シリーズ10

ゆれるAO入試
Part.1 教育力が問われる入試制度(前編)


編集部
更新:2010/08/30
AO入試がゆれています。この10年ほどの間に急速に導入校を増やし、学力検査に頼らない入試方法で新たな入学者層を開拓してきたAO入試でしたが、入学者の基礎学力不足を指摘する声が大学内からも聞かれるようになり、廃止する大学も出はじめました。その一方で、「入学前教育」などで基礎学力や学ぶ意欲の向上に努める大学もあります。これからのAO入試は、入試方法だけでなく、大学教育に導くフォローアップとセットで語る必要がありそうです。

入試方法の要項を変更
願書受付は8月以降に

毎年5月、文部科学省は翌年度入試の基本的ルールや指針を記した「大学入学者選抜実施要項」を、全国の国公私立大学長に通知する。「平成23年度大学入学者選抜実施要項(通知)」の日付も5月21日と例年どおり。しかし、新たな事項の追加などが少なくないため、その1年以上前に、主な変更箇所をダイジェストした「変更予定について」が事前通知されていた。

主な追加や変更はAO入試にまつわるものだった。これまで「学力検査を課さない場合は、(指定の)試験期日(2月1日〜4月15日)によることを要しない」と大学の自由裁量に委ねられてきたことで、早期化を招き「青田買い」との批判もあったAO入試の実施期間に、「入学願書受付を平成22年8月1日以降とする」との縛りが加わった。また、その入試方法についても一定の基準を提示。平成22年度要項と比べてみよう。

〈「22年度要項」のAO入試方法に関する記述〉

①入学志願者自らの意志で出願できる公募制とすること。
②求める学生像や入学志願者に求める能力・適性等を明確にし、それに応じた入試方法の工夫・改善に努めること。
③学力検査に過度に重点を置いた選抜基準とせず、入学志願者の能力、適性、意欲、関心等を多面的、総合的に評価すること。
④入学手続きをとった者に対しては、これらの者の出身高等学校と協力しつつ入学までに取り組むべき課題を課すなど、入学後の学習のための準備をあらかじめ用意しておくこと。

〈「23年度要項」のAO入試方法に関する記述〉

①入学志願者自らの意志で出願できる公募制とすること。
②アドミッション・オフィス入試の趣旨に鑑み、知識・技能の修得状況に過度に重点を置いた選抜基準とせず、合否判定に当たっては、入学志願者の能力、適性、意欲、関心等を多面的、総合的に判定すること。
③大学教育を受けるために必要な基礎学力の状況を把握するため、以下のア〜エのうち少なくとも1つを行い、その旨を募集要項に明記すること。

ア 各大学が実施する検査(筆記、実技、面接等)による検査の成績を合否判定に用いる。
イ 大学入試センター試験の成績を出願要件(出願の目安)や合否判定に用いる。
ウ 資格・検定試験などの成績等を出願要件(出願の目安)や合否判定に用いる。
エ 高等学校の教科の評定平均値を出願要件(出願の目安)や合否判定に用いる。

④ ③ア〜ウを行うにあっては、③エと組み合わせるなど調査書を積極的に活用することが望ましい。

学力検査に慎重だった22年度までの姿勢を一転させ、23年度要項では「基礎学力の状況を把握する」入試の実施を要求。その手段として「検査」「センター試験」「資格・検定」「評定平均値」を提示して、「少なくとも1つ」の実行と「出願要件や合否判定」への活用を求めている。

能力、適性、意欲、関心の判定と
基礎学力の判定はリンクしない?

平成23年度入試から、AO入試には「8月以降の願書受付」「基礎学力の把握に向けた入試方法」のルールが適用される。これらが「青田買い」との批判を招いてきた早すぎる試験日程や、(大学によっては)一般入試入学者に比べて劣るとされる学力の改善に向けた措置であることは、平成20年12月の中央教育審議会答申『学士課程教育の構築に向けて』がうたっている。

推薦入試・AO入試等について、調査書を有効活用するとともに、これらを補完する学力把握措置を講ずるように促す。AO入試の実施時期については、青田買いの批判を受けないよう、実施時期のルール化を図る。
(答申「国によって行われるべき支援・取組」から)

しかし、その効果のほどは疑問だ。願書受付時期に基準を設けたといっても8月。高校3年の課程を半分もクリアしていない。それにAO入試は、必ずしも出願から始まるわけではない。22年度入試を振り返ると、出願前にエントリーを求め、面談等による事実上の選考を行い、のちの出願によって入学意志を確認する、そんな大学もあった。しかも最も早かったエントリー受付のスタートは、8月どころか4月である。青田買い批判への対処をめざすのなら、出願時期だけにスポットをあてても不十分だ。

むしろ8月と明記したことで、それが「お墨付き」となってしまうのではないかと心配される。事前エントリーを求めず、9月以降の出願で選考を行ってきた大学は決して少なくない。それらが総じて8月出願で足並みをそろえるようなことになれば、AO入試は一層早期化した印象を与えるだろう。

また、「大学教育を受けるために必要な基礎学力の状況を把握する」といっても、その判定材料として明文化された「筆記、実技、面接等」「大学入試センター試験」「資格・検定試験など」「教科の評定平均値」は、どれもすでに取り入れられているものばかりだ。AO入試であっても、その「少なくとも1つ」さえも用いることなく入学者を募る大学などないといっていい。必要なのは、これらを用いた「能力、適性、意欲、関心等」の多面的で総合的な判定と、大学教育を受けるために必要な基礎学力の判定は、必ずしもリンクするわけではないと認めることではないだろうか。

推薦入試と合わせると
5割を超える入学者数

AO入試を廃止する大学も出はじめている。2008年度には鳥取大工学部の一部学科が、2009年度には秋田県立大システム科学技術学部の一部学科や、一橋大商学部、筑波大国際総合学類が廃止。2010年度には入学者の「成績不良」を主な理由に廃止した九州大法学部が話題になった。そして2011年度からは北海道大教育・経済・薬・農の各学部や同志社大文・心理の両学部などが廃止を表明している。

その一方で、AO入試や推薦入試などによる早期合格者を対象に、入学手続きから入学までの期間に課題を与えるなどして、基礎学力の補完や学ぶ意欲の維持に向けた「入学前教育」を実践する大学も増える傾向にある。

平成20年度の入試方法別入学者数は一般入試33万3,416人、推薦入試21万1,045人、AO入試4万7,781人(文部科学省大学入試室調べ)。

グラフ-1に見るとおり、年々シェアを狭める一般入試での入学者に対して、AO入試のそれは拡大傾向にあり、私立大学における割合は10%に近い(グラフ-2)。

同じく「原則として学力検査を免除」した選抜方法で、年越しを待たずに多くの合格者が決定する推薦入試と合わせると、入学者数はすでに一般入試を超えている。

「平成23年度大学入学者選抜実施要項」に加わったAO入試にまつわる事項が、1年以上前の予告を必要とするほど大きな変更だったにもかかわらず、その実、現状追認的でいまひとつ歯切れが悪いのは、既存のAO入試が、一部の大学にとって欠かせない入試方法となっているからかもしれない。

5割を超える大学進学率、そして少子化や競合校の増加で入学者層が広がり、その教育力が問われる大学……後編ではAO入試合格者を対象とした入学前教育にスポットあてる。

〔資料出所:文部科学省 大学入試室〕

〔資料出所:文部科学省 大学入試室〕

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