EYE's Journal

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38-6

シリーズ38 新しい大学入試
Part.6 
大学現場の動き(2)首都大学東京
学力三要素を測る入試制度を設計し
主体性など多様な能力を評価

首都大学東京 学長補佐(アドミッション・センター長兼務)
川上 浩良 教授
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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首都大学東京は今年、アドミッション・センターを設置し、新しい入試制度づくりや高校との連携強化などを進めている。学長補佐(アドミッション・センター長兼務)の川上浩良教授に、入試制度設計の考え方、求める人物像、アドミッション・センターが果たす役割などについて話を伺った。

新たな入試に向けた議論がスタート 
主体性などの測り方が課題に

▲川上 浩良 教授

川上教授は、文部科学省の「大学入学希望者学力評価テスト」検討委員として、今回の入試改革にかかわってこられた。

一方で、入試改革を担当する学長補佐として、首都大における新しい入試制度の設計を担当し、すでに学内で新しい入試に向けた議論をスタートさせている。

話し合われているのは、今回の入試改革の趣旨を具現化していくためにはどのような入試制度がふさわしいのかということだ。

「文部科学省は、高校生が身につける能力として学力の三要素を提示しています。高校ではその三要素が身につく教育をすることになり、大学には三要素を入試で測ることが求められています。

それを実現するにはどのような方法論があり得るのか、その方法論を実際の入試に適用するにはどのような技術論が必要なのか。そういった視点で入試制度の設計をしていこうと考えています。

ただ、すぐに理想的な入試を実現できるわけではありません。めざすべき入試像を設定したうえで、できるところからスタートしていくことになると思います」

三要素のなかでは、とくに「主体性・多様性・協働性」を測ることが難しいと話す。

「三要素のうち『知識・技能』については、これまでの入試でも測っているので、それほど問題はないと思います。『思考力・判断力・表現力』は、普通の知識を問う入試では簡単に測ることはできません。

ただ、大学入試センターが作成する共通テストでは、記述式の導入などによって、そこまでカバーできるような問題をつくろうとしています。そのぶん、センター試験に比べると問題は難しくなりますが、受験生の能力をかなり広く見ることができるようになると思います。また、本学の個別入試でも記述式問題を出題することで対応はできると考えています。

課題は3番目の主体性・多様性・協働性です。これは通常の科目試験ではまず測ることができない。では、どうやってその能力を測ればいいのか。そこが最大のテーマで、かなり難しい問題だと考えています」

ただ、主体性などを測ることにつながる入試に前例がないわけではないともいう。

「実は、本学では三要素型の入試をすでに持っているのです。それは『一般選抜』とは別に行っている、推薦入試やAO入試などの『多様な選抜』です。

この多様な選抜では、もともと学力の三要素を見ていて、試験だけでなく、高校での成績、面接などによって選考しています。なかには『ゼミナール入試』といって、本学のゼミに何回か参加したうえで、その内容から合否を決める入試があります。そうすることによって、一般選抜では測れない資質や意欲などを評価しているのです。

ただ、この選抜は、三要素を見るために相当の時間と労力をかけて行っています。それを志願者数の多い一般選抜にも適用できればいいのですが、簡単ではありません。すでにシミュレーションもしてみましたが、やはり現実的にはかなり難しいということがわかってきましたので、ほかの方法論を検討していく必要があると思います」

いろいろなタイプの学生を評価
入学後に伸びる「多様な選抜」

川上教授は、三要素のそれぞれに注目することも大切だと指摘する。

「実際の入試では、三要素をトータルにとらえることに加えて、それぞれの要素を重視することも大事だと考えています。受験生は、三要素のうち知識型が得意な人、思考力などがすぐれている人、主体性などに強みを発揮する人など、いろいろなタイプの人がいると思います。

本学では、このような様々なタイプの学生を採りたいと考えています。同じようなタイプの人ばかりでは大学としての多様性が保てなくなるからです。そのためには、いろいろなタイプの人を選抜できるような入試制度を整えておくことが必要です。ですから、ある入試方式のあり方を検討するときには、別の方式はどうするのかも並行して考えないといけない。そうしないと多様な入試を実現することができないのです」

入試は、大学が求める人物像を反映したものにもなるが、首都大ではどのような人物を求めているのだろうか。

「本学として求める人物像はアドミッション・ポリシーに掲げているとおりです。ただ、何年も入試にかかわってきた立場から、学生個人の能力に注目すると、主体性を持って行動できる人、意欲的に物事に取り組める人が入学後にすごく伸びて、卒業時の学力が高くなっています。

現在の入試制度にあてはめると、『多様な選抜』、なかでもAO入試で入学してくる学生の伸び方が目立っています。もちろん『一般選抜』で入学する学生のなかで、とくに基礎学力の高い人も伸びますが、入試ごとの入学者に占めるパーセンテージで見れば、多様な選抜で入ってくる学生のほうが圧倒的に伸びる人が多い。入試別に入学後の成績データを取り始めて以来、こうした傾向が変わったことはありません。

ですから、能力に注目した場合、入ってきてほしいのは、主体性がある人、意欲的な人、基礎学力の高い人などになります。主体性や意欲は学力の三要素のうち、主体性・多様性・協働性の部分になるので、その意味でも、ここを測る入試を実現することが重要なのです。

もう1つ大切なことがあります。それは、本学を第1志望にしていることです。第1志望で入学してきた人たちは、伸びる可能性が非常に高いからです」

アドミッション・センターを設置
高校の教育制度づくりにも貢献を

首都大では今年、アドミッション・センターを設置し、川上教授がセンター長に就任している。同センター設置の目的や今後の展望についても伺ってみた。

「設置目的は3つあります。1つは、入試制度が変わっていくので、それに迅速に対応することです。センターが中心機関となって本学としての入試制度を考え、大学全体に方向性を示していく役割を担っています。

2つ目は、学生の入学時点と卒業時点の学力を測り、それが入試制度とどういう結び付きがあるか解析することです。そのデータを基に入試制度をさらに改善していく必要があります。

3つ目は、外部機関との連携機能です。たとえば、本学は東京都の大学ということもあって、とくに今年から東京都の教育委員会と連携して様々な事業を行ってきています。これは高校の教育にコミットすることなどが目的で、例えば本学の教員が高校にいって、カリキュラムや授業のあり方など教育制度自体を高校の先生方と一緒に検討します。

その結果、良い教育プロジェクトができれば、その成果を東京都に限らず全国の高校に提供していくようなことも考えています。

さらに、アドミッション・センターには高大連携室もあり、高校生を受け入れて講義を行ったり、高校に出向いて授業を行う等様々な高大連携にも対応しています。

入試は、どういう人材を採りたいかという、大学から高校生へのメッセージになります。このアドミッション・センターを中心とする入試改革などへの取り組みを広く発信し、高校生の皆さんに本学を第1志望にしたいと思っていただけるようにしていきたいと考えています」

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