シリーズ3

高校における「奉仕」活動のあり方
Part.9 日本ボランティア学習協会インタビュー①

ボランティア活動の教育力を活用して
新たな教育の展開を(前編)


日本ボランティア学習協会 代表理事
興梠(こうろき)寛 氏
※組織名称、施策、役職名などは取材当時のものです
更新:2007/02/26
このシリーズでは、東京都立高校における奉仕体験活動の必修化を軸に、学校教育の中での奉仕体験活動のあり方を探ってきた。今回は、当事者(学校や行政)から少し離れた視点で学校教育と奉仕体験活動について考えるため、ボランティア社会学の研究者である興梠(こうろき)寛先生に話をうかがった。

ヨーロッパやアメリカなどは
30年前から取り組んでいた

――ここ数年、学校教育に奉仕体験活動を取り入れる動きが出てきましたが、それについてどのようにお考えですか。

「私は、もともと新聞記者だったのですが、1970年代の終わりにイギリスで『コミュニティサービス』(注1)自発的に行うボランティア活動とは、概念上分けて理念づけている。制度的制約や社会的契約にもとづき行う、他者や社会のためのサービス活動をいう。例えば、学校教育制度による社会奉仕等の体験学習、地縁組織における相互扶助、徴兵制度による兵役代替え制度、刑法上の服役代替え制度など。(解説:興梠 寛)という授業があることを知り、取材したことをきっかけにして30年近くボランティアと教育の問題を追いかけてきました。グローバルな視野で見ると、ヨーロッパやアメリカをはじめアジアやアフリカでも、1970年代の終わりごろからボランティア活動の持つ教育力(後述)を学校教育の中に取り入れていこうという動きがありました。

例えば、大学の授業の一環として、貧しい農村にいって自分が学んだことを生かして地域の発展のために活動する、スタディーサービス等の教育活動が盛んに行われています。そういう意味では、日本でこのテーマが取り上げられるようになったのはむしろ遅い。2000年の教育改革国民会議のころに議論され始めたわけですからね」

ボランティア活動の教育力を
積極的に活用すべき

「奉仕体験活動を取り入れること自体については、それをネガティブに考えるか、ポジティブに考えるかによって、ずいぶん教育理念が違ってくると思います。

いまの青少年は社会体験が少ない、公共の意識が低い、道徳観をもっと植え付けないといけない。だから奉仕体験活動が必要だと考える。これは私から見るとネガティブな考え方です。そうではなくて、世界の歴史のなかで培われてきたボランティア活動の持つ教育力を積極的に活用し、新しい知の在り方や教育を進めていく。それがポジティブな考え方です」

必修化に際しては中身とともに
先生方の研修なども重要

――東京都では2007年度から、すべての都立高校で奉仕体験活動を必修化しますが、そのことについてはどうお考えですか。

「必修化して、カリキュラムをつくってやっていくことには賛成です。ただ、問題点もあると思います。

1つは中身をどのようなものにするのかという問題です。2つ目として、先生方の研修をどうするかがあります。必修化するなら、先生方の研修もしっかりやらないといけない。たとえば、イギリスでは2002年から中等学校(中高一貫)で『シチズンシップ』(注2)英国のブレア政権のもとに、イングランドなどで2002年9月からはじまった学校教育カリキュラム。初等教育では、独立教科とはせずに全教科の中に市民性として活用。中等教育では、週あたり約3時間程度の必修科目として導入している。多様なNGOがカリキュラムづくりに参画し授業で教育スキルを提供している。(解説:興梠 寛)という科目が必修になっていますが、それを担う教員を5年かけて養成しています。

3つ目として、受け皿になる社会環境をどうするのかがあります。高校生の主体性や新鮮な発想を生かしながら、活動プログラムや企画づくりについてアドバイスしていくようなシステムが学校や地域のなかにあるのか、ということです。奉仕体験活動というのは地域社会、やや大げさにいうと地球社会をキャンパスにして学ぼうというものですから、社会的な環境づくりが重要になるのです」

「ボランティア」と「奉仕体験活動」は
明確に区別することが必要

――「ボランティア」と「奉仕体験活動」を区別する考え方がありますが、それについてはどのように見ていますか。

「それは大切なことで、明確に区別して考えるべきです。実は、私は教育改革国民会議のまとめが出たときに、事務局長と文部科学省宛に文書で意見書を出しました。

要点は2つ。1つは、まとめにあるような趣旨で行うものに関しては『ボランティア活動』と呼んではいけない、『ボランティア学習』と呼ぶこと。言葉の使い分けをハッキリすべきだと。もう1つは、いわゆる自発性や自主性、ボランタリーな精神というものは強制しても身につかない、ということです。

意見書を出した理由は冒頭でお話しした1979年にまで遡ります。その年、イギリスの『コミュニティサービス』という授業の取材をしたのですが、6,500ある中等学校のうち3分の1で『コミュニティサービス』の時間があった。これは、国が定めたものではなく、先生たちの教育実践から草の根的に広がり、子どもの社会力や知力が育つと評価されて全国に広まっていったものです」

主体性や自発性が尊重される
「ボランティア活動」

「私は、下町の学校からパブリックスクールというエリート校まで20校を取材したのですが、どの学校でも『コミュニティサービス』という言葉を使っていた。で、疑問を持ったわけですよ。これは何て翻訳すればいいんだろう、ボランティアとどう違うんだろう、と。それで、取材を進めるうちに『ボランティア』と『コミュニティサービス』をハッキリ使い分けていることがわかった。

『ボランティア活動』は英語でいうと『ボランティアリング』になりますが、これは、活動者の主体性や自発性が最大限に尊重される社会的行動なのです。何人も、いかなる公権力も、活動者の自由意志を奪ってはならない。だから『ボランティア活動』というのは、する自由、しない自由が保証されているものなのです」

ボランティアの精神や行動を身につける
「ボランティア学習」

「ただ、何もしないで放っておいて、そういう精神や行動が身につくだろうか、という問題はあります。そこで、ある種の制度的な制約のもと、あるいは社会契約のもとで他者や社会のために行動するときには言葉を使い分けましょうということで『コミュニティサービス』といっていたのです。

その『コミュニティサービス』を私は『ボランティア学習』と、あえて意訳しました。主体性や自発性を教育のなかで育むこと。それは『ボランティア活動』のための準備学習であるという理念付けが必要だと考えたからです。そうしたら、その考えに賛同する人たちが集まるようになり、いまではその名前の付いた学会ができています。

ですから、『ボランティア活動』と『奉仕体験活動』は明確に区別する必要がありますが、『ボランティア学習』を『奉仕体験活動』と呼ぶ場合は、ほぼ同じ意味になると思います」

高校段階の奉仕体験活動では
地域の問題解決も考えたい

――奉仕体験活動は、小学校や中学校でも取り入れているところがありますが、高校段階で行う奉仕体験活動は、どんなふうにあるべきだとお考えですか。

「発達段階ごとに見ていくと、小学校では奉仕体験活動を通じていろいろな人々と交流して感動する。それでいいと思います。中学校では、交流・感動体験に加えて、身近な地域社会のなかにどんな問題があるのかを発見する。高校になると、その問題を解決するにはどうすればいいか自分たちなりに考えてみる。そして、考えたことをメッセージにして社会に提案していく。そういうことができるように、ボランティア学習の狙いや目標を設定し、先生方がサポートしていくことが大事だと思います」

《Part.10 中編へつづく》

注1.「コミュニティサービス」
自発的に行うボランティア活動とは、概念上分けて理念づけている。制度的制約や社会的契約にもとづき行う、他者や社会のためのサービス活動をいう。例えば、学校教育制度による社会奉仕等の体験学習、地縁組織における相互扶助、徴兵制度による兵役代替え制度、刑法上の服役代替え制度など。(解説:興梠 寛)

注2.「シチズンシップ」
英国のブレア政権のもとに、イングランドなどで2002年9月からはじまった学校教育カリキュラム。初等教育では、独立教科とはせずに全教科の中に市民性として活用。中等教育では、週あたり約3時間程度の必修科目として導入している。多様なNGOがカリキュラムづくりに参画し授業で教育スキルを提供している。(解説:興梠 寛)

■日本ボランティア学習協会

▲日本ボランティア学習協会 興梠 寛 代表理事

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