EYE's Journal

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38-5

シリーズ38 新しい大学入試
Part.5 
大学現場の動き(1)上智大学
共通テストを先取りしたかたちの
TEAP利用型入試で成果

上智大学 高大連携担当副学長
藤村 正之 教授
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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上智大学は、2015年度から「TEAP利用型入試」を導入。これは、英語外部検定試験の利用、記述式問題の採用など「共通テスト」を先取りしたような内容になっている。高大連携担当副学長の藤村正之教授に、この入試の特色や成果、教育改革、高大連携のあり方などについて話を伺った。

3年前にTEAP利用型入試を導入 
英語4技能を課し記述式も採用

▲藤村 正之 教授

文部科学省が7月に、センター試験に替わる「大学入学共通テスト」(以下、共通テスト)の実施方針を決定したが、上智大学ではその共通テストを先取りしたような入試をすでに導入している。それは3年前(2015年度入試)から始めた「TEAP利用型入試」だ。

「本学では10年ぐらい前の段階で入試改革が必要だと考え、いくつかの改革を行ってきました。TEAP利用型入試は、入試改革の議論を積み重ねながら準備を進め、2015年度に最初の試験を実施しました」

この入試には大きな特色が2つあるという。

「1つはTEAPという英語の外部検定試験を使うことです。受験生に日本英語検定協会が実施するTEAPを事前に受けていただき、各学科の基準スコアを満たせば出願できます。本学の試験では、文系なら国語、社会あるいは数学、理系なら数学、理科の2科目を課しています」

TEAPは、初年度は「読む」「聞く」の2技能を課していたが、現在は「書く」「話す」を加えた4技能になっている。

「初年度は実施する全学科が2技能でした。2年目は英語を主に使うような9学科について4技能を課しました。そして、2017年度からすべての学科で4技能を課し、全体の体制が整いました。

2016年度に4技能にした学科は、その年の受験生は大きく減りましたが、2017年度にはすべて増加しています。2017年度に4技能にした学科は個別では増減がありましたが、大学全体で見ると微減程度にとどまりました」

もう1つの大きな特色は、大学の試験で課す科目に「記述式」を採り入れたことだ。

「従来型の入試は本学もマークシート式ですが、TEAP利用型入試ではもう1つ改革をしようということで、記述式問題を採り入れました。これは、思考力や表現力を評価したいと考えたからです。

文系の場合は、高校で学ぶ知識を使いながら社会情勢なども踏まえて解答するような問題も出題しています。理系の場合は、解法の数式を書いてもらって、プロセスを見るようにしています。どちらも、正解の満点までいかなくても、どこまでできたかという視点で採点しています」

英語4技能を外部検定試験で評価し、そのほかの科目で記述式の問題を課す。これは、2020年から始まる「共通テスト」とほぼ同じ。まさに2020年の入試改革を先取りしたかたちになっている。

さらに、TEAP利用は「入試」だけでは終わらないしくみになっている。

「英語4技能を課しているのは、学生たちが海外から日本にきた人たちとコミュニケーションをとったり、グローバル社会で活躍できるように育てたいと考えているからなので、大学入学後も4技能の学習が続かないと意味がありません。

そこで1年生の4月に、TEAP利用型入試以外で入学した学生も含めた新入生全員にTEAPを受けてもらい、全学生の英語力を把握しています。そのうえで、英語4技能で学習する『アカデミックコミュニケーション』という科目を春学期、秋学期に学習して、1年生の終わりにもう一度、TEAPを受けてもらって、全員の1年間の伸びを調べているのです。

その結果、TEAP利用型入試で英語4技能を受けて入学した学生は、ほかの入試形態に比べて英語力の伸びが目立っているというデータが出ています」

共通テストの利用は検討課題 
教育改革で高学年にも教養科目を

上智大学はセンター試験利用入試を導入していないが、共通テストが始まると、それを利用する入試を導入する可能性はあるのだろうか。

「いまの段階では、共通テストを利用する入試を導入するかどうかについては、採用か否かも含めて検討はしていくというスタンスです。

共通テストには、それ自体に理念があり、学力の三要素の高大接続や、大学の3つのポリシー(ディプロマ・ポリシー、カリキュラム・ポリシー、アドミッション・ポリシー)との連動も問われています。

そういった大きな枠組みを踏まえたうえで、本学の入試制度へのプラスマイナスを考え、共通テストをどう位置づけていくべきか検討していくことになると思います」

藤村副学長が指摘するように、入試は大学の3つのポリシーと深く結びついているものだが、今回の入試改革に関連して、育てる人物像などに変化は出てくるのだろうか。

「本学では、キリスト教ヒューマニズムの理念も踏まえながら、社会的な問題に貢献できるような人を育てていこうとしています。同時に、日本も世界全体もグローバル化が進むなかでグローバルな感覚や対応力を備えた人を育てていこうと考えています。これは、これからも変わることはありません。

ただ、入試との関連で言うと、現在のTEAP利用型入試の定員枠が全体の約2割なのですが、これをもう少し増やして、英語4技能に前向きに取り組んでいる受験生や、思考力・判断力・表現力に強みを持つ受験生を多く採っていこうという方向性はあります」

カリキュラム・ポリシーとの関連では教育改革にも取り組み、2016年度の3年生から「高学年向け教養科目」の履修を開始している。

「3年生以上も必修で教養科目の単位を取らなければいけないしくみをつくりました。ただ、3年生以上ということなので、実践的な要素も含めています。たとえば、グローバルな課題を学ぶ科目やキャリア形成の科目を設けたり、社会に出る前に自分を見つめ直したりする意味で宗教や倫理の科目なども開設しています。

この取り組みは、専門教育と教養教育のより密接な関係をつくりあげることが目的で、思考力・判断力・表現力や、主体性・多様性・協働性を高めるような教養科目を上級生でも学んでもらうことにしました。

専門を山にたとえると、教養は裾野です。富士山の裾野が広いように、山が高くなるには裾野がしっかりしていることが必要なのです」

入試以前に高校と密接に情報交換 
育てる人物像などの理解深化へ

藤村副学長は「高大連携担当」だが、高大連携の考え方やこれからの展望についても伺ってみた。

「副学長としての担当が『入試』ではなく『高大連携』なのは、入試だけでは範囲が狭すぎるからです。入試は高校生活の最後のステップであり、それ以前に大学と高校が密接に情報交換をしたり、連携して活動をしたりすることによって、高校生が適性、能力、意欲などに合った大学に進めるようにするのが望ましいと考えています。

本学では、入学センターのスタッフが全国各地の大学説明会などに出向いて情報を提供したり、高校生の質問に答えたりしています。さらに、個別の高校を訪れて進学相談に対応することもあり、模擬授業も全国60校ぐらいの高校で実施しています。

一方で、学内で開催する研究シンポジウムなどに高校生にも参加していただき、本学が持つグローバル化などのリソースを提供することにも取り組んでいます。

こうした情報交換や連携を通じて、本学の入試制度やカリキュラム、育てる人物像などへの理解を深めていただき、そういう大学だから上智にいきたい、と思っていただけるようにしていくことがこれまで以上に重要になってくると考えています」

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