EYE's Journal

いま知りたい教育関連のテーマについて、ドリコムアイ編集部が取材・調査

5-6

シリーズ5 忙しい先生の業務効率化と円滑な学校運営
Part.6 
行政の対応を探る②
教員の勤務負担軽減めざす事業を開始

編集部
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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教員の勤務実態が具体的なデータとなって明らかになり、中央教育審議会や教育再生会議などから教員の勤務負担軽減が必要との提言が相次いで出された。それを受けて文部科学省はどう対応していくのか。行政の教員負担軽減支援について同省に取材し、2008(平成20)年度から始まる新たな施策の詳細を探ってみた。

勤務実態調査や各種提言を踏まえ
新たな調査研究事業を開始

文部科学省は、教員の勤務負担軽減を図るための施策として、2008(平成20)年度から「教員の勤務負担軽減に関する調査研究事業」を開始する。

この背景の1つには、文科省が実施した「教員勤務実態調査」で、教員の残業時間の多さや、デスクワーク的な事務負担の大きさなどが明らかになったことがある。また、精神性疾患で病気休職する教員が年々増え、5,000人近くに達している事実もある。

一方、07年3月29日に出された中央教育審議会の答申「今後の教員給与のあり方について」や、6月1日に出された教育再生会議の第2次報告などで、教員の事務負担軽減を図るべきとの提言があった。さらに、6月19日には「経済財政改革の基本方針2007について」で、教員の事務負担軽減を図り、子どもと向き合う時間を大幅に増加させることが閣議決定されている。

こうした一連の流れを踏まえて取り組むことになったのが、教員の勤務負担軽減に関する調査研究事業だ。

校務分掌の適正化などが調査研究のテーマに

調査研究のテーマは、学校事務の外部委託、校務分掌の適正化、保護者等への対応、メンタルヘルス対策が4つの柱として設定されている。これは、中教審や教育再生会議の提言で指摘されたこと、教員勤務実態調査で明らかになったこと、教員の精神性疾患の増大などに対応するものといえる。

もう少し詳しく見ると、学校事務の外部委託については、学校の庶務事務・経理事務および施設管理業務などのアウトソーシングなどを調査研究する。

校務分掌の適正化については、学校内における教員間の業務負担の平準化、会議や調査など事務作業量の軽減などを考えていく。

会議の軽減については、生徒指導の会議、教務関係の会議、学校経営に関する会議など数多くの会議があるが、本当にそれだけの会議が必要なのかを含めて、会議のあり方を見直すことなどが想定されている。

また、調査作業の軽減については、調査にさまざまなものがあり、それに対応することが教員にとって大きな負担になっていることは、前回のレポートでも指摘したとおりだ。そうした各種調査の必要性を検証したり、効率的な方法を探ったりすることになる。

保護者等への対応については、保護者や地域の人々から学校に寄せられる多種多様な要望に、どのように対応していけばいいのかを考える。

メンタルヘルス対策については、教員が抱える悩みを早期発見し、速やかに対応するための環境整備、メンタルチェックによる実態把握とその対応方法などを検討する。

調査研究事業の委嘱先は5月中旬にも決定

この事業は、文部科学省から都道府県、政令指定都市に調査研究を委嘱する形で行われる。委嘱件数は11件の予定だ。対象とする学校種は、小学校、中学校、高校が中心になる。

事業の期間は3年間の予定。ただ、委嘱先が1年間で終了する計画を立てて、それを採択した場合は1年間で終えるなど、文科省としては柔軟に対応する考えだ。すでに、都道府県、政令指定都市から事業実施の希望を募り、約15件の応募があった。文科省では、応募内容を審査したうえで、5月中旬を目処に委嘱先を決定する。

取材時点(4月末)では、応募先や応募内容については明らかにしていないが、テーマで見ると校務分掌の適正化に関するものが比較的多く、それ以外のテーマも応募がある。また、複数のテーマを調査研究する計画を提出しているところもある。

調査研究終了時には、各委嘱先は文科省に報告書を提出する。3年計画なら最終的な報告書提出は3年度目の終わりになるが、年度ごとに中間報告的なものを提出することになる可能性もある。

このほかに、海外で教員の勤務負担軽減に関する先進的な取り組みがあれば、文科省として視察などを行うことも想定されている。

研究成果は、フォーラムを開催して周知を図ったり、教育委員会などが集まる会議の場で報告したりするなどして、広く全国に普及させていく。そして、最終的には教育委員会ごとに教員の勤務負担軽減に関する取り組みが進み、教員が児童生徒に向き合う時間を確保できるようになることを目指す。

ボランティアによる学校支援の新事業もスタート

教員の勤務負担軽減にかかわる別の施策として、08年度から「学校支援地域本部事業」もスタートする。

この事業は、基本的に小・中学校を対象としたものだが、事業地域内に高校がある場合、その地域で高校を含めた取り組みを行うことも想定される。また、そうした例がなくとも、事業の考え方や実施方法は高校で同様の取り組みを行うときの参考にもなるだろう。そこで、この事業についても見ていくことにしよう。

この事業の背景には、青少年をめぐる事件や諸問題の要因として、地域の人間関係の希薄化などによる「地域の教育力の低下」が指摘されていることがある。また、前述したように、学校現場において教員の勤務負担軽減が大きな課題になってきていることも関連する。こうしたことを踏まえて、地域全体で学校教育を支援する体制づくりをめざして事業をスタートすることになった。

「学校支援地域本部」を中学校区単位で設置

この事業では、文部科学省に学校支援地域活性化推進委員会を設置する。同委員会は、事業全体の企画立案、指導助言、事業の選定などを行う。そして各地域には、運営協議会、実行委員会、学校支援地域本部を設置する。

運営協議会は、都道府県47、政令指定都市17の計64地域に設置。国の委託を受けて事業を進める窓口となり、広域でのボランティアの養成、市町村や学校に対する普及啓発などを行う。実行委員会は、市町村単位で設置。学校設置者の立場から、域内の学校に対する普及啓発、ボランティアの養成などを行い、事業を進めていく。そして、事業の実働を担うのが学校支援地域本部で、これは中学校区単位で設置する。

学校支援地域本部は、地域教育協議会、地域コーディネーター、学校支援ボランティアで構成される。「本部」という名称から事務組織的なものが連想されるかもしれないが、学校を支援する地域ぐるみの集合体、ということができる。

地域教育協議会は、学校長、教職員、PTA関係者、公民館など社会教育関係者、自治会関係者などで構成。学校側がどのような支援を期待しているか、地域住民はどのようなボランティア活動が可能か、といったことを把握したうえで支援活動の企画立案を行う。

地域コーディネーターは、退職教職員やPTA経験者など地域の事情をよく知っている人がその役割を担い、学校と学校支援ボランティアとの間に立って、より具体的な調整を行う。

学校支援ボランティアは、実際にボランティア活動を行う人々のこと。その活動内容としては、学習支援活動、部活動指導、校内環境整備、登下校時の安全指導、学校行事や学校と地域との合同行事の支援などが考えられている。

調理実習や理科実験の補助を
地域住民が担うことも想定

学習支援活動を例にとると、退職教員、教職に就いたことはないが教員免許を持っている人などに加えて、一般住民の参加も期待されている。

たとえば、調理実習の場合、1人の教員が各実習台を見て回るだけでも大変なので、調理経験豊富な主婦が教員の補助をする、といった方法も考えられる。

また、理科実験では、下準備に時間がかかるので、その部分を一般住民が担うことで、教員の負担を減らしたり授業を効率的に進めたりすることにつながる。実際、実験の下準備については、すでに学校現場からボランティアの支援を要望する声が出てきているという。

全市町村での実施を前提に広く希望を募る

文科省は、学校支援地域本部事業を3年間かけて実施する計画だ。この事業は、まず学校と地域との関係づくりから始める必要があり、1年で成果が期待できるようなものではないからだ。

事業の対象は全市町村で、文科省は各市町村に少なくとも1つの学校支援地域本部を設置できる予算を確保している。といっても、1市町村1本部に限定しているわけではない。市町村に複数の学校支援地域本部を設置する希望がある場合には、その計画内容や全体の予算を考慮したうえで採択することもある。

事業の募集はすでに行い、3月末でいったん締め切っている。しかし、文科省では、対象が全市町村に及ぶことなどもあって、事業自体が十分に認知されていない面もあるとして、2次募集、3次募集と引き続き広く希望を募っていく考えだ。また、1次募集分の採択については、審査を経て6月末頃に決定する予定になっている。

事務の共同実施を踏まえて
教員の業務を事務職員に移行

前記2つの新事業とはやや背景が異なるが、文科省では06年度と07年度に、教員の勤務負担軽減につながる事業を実施している。それは「教員配置に関する調査研究事業(事務の共同実施)」だ。

この事業も小・中学校対象だが、教員の勤務負担軽減を目指した事業であることに違いはなく、内容的に高校でも参考になる可能性があるので、簡単に触れておきたい。

事業の目的は、複数の学校で事務を共同実施することによって事務職員の業務効率化を図り、教員が行っている事務的業務の一部を事務職員に移行し、教員が教育に専念できる時間を増やそうというもの。

事業実施に際して、文科省は「教員から移行する業務」を例示している。それは
①教育課程進行管理(時数管理)
②総会計管理(保護者負担経費、就学支援費、募金、学校収益金・寄付、関係教育団体費、拾得金、助成金・補助金)
③児童生徒情報管理(学籍情報、教育指導情報、家庭状況情報、転学・進路情報)
④その他(教育実習支援、定例報告、行事活動支援、研修企画・実施、研究事業支援)
となっている。

年間1000時間の業務を軽減した
調査研究事例も

より具体的な例でみると、授業時数の算出、行事予定の作成、給食費などさまざまな経費の集金関連業務、児童生徒の名簿作成や管理、学力検査のデータ管理など、教員が行っている事務的業務を事務職員に移行する。

06年度は5市町村に調査研究を委嘱し、07年度は3県に調査研究を委嘱した。調査研究の結果、事務の共同実施によって教員の業務を事務職員に移行することについては、各委嘱先とも成果が上がっていて、中には事務を共同実施した学校全体で、教員の業務を1年間に約1000時間軽減したところもある。

ここにきて、国レベルで教員の勤務負担軽減を図ろうとする施策が動き出したが、これまで目立った施策がなかったこと自体、不思議でもある。

ただ、当シリーズの取材過程で、国よりも学校現場に近い都道府県教委でさえ「文科省の調査で勤務実態が明らかになり、教育再生会議などで勤務負担軽減を求める提言が出ているので、これから対応策を考え始める」というところもあった。

教員が多忙であること、しかも授業や児童生徒の指導以外の業務が多いことは、以前から指摘されていたはずだ。しかし、それを解消するための本格的な取り組みにはつながらなかったということなのだろうか。

ともあれ、教員の勤務負担軽減に向けた施策が開始されたのは事実。一朝一夕に問題が解消されるわけではないが、着実に成果が上がり、少しずつでも勤務負担軽減につながっていくことを期待したい。

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