シリーズ19

看護師への進路を考える 〜治療と回復を助ける専門職〜
Part.1 日本看護学校協議会会長に聞く

実践力を育てる
専門学校の看護教育


一般社団法人 日本看護学校協議会 会長
(相模原看護専門学校 校長)
荒川眞知子氏にきく
更新:2013/09/09
看護教育では長い歴史を持つ専門学校。その専門学校の看護学教育の特色はどのようなものなのか、教育や就職支援でどのような工夫をしているのか。一般社団法人日本看護学校協議会の荒川眞知子会長に話を伺った。

看護師国家試験合格者のうち
3分の2が専門学校卒業者

看護師を養成する主な教育機関としては、大学、短期大学、専門学校があるが、日本の看護教育のなかで専門学校が果たしている役割はどのようなものなのか。まずそこから教えていただくことにした。

「日本の看護教育は、初期の頃は病院が付属の看護師等養成所をつくって、その病院の看護職員を養成するというかたちがほとんどでした。その後、自治体や地域の医師会などが地域で活躍する看護師等を養成するために看護師養成所を設立運営、また、学校法人が看護師養成所を運営することも増えてきました。

専門学校制度が創設される以前からあった看護師養成所から専門学校へと移行したところを含めて、日本全国にある数多くの専門学校は、医療現場で活躍する看護師養成の中核的な役割を果たしてきたといえるのではないでしょうか」

こうした歴史的な背景もあって、専門学校は現在でも看護師養成施設全体のなかで、学校数でも学生数でも大きなウエートを占めている。

「この20数年で、大学の看護系学部が急増しました。それでも、看護師を養成している学校数は、現在でも専門学校のほうがずっと多いのです。看護師国家試験の合格者数をみても、平成24年の場合、大学卒業者は約1万4,000人、専門学校卒業者は約3万5000人で、専門学校がほぼ3分の2を占めています」

また、幅広い層に教育機会を提供するという意味でも専門学校は重要な存在になっているそうだ。

「18歳人口、つまり高校新卒者が減少しているので、看護系専門学校への入学者が減少しても仕方ないのですが、実際にはそうなっていません。大学卒業者や社会人が看護師をめざして勉強し直すために専門学校に再入学するケースが増えているからです。そういう人たちの志に応えて看護を学ぶ場を提供するのも大切なことだと思います」

少人数教育や教員の連携によって
実践力を備えた看護師を育成

では、専門学校の看護教育の特色はどのようなものなのだろうか? それについて荒川会長は明快に話す。

「専門学校の看護教育のいちばんの特色は、看護の実践家を育てていることです。大学は、いまは変わってきている面もありますが、もともとは学問として看護をとらえ、ゆくゆくは研究者やリーダーとなる基礎教育的な趣旨での教育であり、専門学校は当初から、実践的な能力を備え医療現場で活躍できる職業人を養成してきているのです」

実践力を備えた看護師を養成するうえで重要なポイントがいくつかあるという。その1つは少人数教育だ。

「専門学校は1学年の定員が40名というところが多くなっています。それだけでも少人数なのですが、講義や実習ではさらに小グループごとに分け、ていねいに指導するようにしています。

それから、学生の個人差を踏まえ、授業の理解度にギャップが出ないように、1人ひとりを細かくサポートしています。こういうところも専門学校の特色ではないでしょうか」

教員が連携して教育にあたるのもポイントの1つ。

「大学では領域ごとの教授がそれぞれの専門性を発揮して教えていくかたちが多いと思います。専門学校でも領域ごとに専門の教員がいますが、それぞれの教員が連携して、みんなで協力しながら学生の理解度を確認したり学習によって成長していく様子を見守ったりしています。一方で学生の主体性も重視しているので、ある程度の方向付けができた際には主体的に学んでいけるような配慮もしています」

人間関係論などの科目を設けて
コミュニケーション能力を磨く

授業のなかで演習的な要素を重視しているのもポイントの1つだというが、それについてはカリキュラムの工夫と併せて教えていただくことにしよう。

看護教育は、従来のカリキュラムの見直しが行われ、平成21年度から新カリキュラムによる授業が実施されている。その新カリキュラムでは、患者に接したりスタッフと意思疎通を図りながら仕事を進めるうえで必要になるコミュニケーション能力の育成が盛り込まれている。

「コミュニケーション能力を育成するため、それぞれの専門学校ごとに科目や教育方法を工夫しています。たとえば、本校(相模原看護専門学校)の場合は、基礎分野の科目として『人間関係論』『文化人類学』を、専門基礎分野の科目として『チーム医療における人間関係論』を設定しています。それだけでなく、専門分野の各看護学にも人間関係の要素が含まれています」

体験型の演習を充実させ
臨場感ある教育を展開

新カリキュラムでは、演習の強化も図ることになっているが、専門学校ではもともと実践力を育てる意味で演習を重視している。

「講義で理論を学ぶだけでなく、演習で実際に体験してみるなど臨場感のある教育を大切にしています。たとえば、モデル人形を使ったり、学生が患者さん役になってロールプレイングをしたりします。そして、そこで浮かんできた疑問点や課題を討議しながら学んでいくようにしているのです」

そうした工夫の一環として、相模原看護専門学校では模擬患者による演習を取り入れている。

「2〜3年前から始めたのですが、ボランティアで演習に協力していただけるところがあって、そこの方に患者さん役として演習に参加していただいてます。その方たちは看護の演習用の訓練を積まれているので、学生が患者さん役の方に何かのケアをすると反応が返ってきたり、声かけに返答してくれたりします。学生たちは本当の患者さんに接しているようなリアルな演習をすることができるのです」

臨地実習は教員が付き添い
現場を見ながら指導

看護教育のカリキュラムは臨地実習のウエートが高いが、専門学校ではもちろん臨地実習にも力を入れている。

「臨地実習は、実践力を育てるうえでとても重要なものなので、各専門学校はすごく力を入れています。時間数でみても、3年間で3,000時間のカリキュラムのうち約1,000時間を占めています。

実施時期などは学校によって少しずつ異なりますが、本校の場合は、まず1年生の1月頃に最初の実習をします。2年生では約300時間ぐらいの実習を経験して、3年生になるとほとんどが実習といってもいいぐらいです」

臨地実習は、受け入れ先の実習指導者に任せっきりにするのではなく、教員も現地に赴いて細かく指導している。

「実習にいくときは学生5〜6人ずつのグループに分かれます。それぞれのグループごとに専任教員がついていって、一日中、現地で学生たちの実習を見ながら指導にあたっています。こういう臨地実習の進め方も専門学校の特色だと思います」

学生の希望や考えに沿って
キャリア形成を支援

3年間学んだあとは看護師の国家資格を取得し、さまざまな医療機関などで活躍することになるが、就職に際して専門学校は学生をどのように支援しているのだろうか。

「具体的な就職支援の方法は学校ごとに少しずつ異なると思いますが、各専門学校は就職についても学生1人ひとりに対応して、きめ細かく支援しています。

たとえば、5月に『看護の日』があるのですが、本校ではそれに合わせて看護の仕事を考えるシンポジウムを開いています。入学してくる学生は看護師になりたいという目標を持っているわけですが、職場のことはあまり知りません。そこで、本校の卒業生にきていただいて、看護の仕事の実情や、仕事を通して人間的に成長していけることなどを話してもらっています。そういう話を聞くことによって、自分はどんな看護師になりたいか、将来のキャリア像を描けるようになってもらいたいのです」

学生が就職先を意識し始めるのは2年生後半ぐらいからが多く、3年生の夏前から就職活動が始まる。そうした具体的な就職先選び、就職活動に際しても親身になって相談に乗っている。

「高校新卒者は、若いうちは大学病院などで働きたいと考えている人も多いのですが、最近はとくに大学卒業者や社会人経験者を中心に、地元に密着した医療機関を希望する人も増えてきました。2年生から3年生にかけて、担当教員や私自身が面接をして、それぞれの学生に適した就職先やキャリア像を話し合っています。

大切なのは、無理をしないこと、早期離職などに到ることなく仕事を続けることですから、1人ひとりの希望や考え方に沿った適切な支援をするようにしています」

さらに、同校では卒業後のフォローもしている。

「私どもの一般社団法人日本看護学校協議会で調査した結果、就職した学生たちは6月頃に仕事に悩みを抱え始めるケースが多いことがわかりました。そこで、本校では6月頃に『カミングデー』というものを設けています。

これは、就職した学生たちを招いて、お茶を飲みながら、近況を報告したり仕事について語り合ったりするものです。もし、仕事に疑問を感じたり悩んだりしているなら、それを少しでも解消してもらえればと思っているのです。

在校生もこの集まりを知っていますから、学校は卒業後も自分たちをフォローしてくれるんだということを理解しているのではないかと思います」

人間性に裏打ちされた知識や
技術をしっかり学べる場

専門学校は、少人数制の授業、臨地実習での細かな指導、手厚い就職支援などを通じて、医療現場で活躍できる看護師を育てているといえそうだ。

「看護師になりたいという目標を持っている方には、専門学校は看護の知識や技術をしっかり学んで実践力を身につけられるところだということをお伝えしたいと思います。

その実践力というのは小手先の技術のことではなく、人間性に裏打ちされたものです。というのも、看護というのは知識や技術を活かしながら、かかわる方に対する自分の気持ちを表していくものであり、人間性がとても大切なのです。

そういう看護の世界をめざしたいという方たちが夢を叶えられるようにしていくこと。どの専門学校もそれを目標にしているのです」

■一般社団法人 日本看護学校協議会

▲日本看護学校協議会会長
(相模原看護専門学校 校長)
荒川 眞知子 氏

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高等教育機関

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専門学校の実力

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専門学校とAO入試

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シリーズ2
高校のインターンシップを
考える

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