EYE's Journal

いま知りたい教育関連のテーマについて、ドリコムアイ編集部が取材・調査

40-1

シリーズ40 保育・教育分野 高等教育最前線ルポ
Part.1 
白梅学園大学・白梅学園短期大学
社会全体で子どもたちの思いを尊重できる
未来の実現を目指す

白梅学園大学・白梅学園短期大学
新学長 近藤 幹生 教授
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
公開:
 更新:

1942年の創立以来、「ヒューマニズムの精神」を理念に自由な教育・研究の場を創造してきた白梅学園。特に、保育・教育の分野で数多くの優秀な人材を輩出し、“保育の白梅”として伝統と実績を積み重ねてきた。
2018年、新たに学長に就任した近藤幹生教授は、男性保育者の先駆的存在として長年にわたり保育・教育の実践現場に携わってきたキャリアを持つ。子どもを取り巻く様々な課題・問題が山積する社会状況の中、白梅学園はどのようなスタンスで教育及び人材育成に取り組んでいくのか。新学長の視点から白梅学園の現在と未来について語っていただいた。

ヒューマニズムの根幹は不変だが、
そのとらえ方は過去・現在・未来と、
時代とともに進化する

▲新学長 近藤 幹生 教授

白梅学園には76年の歴史がある。その年月の中で培われた学風はどんなものなのか。2007年から白梅学園で教鞭を執ってこられた近藤新学長に伺った。

「基本的には、子ども・保育を学ぶことに注力してきた学園で、学生たちは子どもや人間に対する温かい眼差しを持っています。それだけではなく、子どもたちの背景にある社会の諸問題について自分なりに考える。あるいは仲間や先生方と議論をする。そういう姿勢で日々の学びに取り組んでいます。また、子どもについての学びを実践現場と結びつける大切さを知っているのも、長い歴史の積み重ねがあるからだと思っています」

白梅学園の歴史と伝統を支えてきたのは、建学の精神であり、教育理念でもある“ヒューマニズムの精神”だろう。その理念について、近藤新学長は次のように語る。

「白梅学園のヒューマニズムとは何か。一言でいえば人間一人ひとりを尊重するということです。その思いを白梅学園の歴史に関わってこられた先輩方が育み、広げ、伝えてきたからこそ、今の白梅学園があるのです。

現在、様々な苦労や困難を抱えている子どもや、障害などのハンディキャップを持つ人たちがいます。その人たちに対して優しい眼差しを向けつつ、そのあり方をしっかりと見つめていくことが、今の時代のヒューマニズムだと考えます。そして、今後、少子高齢化が進む中で一人ひとりの人間の存在が益々大事になっていくはずです。

一人ひとりが持つ力が大きくなり、みんなが支え合いながらつながっていく。そういう方向へヒューマニズムの考え方を広げていくべきだと思います。特に、学生たちには地域社会とのつながりの中で、ヒューマニズムのあり方を考え、学んで欲しいですね」

“ヒューマニズムの精神”の根幹は、当然ながら時代が移ろうとも不変である。しかし、時代や社会状況の変遷とともに、ヒューマニズムのとらえ方も変わっていく部分があるということだろう。その理念に基づいて、現在、白梅学園ではどのような学びが実践されているのだろうか。

「現在、白梅学園では大学に子ども学科、発達臨床学科、家族・地域支援学科が設置され、短大には保育科が設置されています。大学においては、物事を論理的に思考するとともに、自分の考えをしっかりと表現できる学生に入学して欲しいと思っています。

1・2年次には多様な分野の科目が用意され、少人数制ゼミナールを通して教養分野の基礎的・発展的演習を体験します。3・4年次は卒業論文・卒業研究に向けた専門ゼミナールに所属し、学びの集大成として『白梅子ども学会』でその成果を発表します。

一方、短大は歴史が長く、白梅学園の土台を築いたと言っても過言ではありません。2年という短期間で保育・幼児教育の資格・免許を取得することを目標とし、少人数制ゼミナールを通して仲間と学び合う経験もしていきます。また、社会人の入学や短大から子ども学部への編入もできます。さらに10年前からは大学院子ども学研究科がスタートし、修士・博士課程を設置し大学全体の学びのレベルアップにつながっています」

専門知識・技術だけでなく、
コミュニケーション力・協調性・想像力・創造力を
養うことが大切

近年、子どもを取り巻く様々な問題が噴出してマスメディアでも盛んに取り上げられている。具体的な課題と解決策を近藤新学長に伺った。

「待機児童問題をはじめ、保・幼・小連携の問題、発達障害の問題、家庭の貧困問題など、子どもを取り巻く問題は様々です。まず、学生たちにはそういった諸問題に関心を持ってもらうことが大切です。現状を知り、知識を学び、自分なりの考えを持てるようになって欲しい。その上で職場で経験や議論を積み上げ、解決の方向性を自分自身で見い出していくことが必要なのです。

一番大事なのは、社会全体で子どもや保育などの諸問題をどうとらえるかです。例えば、待機児童問題は単に保育園が増えれば解決すると思われがちですが、幼児期には庭などで思い切り身体を動かすことも必要で、どういう環境で成長することが大事かを考えなくてはなりません。

私が保育士になった40年前とは子どもに関する施策もかなり変わってきています。最近の動向として、2016年に児童福祉法が改正され、『児童の権利に関する条約』の精神を重んじることが示されています。子どもたちがどう思っているかを大人はしっかり考え、子どもの願いや求めるものに応えることが重視されるようになったのです」

子どもを取り巻く多様な課題の解決に向けて、白梅学園はどのように貢献していけるのだろうか。

「学生については、専門知識・技術を実践的な経験と結びつけながら学ぶことが大切です。特に、最近言われているのは、保護者との関係性や一緒に働く集団の中での人間関係の問題です。そういう環境に対応できるように、コミュニケーション力を身につけ、協調性を持ち、多様な人たちのことを想像する力と、みんなと一緒に新しいものを創る創造力を磨いて欲しいと思います。そして、学生たちが社会人や親になった時こそ、女性と男性が協力し合いながら子育てに取り組める社会づくり、現場づくりに貢献できるはずです。

一方、教員に関しては、以前から周辺自治体の様々な子育て審議会などの役員を務めていらっしゃる先生方も多く、地域における保育・教育・福祉の施策に対するアドバイスなどに今まで以上に注力していただきたいと考えています。また、それぞれの専門性を活かし、保育・幼児教育や発達支援の研修を行うなど、地域住民や他大学の方々と一緒に力を発揮して欲しいと願っています」

地域の人たちと一緒に子育てに取り組む経験を通して、
白梅の学生たちは大きく成長する

地域貢献について、白梅学園では『白梅子育て広場』という地域連携プロジェクトを定期的に開催している。このプロジェクトの持つ意義はどんなところにあるのだろうか。

「『白梅子育て広場』は学生自らが企画・運営し、地域の親子と一緒に触れ合うイベントで、スタートしてすでに10年以上が経ちます。地域の子育てに貢献する取り組みとしては、全国でも先駆的な内容だと自負しています。近年、保育・幼児教育のカリキュラム改正議論が高まっていますが、その中で子育て支援論の重要性が増しています。

白梅学園では子育て広場の実施と並行して、授業の中に子育て支援論の学びを早くから取り入れてきました。地域での子育ての状況を見てみると、3歳未満の子どもを持つ人の約7割は未だに家庭で子育てを行っています。そこには当然、悩みや孤立感があるわけで、子育て広場や白梅祭でのイベントなどを通して学生や教員と触れ合う機会を持つことが問題解決のきっかけにもなります。もちろん、学生たちにとっても多くの貴重な体験と学びが得られます。

今後は、幼稚園・中学・高校を持つ白梅学園のスケールメリットを活かして、学園全体で地域と連携した子育ての施策に取り組んでいきたいと考えています」

白梅学園がカバーする学問フィールドは大きく分けて「保育・教育」「心理」「福祉」の3分野がある。それぞれの人材育成目標と将来の進路について近藤新学長に伺った。

「保育・教育分野では、乳児保育や発達障害を持つ子どもの保育・教育、子育て支援など専門性の高さが求められる領域の知識・技能・視野を身につけた保育士・幼稚園教諭・保育教諭を育成していきます。さらに、園の経営面も含めた保育・子育てに関する総合力を大学院と連携して養っていきたい。いじめや不登校、低学力問題などに対応できる小学校教諭の養成にも力を入れます。

心理分野では、公認心理師取得を前提とした学びを重視してカリキュラムを構築しています。特に、子どもの心理や発達について理解できる人材の育成に重点を置きます。

福祉分野では、ソーシャルワーカーとして家庭環境や地域社会の様々な問題までを視野に入れて対応できる人材の育成を目指します。特に、近年、学生の関心が高い特別支援教育や社会福祉、高齢者福祉の分野に注力していきたいと考えています。本学は社会福祉士試験の合格率において全国私大中で高い実績を誇っています。また介護福祉士の合格率も向上しています。今後、高齢化社会において、的確なサポートができる人材は様々な業界から注目を集めるはずです」

多様化・複雑化する社会の課題解決には、保育・教育、心理、福祉という3分野の学びが有機的に連携していくことも必要だと語る近藤新学長。最後に、白梅学園の今後の方向性について伺った。

「創立80周年に向かって大学・短大のあり方、将来ビジョンについて全教職員で議論を重ねていくつもりです。そして、歴史を大事にしながらも、様々な新しい要素を取り入れチャレンジし続けていきたいと考えています」

新着記事 New Articles