EYE's Journal

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22-2

シリーズ22 高等教育の出口力
Part.2
東京理科大学

東京理科大学 学生支援課 課長
柴田 彩子(しばた・あやこ)氏にきく
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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「就職力」で大学をランク付けした一覧を見かけることがあるが、そのもとになっているデータは何かと調べてみると、単に大学が公表する就職率(就職者÷就職希望者)であったりする。なかにはそこに公務員になった者の割合や、人気企業〇社への就職者数、あるいは有名企業の人事部長や高校の進路担当教員へのアンケート調査の結果を数値化して加味しているケースもあるようだが、そもそも大学が発表する就職率には公務員になった者も含まれているはずだし、なぜ人気企業が対象なのかとか、まして人事部長や高校教師へのアンケート結果など人気ランキングにすぎないではないかと、疑問が残る。
就職力ではなく「出口力」――学部構成も入学者の学力層も、地域性もさまざまな大学の、就職率を比べるのではなく、卒業後の自立を促す実践に触れ、またその実績から、卒業後の自立につながる出口力をはかる指標の見方を、複数回にわたって考えてみたい。

東京理科大学の前身である東京物理学講習所の創立は1881(明治14)年(2年後に東京物理学校と改称)、自然科学の高等教育機関としては東京大学に次いで2番目、私学としては最古の歴史を誇り、夏目漱石の『坊っちゃん』の主人公が学んだ物理学校のモデルとしても知られる。現在では理、工、薬、理工、基礎工、経営の6学部のもとに計27学科と、2学部6学科からなる第二部(夜間部)を開設。併せて学部卒業生の約5割が進学する大学院として11の研究科を開設している。

5割を超える大学院進学者

▲柴田 彩子氏

2014年3月に東京理科大学の昼間部を卒業した3,143人のうち、半数を超える1,609人(51.2%)が大学院に進学している。その数は就職者数1,340人(42.6%)を上回り、さらに経営学部を除いた理工系5学部(理学部、薬学部、工学部、理工学部、基礎工学部)の卒業者(2,837人)だけでカウントすると、大学院進学者は1,598人(56.3%)、就職者は1,059人(37.3%)となり、就職にまつわる数値だけをクローズアップしても、こと理工系大学に関しては出口力の指標にはならないことを物語っている。

「3年次進級後間もなくスタートする就職ガイダンスをはじめとした学生支援センター主催のキャリアサポートプログラムに出席しない学生が少なからずいるのは、それ以前に大学院進学を視野に入れているからだと考えられます。4年次進級と同時に所属する研究室では自身の研究テーマを決めなければなりません。大学院に進学したら、学部4年次に取り組んだテーマを継続して研究する場合が多いので、大学院をめざすのかどうか、早めの決断が求められるという実情もあります」(学生支援課・柴田彩子課長)

20年前と10年前、そして近5年間における理工系学部卒業者の大学院進学率(大学院進学者数/卒業者数)の推移をグラフ化した(文部科学省「学校基本調査」から)。

理工系学部卒業者の大学院進学率(「学校基本調査」から)

1993年度には23.3%だった進学者だが、10年後の2003年度には30%を超え、近5年にいたっては35%を超える高率のまま推移している。それは、理工系分野の学修に直結する研究、開発、技術といった職域で、より高度な専門知識が求められるようになったからだと考えられる。研究開発部門の新卒者採用に大学院修了を条件とする企業もあるくらいだ。

東京理科大学卒業者の大学院進学率が全国平均を大きく上回っているのは、「研究職や開発職をめざす学生には大学院を視野に入れるように指導している」(柴田氏)という同大の出口力の表れといえるかもしれない。

複数人+継続的な採用企業に注目

▲キャリアセンター

共同研究や委託研究などが盛んな理工系大学では、教員と企業の間で結ばれた信頼関係がもとになって就職に結びつくケースが少なくない。一般に教授推薦や学校推薦といわれるが、なかでも大学院生の場合、共同・委託研究のスタッフの一人として従事することもあるため、その成果や功績を見初められてのスカウト就職も少なからずあるようだ。もちろん東京理科大学も例外ではない。

教授推薦やスカウトで何人の学生がどこに就職したかといったデータがあれば、大学というよりも研究室の出口力が垣間見える大きな指標になるが、そのようなデータは、東京理科大学のみならず、他大学でも公表していない。

それに代わる資料として、公表がなされているようなら参考にしたいのが「主な就職先」だ。ただし、よく大学案内などに列記されている有名であることを「主な」基準にしたデータではなく、就職者の人数や継続的な採用を「主な」基準にしていることが肝心だ。

東京理科大学ではそのホームページ上に「1社につき12名以上の入社実績をあげた企業を多数順で紹介」している。いずれも単年度の採用人数だけでなく、過去5年間の採用人数が掲載されているのがポイントだ。企業の業種と併せ見れば、大学の特色を反映した出口力の指標になるのではないだろうか。

東京理科大学の主要就職先一覧
企業名 平成25年度 過去5年間の実績
東日本旅客鉄道 24(名) 141(名)
東日本電信電話 24 98
キヤノン 20 163
日立製作所 18 180
NTTデータ 18 158
トヨタ自動車 18 109
ソフトバンク 18 61
日本電気 16 125
リコー 16 106
NECソリューションイノベータ 16 65
大和ハウス工業 15 43
TIS 14 51
日産自動車 14 43
野村総合研究所 13 109
三菱電機 13 108
三井住友銀行 12 55

※東京理科大学ホームページより。平成25年度卒業・修了生の就職先で1社につき12名以上の入社実績をあげた企業を多数順で記載。

課外ゼミと奨学金でモチベーションアップ

▲東京理科大学葛飾キャンパス

2013年度の国家公務員採用総合職試験で、東京理科大学は前年度の27人を大きく上回る56人の合格者を輩出した。その背景には何があるのだろうか。

「かつて一人の教員が公務員志望の学生を集めてスタートさせた公務員ゼミ(教養試験対策)を就職支援行事の一環として取り入れ20年以上が経過しました。ゼミの名がつけられている通り、そこでは先輩が後輩にレクチャーする光景も当たり前のように見られるようになりました。他大学の学生とグループディスカッションをトレーニングする交流政策討論会を開催したり、公務員面接対策や対策講座の充実にも取り組んできました。

また、国家公務員総合職試験の最終合格者には奨学金を支給するなどして意欲の喚起にも努めています。そんな長年の蓄積がここにきて実を結んだのだと思います」(柴田氏)

ほかの支援行事にも目を向けてみたい。柴田氏に、東京理科大学ならではの支援行事は? とたずねてみた。

「それぞれのプログラムは、おそらく多くの大学でも行っているものばかりだと思いますが、たとえば『企業研究セミナー』で講演や講義をお願いする企業は、学生の志望に沿った研究職や開発職を採用する企業を招く等、専門性に特化している点は特色といえるでしょう。

また、『OB・OG懇談会』には、企業研究セミナーでも協力いただいた企業に勤務する卒業生を招き、概要をつかんだ上で、働く自分の姿をイメージしたり、就職に向けたモチベーションを高めたり、残りの学生生活の有効な使い方を考えられるように工夫しています」

今後は研究職や開発職、技術職として第一線で活躍する企業人が、その成果に至るまでのプロセスを語る「プロジェクトXのような」(柴田氏)講演で、就職ばかりでなく学びと結びつけて将来へのモチベーションを高める支援行事を計画しているという。

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