シリーズ1

教員を育てる
Part.8 東京都教職員研修センターインタビュー②

大学生を指導力ある教員に育てる
東京都独自のシステム


東京都教職員研修センター 研修部教育開発課
中田正弘 主任指導主事
※組織名称、施策、役職名などは取材当時のものです
更新:2006/05/29
東京都は2004年度から「東京教師養成塾」を開設し、都内の大学生を対象に小学校教員の養成を行っている。なぜ行政が教員養成に乗り出すことになったのか、教員養成の内容はどのようなものなのか、東京都教職員研修センター研修部教育開発課で東京教師養成塾を担当する中田正弘主任指導主事に話をうかがった。

全国初の行政による
教員養成システム

東京都が開設している「東京教師養成塾」は、全国初の行政による教員養成システムだ。教員の研修には各自治体とも力を入れているが、教員養成まで行うことになったのはなぜか? その経緯について中田主任指導主事は次のように話す。

「2003年6月の第2回定例都議会における知事所信表明のなかで、教育改革を進めていくうえで教員養成もきわめて重要であり、大学と連携しながら東京都独自のシステムをつくっていきたい、という話がありました。それを具体化したのが東京教師養成塾です。

東京都教育委員会では、教育の担い手である教員の資質・能力の向上が重要と考えていて、教育に対する熱意と使命感、豊かな人間性と組織人としての協調性、実践的指導力や社会性のある教員を求めています。そのような教員を学生の段階から養成するために東京教師養成塾を開塾したのです」

東京教師養成塾が養成するのは小学校教員。対象者は、東京都内の大学に在籍し、小学校教諭一種免許が確実に取得できる見込みの4年生。養成期間は1年間で、塾修了後は通常の教員採用試験とは異なる「特別選考」によって東京都公立小学校教員に採用される道が開かれている。

都内の15大学が対象
学長推薦を受けて入塾

養成塾が連携している大学は15校。都内にあって小学校教諭一種免許の課程を持つ大学すべてが対象だ。しかし、大学の授業日程の関係で養成塾への参加が難しいところもあり、実際に学生を送り出している大学は2006年度の場合、11校となっている。これらの大学では、学長推薦を受けた学生が養成塾に応募する。

「東京都公立小学校の教員を強く希望することや、人物的にも学業成績的にも高く評価できることなど、いくつかの条件を大学側に提示させていただいています。その条件を満たす学生を学内選抜したうえで、こちらに推薦していただきます。推薦された学生は面接を中心に選考し、教員としてより適性が高いと思われる人を塾生として採用します。定員は100人ですが、人数ぴったりに選ぶのは難しい場合もあり、2006年度は大学から推薦された110数人の中から102人を採用しました」

塾生は女子が多く、女子と男子の比率は7対3から8対2ぐらい。これは、対象大学に女子大が多いことや、共学でも対象学科には女子が多いことによるものだ。

通常の3倍以上の特別教育実習で
実践的指導力を養成

養成塾では、特別教育実習、ゼミナール、講義、体験活動という4つの講座によって、教員として必要な実践的指導力や課題解決能力などを養成していく。なかでも核となるのが特別教育実習で、少なくとも年間40日以上実施する。

「特別教育実習は、週1回程度の実習と5日間連続の実習を組み合わせていて、5日間連続の方は年3回行います。規定では両方で年間40日以上なのですが、実際には平均50日ぐらいになっていて、なかには70〜80日という塾生もいます。通常の教育実習は15日程度ですから、塾生はその3倍以上の教育実習を経験できるわけです」

2005年度の場合、実習先となる「受入校」は56校あり、1校あたり2人程度の塾生が実習を行う。その指導を行うため、塾生10人に対して1人の退職校長(塾教授)を配置。月1〜2回、実習先を訪れて授業を観察し、指導や助言を行う。また、実習先でも担当教員から随時指導を受けられるようになっている。

多彩な内容のゼミナールと講義

4つの講座のうち、ゼミナールと講義は内容が多彩で、特別教育実習を支える役割も担っている。

「特別教育実習をただ経験させるだけでは力がつきにくい面もあるため、教育活動を推進するうえで必要な指導技術などについて研修センターの指導主事などが月1回、土曜の午後に塾生を集めてゼミナールを開いています。

テーマは、児童理解、指導技術向上、保護者や地域の期待への対応、教科指導法、一般の大学生向け模擬授業、安全への配慮など幅広い内容になっています。夏には合宿を行い、遠足など野外活動のための実践的なトレーニングも行います。その合宿(ゼミナール4回分)も含めてゼミナールは年間14回実施し、そこで学んだことを特別教育実習に生かすようにしています」

講義は、その名称からは教育理論的なものを学ぶイメージがあるが、実際はむしろ逆。視野を広げたり、豊かな人間性を育む目的で実施している。

「教育実習に十分な時間をかけ、ゼミナールもしっかりやっていますが、狭い意味での教育だけに埋没することは避けなければいけません。そこで講義では、もうちょっと広い世界に目を向けたり、これまでとは違う視点で物事を考えるようにしています。

年間10回の講義がありますが、各回のテーマは、『動物の子育てに学ぶ』『科学技術と社会』『言葉を大切にする』といった内容で、講師も教育関係者だけでなく元動物園園長、企業の管理職、俳優、落語家などを招きました」

ボランティアや就業体験で
社会人としての意識を育てる

体験活動には2種類ある。1つは奉仕活動体験で、その体験先は塾生自ら探す。もう1つは就業体験で「企業等」または「区市役所、教育委員会等」のいずれかから選択する。体験活動の時期は夏休みを利用。奉仕活動体験、就業体験ともそれぞれ5日以上行う。

「教員は大学からすぐに学校という世界に入ってしまうので社会性が乏しいのではないか、といった指摘を受けることがあります。そのため、学生のうちに社会を体験する機会を設けているのです。日数的には両方合わせて10日程度ですが、体験活動を通じて社会人として必要なものは何かを考え、塾生同士でパネルディスカッションも行います」

修了生は特別選考で
東京都公立小学校教員に採用

4つの講座で1年間学んだあとは、東京都公立小学校教員採用の特別選考を受けることができる。

「特別選考では、養成塾での成果、大学での成果、面接を総合して選考します。筆記試験はありません。もともと、筆記試験のためにかける時間を私たち(養成塾)にください、という考え方なのです。

東京都の場合、小学校教員採用試験の倍率はそれほど高くないので、養成塾で1年間苦労して勉強するよりも、通常の採用試験を受けたほうがラクかもしれません。塾生募集の説明の際にも、そういう話をしているぐらいです。それでも養成塾で学びたいという学生はそれなりの覚悟を持っています。ですから私たちもその気持ちに応えて、必ず力がつくように指導を進めているのです」

2005年度の場合、特別選考を受けた塾生は全員が東京都公立小学校教員として採用されている。

2006年度はゼミナールの
一部公開も計画

2006年度には、養成塾の内容にいくつかの改善を加えていく。

「1つは、養成塾の取り組みを開放してほしいという要望があるため、ゼミナールの一部を一般の大学生にも公開して塾生と一緒に学べるようにしたことがあります。もう1つは、養成塾を修了して教員になった人たちから、もっと学びたいという希望が出ているので、自主ゼミナールのようなかたちで指導主事が指導したり、修了生同士が学び合う場をつくりたいと考えています。

それから、これまで『受入校』と称していた教育実習先を『教師養成指定校』と位置づけて、より組織的・計画的な教育実習ができるようにしていくことになりました」

3期目を迎えた「東京教師養成塾」は、都内はもとより全国からも注目を集めている。今年2月〜3月だけでも、北海道、横浜、九州の大学や教育委員会などから講座の内容や指導方法について問い合わせがあったという。行政による教員養成は全国に波及していくのか、さらに教員養成制度全体に影響を及ぼすことになるのだろうか。

▲中田正弘 主任指導主事

 

▲特別教育実習:塾生の授業風景

 

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