シリーズ5

忙しい先生の業務効率化と円滑な学校運営
Part.4 学校教員の負担を考える②

生徒と向き合えない教育現場


教育ジャーナリスト・田中俊亘
※組織名称、施策、役職名などは取材当時のものです
更新:2008/04/14
人はなぜ働くのか。もちろん、生活のために違いないが、何年も何十年も働き続けるには、給与だけでなく、やりがいや生きがいといった喜びも必要だろう。退職者や精神性疾患による休職者の増加は、学校という職場から喜びが失われつつあることを物語っているのではないだろうか。

「調査」の対応に追われる先生たち

Part.1で見たとおり、学校は教員の時間外勤務で成り立っている。しかし、学習指導や生活指導、あるいは部活動や行事の進行といった業務が、近年とくに増えたという話は聞こえてこない。おそらく教員は、これまでも、こういった業務に多くの時間を割いてきたはずだ。

教員は、いったい何に負担を感じているのだろうか。

「事務仕事に追われて、教員としての本来の業務に手が回らないという報告があります」

こう話すのは、神奈川県の高校で社会科教員を務め、いまは神奈川県高等学校教職員組合の専従として書記次長を務める佐藤治氏である。

佐藤氏がいう事務仕事とは、文部科学省や国立教育政策研究所、あるいは都道府県の教育委員会などが行う、たとえば「学校基本調査」などに向けた学校単位の集計や報告のことだ。こういった調査は学校長に依頼され、学校長から担当の教員にわたる。担当教員は期日までに報告書を作成し、管理職の決済を得なければならない。県議会等に教育関連の議題がのぼり、その資料に必要な基礎データを学校に求めてくるケースもあるという。

「文科省や教育委員会が教育の現状把握に務めるのは当然のことです。そのために基礎データが必要なことも承知しています。しかし、なかにはこれがいったい何の役に立つのかわからない、そんな調査報告が求められたり、複数の機関から同様の調査報告を依頼したりしてくる場合がある」

それがどこでどう必要なデータなのかがわかっていれば、調査の方法や報告のあり方を工夫することもできる。あるいは教育の改善に欠かせない基礎データであることが理解できれば、教育者としてのプライドは保たれる。何の役に立つのかわからないままでは、授業準備など、本来の職務を後回しにしてまで取り組むことなのか、疑問を抱くに違いない。

複数の機関からの同様の調査とは、たとえば文部科学省と厚生労働省が、就職にまつわる調査報告をそれぞれに求めてくるといった場合だ。

「観点評価」にまつわる対応も
先生の負担に

また、神奈川県で2007年度からすべての高校に導入された観点別評価にまつわる対応も、教員の負担に拍車をかけているという。

「授業の進め方や評価の観点を教員同士で共有し、生徒にも公表しなければなりません。それには決して少なくない時間が必要です。けれど問題は、それにともなってつくったシラバスについて、管理職の判断を仰がなければならないことです。

教員は生徒の実情に照らした授業や評価を考えますが、観点別評価のすべてを等しく網羅していないなどの理由で、それが否定される場合がある。生徒の実情を汲んだ工夫が生かせないことに、教員は大きなストレスを感じているはずです」

入学試験がある以上、高校によって入学してくる生徒の学力が違うのは当然だ。そんな生徒の実情に照らして、限られた時間を有効に使えるように授業を工夫するのが、教員の務めであり、やりがいに違いない。しかし、それが否定されるのだとすると、教員は、教育現場の当事者でありながら、疎外感さえ感じているのではないだろうか。

「学習指導や生活指導など、その相手が生徒であれば、どんなに忙しい思いをしても、教員はその職務にやりがいを感じるものです。ところが、それができない学校の実情がある。職員室に相談にやってきた生徒が、先生は忙しそうだからと遠慮して帰ってしまった、こんな話もあるくらいです」

いじめや学力の低下などの教育問題が論議を呼ぶのは、学校や教育が、だれにとっても通ってきた道であるからに違いない。それが世論となり、ときには政治が動き、新たな施策が生まれる。そして学校と教員はその対応に追われ、生徒と向き合う時間さえも奪われる。

教育の再生や教員の質の向上を語るのなら、教員に生徒と向き合える時間を与え、教育のプロとしての尊厳を回復させることが先決なのではないだろうか。

〔資料出所:文部科学省「教員勤務実態調査(高等学校)報告書」(平成19年度)〕

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