シリーズ25

看護教育最前線ルポ

Part.2
看護の新しい世界を切り開く
パイオニア精神に期待


公益社団法人日本看護協会
常任理事
川本 利恵子(かわもと・りえこ)
※組織名称、施策、役職名などは取材当時のものです
更新:2015/06/22
看護師は高校生に人気の高い職業であり、看護を学べる学校も増えている。ただ、看護系大学や養成所への進学に際しては、看護の世界をよく理解しておく必要がある。そこで、看護師の人材ニーズ、看護師の仕事の変化、どのような看護師が必要とされているのかなどについて、日本看護協会の川本利恵子常任理事に話を伺った。

超高齢化社会で2025年度には
200万人の看護職が必要に

医療ニーズが増大するなかで、看護師の人材ニーズも増え続けているといわれるが、実情はどうなのか。川本理事は次のように説明する。

「看護職員就業者数(保健師、助産師、看護師、准看護師)は、平成24年時点で約154万人います。15年前は約107万人、10年前は約123万人でした。看護師だけ見ても増え続けていて、平成24年には約107万人になっています。近年は大学での養成数が多くなっています。

いま高齢者の方がものすごい勢いで増えていますが、2025年には団塊の世代の方が75歳以上になります。歳をとると健康上のトラブルを抱えやすくなるので、高齢者の数が増えると在宅を含めた医療ニーズも増えると見られています。厚生労働省の試算では、看護職約200万人が必要になるとされています」

量的な拡大だけでなく、看護師が活躍する場が広がってきているのも最近の特徴だという。

「看護師はこれまで、病院や診療所で働いているイメージが強かったと思います。もちろん、いまでも数の上では病院や診療所の看護師が多いのですが、活躍の場はとても広くなってきています。

たとえば、看護師が独立して経営することができ、在宅で療養する方々と家族を支える訪問看護ステーションで活躍する人が増えています。介護保険施設で高齢者の健康管理やケアに従事する人もいます。教育機関や企業で活躍する人もいます。

さらに、保健師として保健所や企業で病気の予防活動や健康増進の支援を行う人もいます。助産師として産科や助産所で、出産から子育てまで支援している人もいます。

このほかにも、災害が発生した地域や海外などで看護のボランティア活動に取り組む人なども少なくありません」

高齢者の増加など医療を取り巻く環境が変化するなかで、看護師の仕事も変わってきているのだろうか。

「看護師の業務は法律で、診療の補助と療養上の世話と定められています。これ自体は変わりません。

診療の補助については、人間の体についてのしっかりとした知識、治療についての最新の知識などをベースにして的確に対応する必要があります。

療養上の世話は看護師の仕事の核になる部分といえるものです。人間は、健康でその人らしい日常生活を送るのが本来の姿です。しかし、病気などによってそれが難しくなることもあります。そういうときに、その方のご希望を踏まえながら、健康レベルに応じた衣食住のあり方等を考え、サポートしていきます」

川本理事は、看護と介護の違いを例にして次のように説明する。

「在宅療養されている方のお宅を訪問して、自力でお風呂に入れない方をお風呂に入れる。これは介護のヘルパーさんも看護師もしている仕事です。表面的に見ると同じだと思われるかもしれませんが、違いがあります。

看護師は、相手の方の呼吸状態や、微妙な体温の変化なども考慮して、入浴してもいい状態なのか見きわめます。見きわめる力のことをアセスメントする力といっていますが、それをベースにして療養上の世話をするのが看護師の専門性の1つだといえるでしょう」

医療のあり方が変化して
仕事の幅はさらに拡大

病院など医療機関でも看護師の仕事は変化してきている面があると川本理事は話す。

「昔は病院に入院して治療を受け、ゆっくり療養して自宅に帰ることが多かったのですが、いまの病院は急性期の治療に特化していて、平均在院日数も10日から12日ぐらいと短くなっています。そういう状況のなかで看護師は、患者さんが退院に不安を抱くことがないように症状や療養についてよく説明して、納得して退院できるように働きかけることがより強く求められています。

さらに、医療自体が、一つの病院だけで完結するのではなく、複数の医療機関や在宅など地域全体で患者さんをみていくという発想に変わってきています。看護師は、患者さんの状況を複合的にとらえ、治療や療養の仕方など患者さんにとって何がいいのか考えることがさらに必要になっているのです」

また、在宅医療等を推進するため、国は「特定行為(※注)「特定行為」とは、診療の補助であり、看護師が手順書により行う場合には、実践的な理解力、思考力及び判断力並びに高度かつ専門的な知識及び技能が特に必要とされる行為。(厚生労働省による)に係る看護師の研修制度」を創設したという。

川本理事は、この制度を活用した看護師のさらなる活躍に期待を寄せている。

「超高齢社会の到来による医療ニーズの増加に対応するために、チーム医療が推進され、看護師はキーパーソンとしてその活躍が期待されています。

なかでも在宅医療に対するニーズは増加しており、医療と生活の両方の視点から患者さんの療養生活を支える看護師への期待は高く、国の制度として『特定行為に係る看護師の研修制度』が創設されました。

看護師は、国家資格取得後も、研修等を受け、専門性を向上していく必要があります」

自ら判断し行動することができる
自律した看護師に

医療そのものの変化、看護師の仕事の変化などによって、医療現場では自律した看護師がこれまで以上に求められているという。

「患者さんの体の状態、心の状態、社会的な状態などを総合的に見きわめ、その方に何が必要かを判断したうえで適切な行動がとれるスキルが問われています。そういうスキルを身につけた、自律した看護師が求められているのです。病院などでもそうですが、医師がその場にいない在宅の場合はなおさらですね」

また、医療現場ではコミュニケーション能力も必須だと指摘する。

「患者さんと接し、その方のことを考えていくうえでは、意思疎通を図り信頼関係を築いていくことが不可欠です。例えば、医師と話すときには医学用語を使いますが、その内容を患者さんに話すときには一般的な言葉でわかりやすく話すことが大切ですね。

他職種と連携したチーム医療でもコミュニケーション能力は重要です。とくに看護師は、さまざまな医療職種、管理栄養士、事務スタッフなどと話すだけでなく、それぞれの仲介役になることが多いからです」

川本理事は、医療ニーズ、看護師ニーズが高まっていくなかで、これから看護の世界をめざそうとしている人たちに期待を寄せる。

「病院での医療から在宅を中心とした地域全体としての医療まで、医療のあり方はとても多様になっています。治療や療養に限らず、健康にかかわるニーズもすごく幅広くなっています。そうしたニーズが広がれば広がるほど看護の仕事も広がっていくでしょう。さらに、これまでなかったようなニーズや働き方が出てくるかもしれません。

これから看護の世界をめざされる方には、さまざまなニーズに応えることはもちろんですが、パイオニア精神を持って、私たちとともに看護の新しい世界を切り開いていただきたいですね」

※注:「特定行為」とは、診療の補助であり、看護師が手順書により行う場合には、実践的な理解力、思考力及び判断力並びに高度かつ専門的な知識及び技能が特に必要とされる行為。(厚生労働省による)

■公益社団法人日本看護協会

▲川本 利恵子常任理事

 
 
 
 
 
 
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