではいられない。ここには書かれていないのだが、知恵を絞って懸命に働く若者支援のスタッフは、世俗的な意味で報われることは少ないだろう。未来の社会への希望が、彼ら彼女らを支えているといえるだろうか。

石井 タケオ
いしい たけお

書評家。教育雑誌、書評専門紙、出版業界誌などで、教育書を中心に本の紹介を続けてきた。“学校”と“本”はメディアとしての共通性を有している。 じっさい、近代化の時代には、師範学校教師の下中弥三郎のように、平凡社を創業して日本初の百科事典を刊行するという具合に、二つの世界で活躍した人物がいる。 最近はどうだろうか。メディアの語源がメディウム(霊媒)であるにもかかわらず、“学校”と“本”の力が衰弱しているようにみえる。この連載を通して、二つのメディアの力を、あらためて確認したい。