EYE's Journal

いま知りたい教育関連のテーマについて、ドリコムアイ編集部が取材・調査

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シリーズ1 教員を育てる
Part.13 
レポート⑧
多様な考え方や技術を集積しながら
授業づくりを研究(後編)

特定非営利活動法人「授業づくりネットワーク」
上條 晴夫 代表
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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学級崩壊に対処する
「授業成立プロジェクト」を推進

プロジェクトとしては、2005年度から学級崩壊への対応策を探るため、2年間の期間限定で「授業成立プロジェクト」を推進している。2004年度まで行っていたメールマガジンやメーリングリストでの活動を整理し、このプロジェクトに集約した。

「いくつかのテーマを並行して進めるよりも、1つのテーマに絞り込んだほうがいいのではないかと考えたのです。そこで、2005年度から授業成立プロジェクトを立ち上げ、学級崩壊に対処していくための『授業成立の基礎技術』の集積と研究をめざして活動を開始しました。

学級崩壊は、1997年頃から教育界の大きな問題として表面化し、対応策の決定打が出ないまま現在に至っています。私たちも早くからこの問題に着目して研究をしてきましたが、決定打とか万能薬があるという発想では、この問題に対処できないのではないかと考えています。

そこで、決定打や万能薬を探すのではなく、授業成立に役立ちそうな考え方や方法論を集積しながら授業づくりを見直そうということで、このプロジェクトを始めたのです」

授業成立プロジェクトは、上條代表が中心になって立ち上げたものだが、小学校から大学までの教育関係者で構成する「40人委員会」というシンクタンク的な組織があり、プロジェクトの内容を吟味したり、活動を見守っている。

若手教員向けと一般教員向けのワークショップを開催

プロジェクト活動の中心は2つのワークショップ。1つは若手教員向けの「授業力UP青年塾」、もう1つは一般教員向けの「教師力UPセミナー」だ。

「授業力UP青年塾は、最初に勉強会を3回行い、その後、メーリングリスト内に参加者の集団をつくりました。そして、私たちのほうから雑誌などの原稿を依頼し、参加者が自身の考えや経験などを執筆するかたちで活動を続けてきました。2006年度からは、私たちが運営するのではなく、参加者が主体的に運営するスタイルに切り替えています。

教師力UPセミナーは、隔月で開催しています。授業成立という観点から、現場で注目を集めているような先生、ぜひ知ってほしい先生などをお呼びして、参加者を対象にした模擬授業と質問会を行っています。これは、体験を通して学ぶことと質問をして学ぶことを重視しているからで、質問時間は最低でも30分ぐらいは設けるようにしています」

4つの柱を中心に
授業を成立させる基礎技術を探る

2005年度の活動内容を踏まえ、今年初めには授業成立プロジェクトの中間まとめを行った。その結果、4つの柱を中心に授業成立について研究していくことになった。

「1つは診断系の教育技術です。これは、どういうふうに子どもを見守り、理解するかという技術体系のことです。

2つ目は、活動中心の授業、参加体験のある授業です。これまでは、先生の説明と子どもたちへの質問で授業を進めることが多く、子どもたちは受け身になりがちでした。そうならないように、参加体験のある授業、活動を中心とした授業を研究しようということです。

3つ目は『ミニネタ』と呼んでいますが、子どもたちが飽きてきたようなとき、刺激を与えたり、興味を起こさせるような方法や教材の研究開発を進めていきます(具体的には笑いや突然の音など)。

4つ目は、特別支援教育。少し前まで特殊教育といわれていたものです。文部科学省の調査では、特別支援教育が必要かもしれないグレーゾーンの子どもが各教室に約6%ぐらいいるという報告もあります。その数字が本当かは分かりませんが、考えることがちょっと苦手だったりする子どもを飽きさせないで授業に巻き込んでいくという発想は大切だと思います。ですから、授業成立を意識した特別支援教育を考えてみようということです」

2006年度の授業成立プロジェクトは、4つの柱をベースにしながら進めていて、夏の全国大会も4つの柱に沿って数多くの講座(模擬授業やディスカッション)を開く計画だ。また、そうした活動のなかから書籍にまとめられるものは書籍化する。すでに「ミニネタ」関連の書籍を4冊発行していて、来年3月までに、さらに10冊ぐらいの書籍をつくっていく計画だ。

上條代表は、授業成立プロジェクトが「現場の先生たちの興味と関心を引きつけた」という手応えを感じ取っている。たとえば、月刊雑誌では授業成立プロジェクトに関する特集を継続的に組んでいるが、購読部数が増加傾向にある。また、研究会の参加者も増えてきた。

授業成立プロジェクトは2年間の期間限定だが、反響がさらに広がりを見せるなら2007年度以降、新たな展開を図っていく可能性もあるという。このプロジェクトを通して、授業成立のために、どのような考え方や技術が集積され、現場で実践されていくのか、大いに注目される。

上條 晴夫(かみじょう・はるお)

[プロフィール]
非営利特定活動法人「授業づくりネットワーク」代表。東北福祉大学助教授。教育ライター・ディベートトレーナー。1957年、山梨県生まれ。山梨大学教育学部卒業。小学校教員、児童ノンフィクション作家を経て教育ライターとなる。主な著書に『さんま大先生に学ぶ-子どもは笑わせるに限る』(フジテレビ出版)『子どものやる気と集中力を引き出す授業30のコツ』(学事出版)『総合的学習の教育技術-調べ学習のコツと作文的方法-』(健学社)などがある。

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