EYE's Journal

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2-1

シリーズ2 高校のインターンシップを考える
Part.1 
文部科学省インタビュー
インターンシップを通じて生徒の目的意識を引き出す

文部科学省 初等中等教育局児童生徒課指導調査係
浜谷 貢 係長
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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大学ではすっかり定着しているインターンシップ。高校でもここ数年、その実施率が急速に高まっている。しかし、インターンシップの位置づけや実施システムがある程度明確になっている大学に比べて、高校の場合はまだ手探りで進んでいる部分も少なくない。
そこで、EYE's Journalの第2シリーズとして、高校におけるインターンシップの実状や課題を探っていく。第1回目は文部科学省の初等中等教育局児童生徒課・浜谷貢係長に、高校段階でのインターンシップの意義、文部科学省の施策などについて話をうかがった。

高校のインターンシップ実施率は約60%に

▲浜谷 貢 係長

――高校におけるインターンシップの実施状況を教えていただけますか。

「平成16年度の時点で、公立の全日制高校全体で見ると実施率は59.7%になっています。学科別に見ると、農業、工業、商業など職業に関する学科では実施率が80%を超えています。

一方、普通科は45.1%と、まだ半数弱にとどまっていますが、平成11年度はひと桁の実施率だったことを考えると、ここ4~5年で急速に広まってきています」

――高校の段階でインターンシップを実施する意義については、どのようにお考えですか。

「現在、ニートと呼ばれる人が約64万人いると推計されています。その数はここ数年横ばいのまま推移しています。また、“七五三”といわれたりしていますが、中学校卒業者の7割、高校卒業者の5割、大学卒業者の3割が、就職して3年以内に離職しています。離職してもほかの職業に就くのならいいのですが、そのままニート状態になってしまうこともあるようです。

こうした問題にはいろいろな背景があるでしょうが、目的意識を持たないまま進学して、卒業後も、何をしたらいいのか目的が持てない人が増えているのではないかと考えられます。そういった意味では、子どもたちに早い段階から職業観、勤労観を身につけさせ、主体的に自分の進路を選択できるようにすることが非常に重要です。

そのため、文部科学省としても、キャリア教育の推進に力を入れて取組を行っています。なかでもインターンシップは、体験的な活動を通じて、仕事をするというのはどういうことなのかを知ったり、自分が思い描いていた仕事のイメージと現実との一致やギャップを確認することができます。また、何らかの職業に関心が生まれることもあるでしょう。そういう経験をすることによって、自分の将来について目的意識がはっきりしたり、学習意欲が湧いてきたりする。そこに、インターンシップの意義があると思います。

逆にいうと、そういう意義を事前指導などによって生徒にきちんと理解させたうえでインターンシップを実施することが重要になります。そうでなければ、いくら実施率が上がっても内容を伴わないものになりかねません」

図表1 全日制高等学校のインターンシップ実施状況

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コミュニケーション能力や
課題解決能力が身につく

――将来に対する目的意識に加えて、生徒はインターンシップでどのようなことを身につけることができるとお考えですか。

「2004年1月に公表された『キャリア教育の推進に関する総合的調査研究協力者会議報告書』のなかに、キャリア教育で育成すべき能力として4領域8能力(人間関係形成能力の領域=自他の理解能力、コミュニケーション能力。情報活用能力の領域=情報収集・探索能力、職業理解能力。将来設計能力の領域=役割把握・認識能力、計画実行能力。意志決定能力の領域=選択能力、課題解決能力)が例示されていますが、インターンシップ等の活動は職場で体験的な活動をするわけですから、これらの能力を身につけるのにとても有効です。

例えば、コミュニケーション能力の場合、朝の挨拶から始まって、仕事上のやりとりなどコミュニケーションを図ることが必須のとなります。しかも、それは異年齢の方とのコミュニケーションになります。学校のように、同年齢同士又は限られた年齢差で話が通じればいいというわけにはいきませんから、言葉を整理して相手に伝え、相手の話を理解するという能力が身につくと思います。

それから、仕事上でわからないことが出てきたり、何らかの判断をする必要性が出てきたりすることもあるでしょう。どうしたらいいかを最終的に職場の人に教えてもらうにしても、そういう課程の経験は課題解決能力を育てることにもつながるのではないでしょうか」

図表2 キャリア教育で育成する4領域8能力

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学校現場でも試行錯誤しながら
壁を乗り越えている段階

――高校のインターンシップは、受入先の確保が難しいといった問題もあるようですが。

「業種や企業規模などによっては、受け入れが難しい場合もあるでしょうね。また、17年度から中学生を中心に5日間の職場体験を行う『キャリア・スタート・ウィーク』という事業を実施しているのですが、その事業を始めるにあたって企業団体を回ったとき、ある団体から指摘されたことがあります。それは、中学校の職場体験にしても高校のインターンシップにしても、生徒にどのような資質や能力を身につけさせることを目的にして、何をやらせたらいいのかについて学校側から明確な説明がないケースがあるということです。

今まで学校教育は基本的に学校内で完結していましたから、外部の企業などと連携しながらインターンシップを実施していく方法については試行錯誤の部分もあるのだろうと思います。いまは、様々な壁にぶつかりながら、それを1つひとつ乗り越えている段階といえるでしょう」

――インターシップの成果については、どのように見ていますか。

「成果については短いスパンと長いスパンの両面で考える必要があります。

短いスパンでいえば、インターンシップを経験した生徒から『将来の職業像が曖昧だったけれど、自分のやりたいことが少しは見えてきた』とか『仕事に就くうえで自分に足りないものがわかった』といった声が出ていますので、そういう場合は一定の成果を上げているといえるでしょう。そういう声がなかなか出てこない場合には、事前指導や事後指導要領を見直し、充実させる必要があると思います。

長いスパンで見ると、高校でインターンシップを経験した生徒たちが社会に出て、ニートや早期離職者が減るかどうかがポイントになります。減少傾向に転じていくようなら結果として成果が上がったということになるでしょうし、減らなければインターンシップについても別な手法など改善策を考えないといけないでしょうね」

19年度には高校に焦点をあてた
新たな施策の可能性も

――高校のインターンシップに関連する文部科学省の施策としては、どのようなものがありますか。

「16年度から18年度まで、新キャリア教育プラン推進事業を行っています。その事業では、キャリア教育推進地域を指定して、小・中・高で一貫したキャリア教育の指導プログラムを開発しています。指定地域は全国で48あり、学校だけでなく地域の産業界、行政機関、PTAなどの協力も得ながら事業に取り組んでいます。また、昨年11月には『キャリア・スタート・ウィーク連絡協議会』を開催して、職場での体験活動の普及啓発にも取り組んでいます」

――19年度予算の概算要求に向けた準備を進めていると思うのですが、新しい事業の計画などはありますか。

「具体的にはまだ何も決まっているわけではありませんが、高校のキャリア教育をどうするかということに焦点をあてた事業を新規施策として要求していきたいと思っています。高校のなかでもとくに普通科ですね。

冒頭でもお話ししたように、目的意識があいまいなまま進学することが指摘されていますから、目的意識を持たせるためにはどういった指導が必要なのかを考える必要があります。

また、普通科のキャリア教育を充実させるためには、小中学校でキャリア教育の基礎基本をどのように身につけさせるかがポイントになります。一方で、高校卒業後の進学先や就職先との連携も重要になってくるでしょう。そのため、高校を中心として、その前後の関係についても検討していきたいと思っています」

各高校の特色を踏まえながら
生徒に適したインターンシップを

――今後、各高校がインターンシップを充実させていくための方策のようなものはあるでしょうか。

「それは高校によって異なると思います。各高校にはそれぞれの教育目標や指導計画があり、校風や地域性というものもあります。つまり高校ごとに特色があるわけです。したがって、それぞれの高校の特色を踏まえながら、生徒にとってどのようにインターンシップで実施することが望ましいのかを考えていくことが大切です。

私どもとしては、たとえば事例を蓄積して、1年生で実施する場合、大規模校の場合、小規模校の場合などを紹介することはできますが、そういう事例だけが正しいというものでもありません。目標があって、それに向かっているのなら、いろいろなやり方があっていいはずですから、各高校ごとに工夫していただくことが重要になります。私どもはインターンシップの周知や普及啓発に努めますし、現場の先生方にも頑張っていただいて、切磋琢磨しながらインターンシップを推進していきたいと考えています」

図表3 公立高等学校のインターンシップ実施状況

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図表4 公立高等学校におけるインターンシップ体験日数

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