EYE's Journal

いま知りたい教育関連のテーマについて、ドリコムアイ編集部が取材・調査

24-1

シリーズ24 動き出した大学ポートレート
Part.1
学ぶ内容や学び方で検索できる
大学選びの新たなツールに(前編)

独立行政法人大学評価・学位授与機構 大学ポートレートセンター事務室長
小山田 享史(おやまだ・りょうじ)
日本私立学校振興・共済事業団 私学経営情報センター長
谷地 明弘(やち・あきひろ)
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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大学・短期大学の教育情報を活用・公表するための「大学ポートレート」が動き始めた。進学希望者や高校などに向けた「公表」の部分を中心に、しくみや利用するメリットなどについて、大学ポートレートセンター事務室長の小山田享史氏と日本私立学校振興・共済事業団の谷地明弘氏に話を伺った。

教育情報を受験生などに公表し
大学の教育改善にも活用

▲小山田氏(写真左)、谷地氏

大学ポートレートは、大学(短期大学含む。以下同)の教育情報をデータベースに登録し、進学希望者や保護者、高校の進路指導担当教員などを対象に公表するとともに、大学がその情報を教育改善に活用するための統一的なシステム。なぜ、こうしたシステムを構築することになったのか。小山田氏は次のように説明する。

「グローバル化や少子高齢化など、わが国を取り巻く状況が大きく変化するなかで、大学は社会が求める人材を養成しているのかという目が向けられるようになりました。当然、各大学は教育改革に取り組んできたのですが、情報発信が充分でなく、教育改革の取り組みが社会に伝わりにくい面もあったといわれています。

そういったことも踏まえて文部科学省は、大学の可視化を進める制度改正を行ってきました。2007年の学校教育法の改正で、教育研究活動の公表が義務化され、2011年には学校教育法施行規則の改正で、大学が公表すべき情報として9つの項目が示されました。

ただ、各大学のとらえ方によって、公表する情報の内容や細かさなどが異なることもあります。あるいはホームページで公表しても、その情報がどこに載っているのかわかりにくいケースも考えられます。そこで、ある程度統一されたスタイルで情報を公表するシステムが必要になってきたのです」

公表を義務づけられた情報や
関心が高い情報などを提供

このため、文部科学省は2011年5月に「大学における教育情報の活用支援と公表の促進に関する協力者会議」を設置。同年8月、同会議は「中間まとめ」で基本的な方向を提言した。そして、2012年2月に「大学ポートレート(仮称)準備委員会」が発足。より具体的な検討が進められ、2014年度中に大学ポートレートを稼働させることになった。

「大学ポートレートへの参加は各大学の任意です。公表する情報は、学校教育法施行規則で公表が義務づけられた情報、認証評価など外部評価の情報、大学進学希望者や保護者等の関心が高い情報、大学の特色がわかる情報となりました(後述)。数値だけでなく図やグラフでわかりやすくすること、画一的なランキングにならないように1大学ごとのページビュー形式にすることなども決まりました」(小山田氏)

私学のデータベースと連携し
国公私立の大学の情報が閲覧可能

大学ポートレートは、準備委員会の後継組織である「大学ポートレート運営会議」が運営方針を審議し、大学評価・学位授与機構に置かれた「大学ポートレートセンター」が実施組織としてシステムを運用する。

大学ポートレートで公表される情報は、国公立大は大学ポートレートセンターに設置されているデータベースに登録する。私立大の情報はまず日本私立学校振興・共済事業団のデータベースに登録される。事業団には毎年実施している「学校法人基礎調査」のデータベースがあるので、それを活用する。データベース同士はつながっていて、利用者は大学ポートレートのウェブサイトにアクセスすれば、国公立の情報も私立の情報も閲覧することができるしくみが作られている。

参加は国立大100%、公立大73%、私立大88%

私立大は昨年(2014年)10月6日に「大学ポートレート(私学版)」をオープンしていて、国公立大は今年1月中にオープンする予定だ。現時点(取材時の12月初旬)での参加状況はどうなっているのだろうか。

「今年度については、国立大学は100%参加します。公立大学は約73%、公立短期大学は約64%が参加することになっていて、まだ保留中のところや今年度は見送るというところもあります」(小山田氏)

「私立大学は、12月1日時点で、全国600校のうち530校が参加していて参加率は88.3%。私立短期大学は全国322校のうち274校が参加していて参加率は85.1%となっています。10月6日のオープン時より少しずつ増えてきていますね」(谷地氏)

参加は各大学の任意ではあるものの、小山田氏は「理想は全大学での情報発信。現時点で不参加の大学にも、この事業へのご理解をいただき参加していただけるような働きかけをしていきたいと思います」と話す。

大学全体の情報ページと
学部などの情報ページで構成

▲大学ポートレート(私学版)WEBサイト

大学ポートレートで公表される情報の概略は前述のとおりだが、具体的な内容やその公表画面は次のようになっている。

国公立大は、大学全体の情報が1ページ、学部・研究科がそれぞれ9ページずつ。たとえば5学部・5研究科があれば、学部は計45ページ、研究科も計45ページとなる。

大学全体のページでは、基本情報、基本組織(学部など)をはじめ、その大学の概要を公表する。

学部・研究科は、特色、教育課程、入試、進路など9つの項目(それぞれさらに詳細な内容に分かれている)を1ページずつ公表する。

私立大は、大学全体の情報が、特色、学び、取組、基本情報など8項目に分かれていて、それぞれ項目ごとに1ページ、計8ページで公表している。学部は(学部ごと)、特色、学び、進路・就職など9項目に分かれていて、それぞれ項目ごとに1ページ、計9ページで公表している。

国公立大と私立大で公表画面の構成はやや異なる部分もあるが、準備委員会が示した「公表する情報」が盛り込まれていることに違いはない。

数値の説明欄や用語集などわかりやすさに配慮

利用者のための細かな工夫もある。

「数値情報については、たんに数字やグラフで示しただけでは数値の背景が伝わりにくいものもあります。たとえば、学生数を経年で公表していて、最新年度に減少しているような場合、それがなぜなのか数字だけではわかりません。そこで、説明欄を設けて『教育環境充実のため定員を10人減らしました』といった数字の背景にある情報をあわせて提供できるようにしています。 また、膨大な情報量になる授業科目やシラバスをはじめ、内容によっては各大学ホームページの該当部分へのリンクを貼ることにより、より詳しい情報がすぐに得られるようにしています」

それ以外にも高校生などには馴染みの薄い用語を説明する「用語集」を設けるなど使いやすさに配慮している。

国公私立の共通検索に加え
国公立・私立ごとの詳細検索も

大学ポートレートを利用する場合、利用者はまず「大学ポートレート」のウェブサイトから「国公私立大学共通検索画面にアクセスする。最初に出てくるのは「大学・短期大学検索」という国公私立共通の検索画面だ。ここでは、学校名、学部名、学科名を入力したり、所在地(都道府県)欄をチェックしたりすることで検索ができる。

そして、もう少し詳しい項目から検索することができる「詳細検索画面」が用意されており、「国公立等」と「私立」とでそれぞれ検索ができるようになっている。国公立大の詳細検索は、入試方法、費用及び経済的支援の内容などから検索することもできる。

私立大の詳細検索では「取組」による検索も可能

私立大の詳細検索では、特色や取組(学校や学部が行っている取り組みのこと)で検索することもできるようになっていて、とくに取組による検索は私立の大きな特色だという。谷地氏は次のように話す。

「基本的に国公立と私立で公表する情報はそろっているのですが、私立の場合は多少プラスアルファがあって、取組で検索できるのはプラスアルファの部分です。

『取組で検索』の画面では、アクティブラーニング、少人数教育、インターンシップなど46項目を設定していて、たとえばアクティブラーニングをチェックして検索するとアクティブラーニングの情報を登録している大学名が表示され、そこから各大学の情報を見ることができるようになっています。複数の項目をチェックすれば、それをすべて満たしている大学が表示されるしくみです」

数値は一定の時期に更新し
個別の情報は随時更新

大学ポートレートが国公私立大そろって本格的に動き出した後の情報更新の仕方は、情報の種類によって大きく2つに分かれる。

国公立大の学校基本調査に基づく数値データは、各年度の調査結果がまとまったのち大学ポートレートセンターのほうで一斉に新しい情報に切り替える。私立は、学校法人基礎調査に各大学が回答した時点で自動的に大学ポートレートの内容も更新される。一斉ではないものの、同調査自体に締切日があるので、その日までに新しい情報に切り替わることになる。

一方、それ以外の個別の情報については各大学が随時更新することができる。内容に変更が出てきたとき、新しい内容を加えるときなどに各大学の判断によって更新することになる。この場合、情報が最新のものなのか、以前から掲載されていたものなのかわからない。

この点について小山田氏は「今後の検討課題ですが、新しい情報が出た場合、たとえば『新着情報』のようなかたちで、わかるようにできればと考えています」と話す。

次回Part.2は、大学ポートレートを使うメリットや広報活動についてご紹介します。

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