EYE's Journal

いま知りたい教育関連のテーマについて、ドリコムアイ編集部が取材・調査

3-8

シリーズ3 高校における「奉仕」活動のあり方
Part.8 
文部科学省インタビュー②
奉仕体験活動の位置づけ明確化などで
各学校の取り組みを支援(後編)

文部科学省 初等中等教育局児童生徒課
生徒指導室生徒指導企画係 喜久里 要(きくさと・かなめ)係長
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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豊かな体験活動推進事業を
平成18(2006)年度は1,175校で実施

▲喜久里 要 係長

――文部科学省として、奉仕体験活動の推進につながるような施策は実施しているのでしょうか。

「平成13('01)年度の学校教育法の一部改正を受けるかたちで、平成14('02)年度から『豊かな体験活動推進事業』を実施しています。これは、奉仕体験活動だけではなく、自然体験、職場体験、文化体験、交流体験などさまざまな体験活動を推進するために開始した事業です」

――事業の具体的な内容を教えていただけますか。

「全国の小学校、中学校、高校、盲学校、ろう学校、養護学校を対象としたモデル事業です。都道府県教育委員会で体験活動の推進地域と推進校を決めて申請していただき、文部科学省が各都道府県の体験活動に対し予算的な助成を行っています。

初年度である平成14('02)年度は、予算が約3億5,700万円で、予算校数は800校でした。その後、厳しい財政状況のなかでも、この事業は着実に拡大してきました。18('06)年度には予算額が約4億7,000万円、予算校数が1,175校になっています。

活動内容については各都道府県にお任せしていますが、委託事業ですので、実施内容の報告をしていただきます。そして年に1回、全国を6ブロックに分けてブロックごとに交流会を開催し、事例を発表して成果を共有できるようにしています」

――その事業で、現場の反応などはつかんでいらっしゃいますか。

「私自身、長期宿泊体験現場を見にいったことがあります。そうすると担任の先生が『子どもの目が生き生きしている』とおっしゃるんですね。

活動を実施する前は不安もあったようですが、おとなしかった子どもが、自分の役割を与えられたことで、すごく生き生きと活動していて、先生も驚かれたようです。それで『体験活動が終わったあとも、この目の輝きを大切にして、日ごろの学級活動や教育につなげていきたい』とおっしゃっていました」

教育振興基本計画や学習指導要領で
奉仕体験活動の位置づけを明確化

――奉仕体験活動について、文部科学省として新たな施策などは考えていますか。

「先般、教育基本法の改正案が国会で成立しました。それを受けて、教育振興基本計画というものを新しくつくることになります。そのなかで、体験活動も大きな柱の1つになり、自然体験や奉仕体験が明確に位置づけられることになるのではないかと思います。

それとは別に、現在、学習指導要領の見直しを行っています。総合的な学習の時間をどう活用するかという見直しもしているのですが、当然、体験活動についても検討課題になっています。これまで、学習指導要領では体験活動についてはそれほどまとまった規定がないので、どのような位置づけにするか考えていくことになります」

子どもの自主性を重視することが
体験活動では最も大切

――奉仕体験活動を学校教育に取り入れていくうえで、ポイントになるようなことはありますか。

「大切なことは1つだと思います。それは、子どもの自主性を重視することです。いろいろな事例を見ていて、あまりよくないなと思うのは、先生が準備しすぎることです。授業だからというので力が入って、しっかり準備をしてしまう。そうすると、子どもは先生の用意したレールのうえで活動することになってしまいます。それは、本来の『体験』とは違うのではないでしょうか。

やはり、体験というのは、自分はこういうことをしてみたい、という部分がある程度生かされてはじめて成り立つものだと思います。とくに、高校生になると、より自分の頭で考えて行動できるようになるので、何をしたいのか、どういうことを身につけたいのか、といったことを考えさせることが重要です。

もちろん、大きな枠組みや選択肢は先生が示して、活動するフィールドも先生が用意する必要はあります。そのうえで、子どもがある程度自由に動けるようにするほうがいいと思います。実際、いい取り組み事例は、子どもが割と自由に活動できている場合のほうが圧倒的に多いですね」

各学校の創意工夫した取り組みを
さまざまなかたちで支援

――文部科学省としては今後、学校における奉仕体験活動に、どのようにかかわっていくことになるのでしょうか。

「人との触れ合いが希薄になっていると申し上げましたが、とくに最近は、インターネットや携帯電話の普及によって、人と直接触れ合わなくてもある程度の生活ができてしまう時代になっています。そのため、他人の気持ちを推し量って考える能力を身につけられない状況が加速化している気がします。

しかし、1人だけで、一生ずっと部屋にこもって生きていけるわけではありません。どこかで人と接して、どこかで切磋琢磨して、ときには挫折も経験するということがないと、社会人として生きていく力が身につきません。そのための機会をたくさんつくる必要がありますが、その1つの方法として、奉仕体験活動にもぜひ取り組んでいただきたいと思っています。

国という大きなものじゃなくても、学級のなかでも、電車のなかでも、いろんなところに社会はあるわけです。そういう社会で、自分は何ができるのか、何をやるべきなのかを常に考えられるようになっていただきたいですね。それは、将来の進路選択にも生かせると思いますので。

文部科学省としては、各学校において奉仕体験活動などの体験活動が計画的・体系的に取り組めるよう検討して頂きたいと考えていますし、各学校が創意工夫した取り組みを行えるように、いろいろなかたちで支援していくつもりです」

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