EYE's Journal

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6-2

シリーズ6 リメディアル教育の現場
Part.2 
大学の取り組みを探る①【明星大学】
専用組織(学習支援センター)を設けて学生に対応している例

明星大学 学生支援センター
課長補佐 村山 光子 氏
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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高校までの学習内容を補習する「リメディアル教育」は、実際にはどのようなかたちで行われているのか。当シリーズPart.2では、専用組織(学生支援センターなど)による対応、授業への組み込み、通学制の入学前教育、自宅学習型の入学前教育という代表的な4つのパターンについて、具体的な取り組みを紹介する。
明星大学(東京都)は、学生支援センターでリメディアル授業を開講している。授業は月曜日から金曜日まであり、学生は個人指導で学ぶことができる。センター開設当初から、リメディアル授業を推進してきた村山光子課長補佐に、センター開設の経緯、授業内容、利用状況、教員との連携などについて話を伺った。

授業でつまずく学生を支援するため
センターを開設

▲村山 光子 氏

明星大学は2005年4月、「学習支援センター」と「学生生活・キャリア支援センター」という2つのセンターを、学生が訪れる機会の多い大学会館の中にオープンした。従来は、教務課、学生課、就職課などがそれぞれ学生を支援していただが、組織の壁を取り払い、垣根を低くして学生を支援する目的で新設したものだ。

このうち学生支援センターは、リメディアル授業を行うことを主目的としているが、同センター開設の経緯について、村山光子課長補佐は次のように話す。

「当時は、大学全入時代に向かう中で、推薦入試やAO入試など学力試験のない入試で入学する学生が増えてきていました。その結果、いざ入学しても、自分が苦手としていた科目をそのままにしていたため、大学の授業についていけない、単位が取れないといった問題を抱える学生が目につくようになりました。これは、そのままにしておくと進級率の低下や離籍率(退学率)の増加という深刻な問題につながっていきます。

明星大学では、入学した学生には、4年間で卒業して社会で活躍して欲しいという強い願いを持っています。そこで、学習面を重点的に支援するため、事務局内に、教務課、学生課、就職課などとは別の、独立した組織として学生支援センターを開設することにしたのです」

曜日ごとに2~3科目を開講し 
学生はいつでも学べる

学生支援センターの学習支援は、個人指導によるリメディアル授業が中心となる。開講している科目は、英語、数学、物理、小論文の4科目。開講日は月曜から金曜まで毎日で、たとえば月曜日は英語と物理というように、曜日ごとに開講科目を決めている。開講時間は9時~17時55分。

通常は各科目1人(曜日・科目によっては2人)の講師が常駐しているので、利用したい学生は開講時間ならいつでも受講できる。予約などは不要だ。

予備校の講師が常駐し臨機応変に対応

「講師は予備校の先生にお願いしています。英語と数学が1人ずつ、物理と論文が2人ずつ計6人です。基本的には専門の科目を担当するのですが、オールマイティな先生が多くて、物理の先生が数学を教えたり、論文の先生が英語や数学を教えたりすることもできます。ですから、英語と物理を開講している日に数学を教えてもらいたいという学生が来たときなども臨機応変に対応しています。

メンバーは開講当初からずっと同じで学生との関係もすごく良好です。ですから、本学の教員だと思っている学生もいるかもしれませんね」

授業は個人指導だが、数名の学生が同時間帯に来ても順番待ちをするようなことはない。学生はプリント、参考書、問題集などを使って勉強を進め、講師は学生の様子を見ながら随時、質問に答えたり、問題の解き方を教えたり、回答をチェックしたりしていく。ただ、訪れる学生が多くなる曜日や科目があるので、そのときは1科目2人の講師が指導するようになっている。

資格取得や大学院進学など
多様なニーズにも対応

また、センターでは、資格取得や大学院進学、就職などのための学習支援にも対応していて、学習支援の内容は幅広いものになっている。そのため、学生のニーズの把握も重要になる。

「初めて来た学生には、講師や私たちスタッフがまず話を聞きます。学生ごとに、1つの問題を解きたい、長いスパンで英語の力を伸ばしたい、資格を取りたい、大学院に行きたいなど、ニーズはさまざまですから、それを確認した上でどのように学習を進めるといいか考えます。学習面だけではなく、生活面でのケアが必要な場合もありますから、講師の先生方と情報を共有しながら、必要な支援を行っていくようにしています」

さまざまな機会を利用して周知を図り
教員との協力関係も築く

今では多様なニーズに対応している学習支援センターだが、軌道に乗せるのは簡単なことではなかった。

「立ち上げ当初は、なかなか学生が来てくれなくて。何とかして学生に来てもらうための活動に時間を費やす感じでしたね。たとえば、昼休みなどにはビラ配りをしました。先生方には、授業の最初の10分間でもいいから時間をくださいとお願いして授業に出かけ、学生に支援センターの利用方法を説明しました。そうした活動を通じて、1年目の後半くらいから、少しずつ先生方と協力関係を築けるようになり、たとえば一定レベル以上の数学力が必要な学科などでは、先生方から学生にセンターで勉強することを推薦していただけるようになりました」

2年目からは、センターのスタッフが新入生のオリエンテーションでも、センターについて説明するようになった。また、1年生の必修科目「自立と体験」(フィールドワークなど多彩な実践型授業を行う)の授業のうち1回分をセンターが使えるようにしてもらい、スタッフがセンターの利用方法だけでなく、大学4年間の過ごし方、大学で学ぶ意味などについて授業をするようになった。

また、2つのセンターとも設立以来、学生の目線で支援業務を行った。対人関係に慣れていない学生が多く、窓口に来た学生への対応を間違えると二度と来なくなるので、センターを明るい雰囲気にし、スタッフは笑顔で対応した。

こうしたさまざまな努力によって、センターの認知度は徐々に高まり、利用者も増えていった。

学習と生活の両面から学生支援を進める

▲学生支援センターのフリースペース(リメディアル授業、自習、学生の交流など多目的に使われる)

2008年には、学習支援センターと学生生活・キャリア支援センターを一本化。名称を「学生支援センター」に改めた。

「学習支援センターを開設して動き出してみると、学習面と生活面は切り離せないことがよくわかりました。学習面で難しい状況にある学生といろいろ話をすると、単に勉強ができないのではなく、実は対人関係に問題があったり、大学で学ぶことや自分のキャリアに対する目的意識を持てなかったりして、学ぶ意欲が低下している場合があるのです。逆に、生活面での問題を解決することで、学習意欲が高まることもあります。

それにもともと2つのセンターは、学生支援のワンストップ・サービスを念頭に置いて同じ場所で立ち上げたものですから、1つの組織にして総合的に学生を支援していくことにしたのです」

教員との協力関係が深まり 
双方で学生を支援

センターの学習支援については、教員の認知度や評価が高まり、前述したように教員との協力関係を築いているが、最近ではより緊密に連携するようになっている。

「先生方からいろいろな情報がセンターに集まってくるようになりました。一方で、私たちも先生方のFD(ファカルティ・ディベロップメント:註参照)研修などに呼ばれて、お話しさせていただくこともあります。

個別の学生についても、長期欠席を繰り返しているとか、再履修科目の単位を落としているといった情報をいただくことがあります。そういうときは、リメディアル授業ではこう対応して、学科のほうではこう対応するというように、双方で学生の支援を進めるようになってきました」

2008年度の利用者は毎月1,000人を突破

▲学生支援センターのリメディアル教室

講師の手厚く親切な指導、教員との連携強化などによって、リメディアル授業の利用者は年々増加。2008年度は4月1,017人、5月1,133人、6月1,049人、7月1,099人で、各月とも実績で1,000人を越えるまでになった(学生支援センターのある日野校の学生数は6,500人)。

また、利用者の学年別内訳を2007年度1年間で見ると、1年次47%、2年次12%、3年次17%、4年次7%、5年次以上2%、大学院生2%、その他(入学前教育での利用など)13%となっている。

リメディアル授業利用者の科目別比率は、2007年度1年間で見ると、数学57%、英語17%、物理7%、論文19%で、数学の多さが目立っている。

数学が多い理由は、同大学の学部のうち、理工学部で必須になるのはもちろん、情報学部でも重要であり、人文学部の中でも心理学や社会学は統計で数字を使い、経済学部の経済学や経営学でも必要になるからだ。また、問題を解き、教えてもらうことを繰り返さないと力が定着しないという科目の性格も関係している。

センターでの丁寧な指導で自信をつける学生が増加

センターの学習支援は4年目の半ばを迎えたところだが、村山課長補佐は一定の手応えを感じている。

「センターでは、学生1人ひとりを丁寧に指導して、自信をつけさせることが可能なのではないかと思っています。実際、『きちんと勉強すれば分かるようになるし、分かるようになると勉強がおもしろくなる』と感じる学生が増えてきているのです。

センターで学ぶことは小さなステップかもしれませんが、それを積み重ねることで自信をつけていく学生をたくさん見てきました。やはり、こういう地道な取り組みが本当に大事なんだなと実感しています」

利用者の増加を見据え 
より充実した支援を行う

このように、センターの活動は軌道に乗ってきたが、村山課長補佐はすでに次の段階を見据えている。

「利用者数が伸びていますので、それを踏まえて少しずつ見直していくことが必要です。たとえば、内容的に多くの学部学科で必要とされるものは共通の教材を開発することを考えてもいいかもしれません。それから、個別指導がベースであることは変わりませんが、ある程度の集団での授業が可能かどうかも検討していきたいと思います。

学生支援にどれだけ力を入れているかは、大学の評価にもつながってくることですから、今後も、教員や関係各部署との情報共有や連携を密にして、大学全体として支援を充実させていきたいですね」

[註]FD(ファカルティ・ディベロップメント)は、大学教員の教育内容・方法の改善のために、大学全体あるいは学部・学科全体で行う組織的な研修・研究のこと。1999年に大学設置基準で、大学にはFDを行う努力義務があると規定された。

学生支援センター利用者の声

▲立石 理恵さん

大学院進学のため英語を楽しく学んでいます

明星大学 人文学部心理教育学科
心理学専修4年 立石 理恵さん

私は、大学院進学のために3年生の6月から学生支援センターで英語を教えてもらっています。大学院は、入試でも入学後もしっかりした英語力が必要ですが、どんなふうに勉強したらいいのか分からなくて困っていました。そんなとき、先輩からセンターでは大学院向けの指導もしてくれると聞き、センターで勉強することにしました。

勉強を始めてみると、すごくやりやすかったですね。時間が自由なので空いた時間を見つけて自分のペースで勉強することができました。先生は、とても親切に指導してくださり、英語ってこんなに楽しいんだと思えるようになりました。

教材も、自分で持っていってもいいし、先生のほうでも用意してくださるので、文法や構文の問題集から、いろいろな大学院の過去問などまで幅広く勉強することができました。

大学院進学後も、長文をもっと読みこなせるようになりたいし、センターで勉強するのはとても楽しいので、まだまだ勉強を続けていくつもりです。

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