シリーズ22

高等教育の出口力

第1回
明治大学


明治大学 キャリア支援部 就職キャリア支援事務長
高瀬 功(たかせ いさお)氏にきく
※組織名称、施策、役職名などは取材当時のものです
更新:2014/04/28
「就職力」で大学をランク付けした一覧を見かけることがあるが、そのもとになっているデータは何かと調べてみると、単に大学が公表する就職率(就職者÷就職希望者)であったりする。なかにはそこに公務員になった者の割合や、人気企業〇社への就職者数、あるいは有名企業の人事部長や高校の進路担当教員へのアンケート調査の結果を数値化して加味しているケースもあるようだが、そもそも大学が発表する就職率には公務員になった者も含まれているはずだし、なぜ人気企業が対象なのかとか、まして人事部長や高校教師へのアンケート結果など人気ランキングにすぎないではないかと、疑問が残る。
就職力ではなく「出口力」――学部構成も入学者の学力層も、地域性もさまざまな大学の、就職率を比べるのではなく、卒業後の自立を促す実践に触れ、またその実績から、卒業後の自立につながる出口力をはかる指標の見方を、複数回にわたって考えてみたい。

明治法律学校の創立は1881(明治14)年。明治大学は、1919年施行の大学令に基づき翌20年にはいわゆる旧制大学の認可を受けた、私学としては最も歴史ある大学のひとつだ。現在では法、商、政治経済、文、理工、農、経営、情報コミュニケーション、国際日本、総合数理の10学部体制で、そのもとに28学科を配置。また、卒業生の進路ともなる大学院としては、学部の教育・研究に対応した12の大学院と、法曹界を目指す法科大学院、および会計専門職研究科をはじめとした3つの専門職大学院を開設している。

大学発表の就職率よりも
卒業者に占める就職者の割合

以下に記すデータはすべて2013年3月卒業者のデータである。2014年3月卒業者の就職状況は、特に大手企業の新卒者採用枠の拡大が伝えられ、ここに示すデータよりも好転していることが予測されるが、大学サイドの集計がまとまるのが例年5月前後、また、全国平均ともいえる文部科学省の「学校基本調査」の速報発表も8月あたりであるため、あえて前年データをもとにした。

明治大学の2013年3月卒業者数は6,989人。うち就職者は5,068人で、卒業者に占める就職者の割合は72.5%である。

一般に、大学が発表する就職率の分母は卒業者数ではなく、そこから大学院や専門・各種学校進学希望者や留学希望者、各種試験の再チャレンジ希望者、未届けによる不明者などを除いた就職希望者数が用いられる。しかし、こういった就職以外の道を希望する者の中には、就職をあきらめた者も少なからず含まれていると考えられ、大学の出口力の指標としては盲点が多すぎる。学部ごとに傾向のある大学院進学者の多寡などをわきまえた上で、小細工なしに、何人が卒業し、何人が就職したかを見つめる方が分かりやすい。

明治大学の卒業者数に占める就職者の割合72.5%の比較対象は、全大学のデータを集計して発表される文部科学省の「学校基本調査」から算出できる。同調査によると、2013年3月の大学卒業者数は558,853人。うち、就職者は375,957人で、卒業者に占める就職者の割合は67.3%となり、5ポイント以上、明治大学の方が高い。

また、大学院進学者の多い理工系学部の出口力については、その進学者数の割合を見落とすわけにはいかない。以下は明治大学の理工学部・農学部と、「学校基本調査」から抜粋した同系学部の就職者と進学者の割合である。

〈理工学部 就職者〉 明治大学 51.8% 全国平均 53.0%

〈理工学部 進学者〉 明治大学 40.5% 全国平均 37.3%

〈農学部 就職者〉 明治大学 67.9% 全国平均 58.9% 

〈農学部 進学者〉 明治大学 18.4% 全国平均 24.2% 

「金融」の明治は
企業・業界からの信頼の証

明治大学の学部卒業者の業種別就職状況は下記のグラフに示すとおりだ。法学部で「公務」、理工学部や農学部で「製造業」への進出者が多いのは学部の特色を表しているといえるが、総じて「金融・保険業」の割合が高いのが目につく。

「メガバンクを筆頭に、金融関連企業の新卒者採用枠が大きいのがひとつの要因ですが、文系学部ばかりでなく、理系学部の卒業生も少なからず進出しているのは明治の特色だといえるでしょう。こと就職に関しては『金融の明治』といっていいのではないでしょうか」(就職キャリア支援事務長・高瀬功氏)

なるほど法学部、商学部、政治経済学部、経営学部の社会科学系はいずれも20%を超える高率で学部内トップ。また、文学部では卸売・小売業に続き、情報コミュニケーション学部においても情報通信業に続く2番手の進出業種に位置づけられ、理系学部である農学部でも7.1%、理工学部でも4.2%の卒業者を送り出している。

採用意欲の高い企業がわかる
学内セミナーと求人票

こういった明治大学の出口力の背景に、全国のさまざまな業種や職域に卒業生を送り出してきた130年を超える実績があることは間違いないが、高瀬氏は 「フェーストゥフェースをモットーとするきめ細やかなキャリア支援も一助になっていると自負している」という。

明治大学が過年度に行ったキャリア支援プログラムは別掲の通りだ。そこに記されたラインナップに他大学との大きな違いは見られないが、 「その中身の濃さには自信があります。低学年次のプログラムとして配置する『キャリアデザイン講座』は、選択制とはいえ、正規の授業科目です。オムニバス形式で行われる現役ビジネスパーソンによる講義から、大学4年間を通したキャリアデザインをイメージしてもらいたいと思っています。 また、年間の個別相談件数はのべ2万件を超え、学内企業セミナーへの参画企業は約1千社、大学に届く求人票は5千社を超えています」

学内企業セミナーとは、大学を会場に在学生だけを対象にした合同企業説明会のことだ。大学の要請に応じて集まってくるのは、その大学の学生を採用しようという意欲の高い企業ばかりであり、その参画企業の数は出口力の大きな指標となる。大学に直接届く求人も同様。やはり採用意欲の表れであり、高瀬氏の言葉を借りるなら「色の濃い求人」といえる。

セミナー参画企業が約1千社、求人数が5千社を超えるということは、数の上では、それだけですべての卒業生の就職をまかなうことも不可能ではないはずだ。そこにどのような企業が名を連ねているのか気になるところだが、 「参画を希望される企業はもっと多いのですが、日程や会場の都合ですべてに応えきれないのが実情であるため、公表は差し控えたい」とのことである。

また、近年、各大学が推進するインターンシップは、体験学習であることが目的だが、その実は、企業にとっては目ぼしい学生を見いだす機会にもなっているようだ。ラインナップにある「全学版インターンシップ」はどうなのだろうか。

「採用には直結しないことを前提にはしていますが、そうはいっても採用の観点で就業機会を与える企業は少なくはないと思います」

同インターンシップには例年400人ほどの学生が参加。また、各学部が主催して行う正課の授業として行うインターンシップもあるという。

明治大学のキャリア支援プログラムのラインナップ
学年 時期 プログラムの内容
1〜2年 キャリアデザイン講座
OB・OGによる仕事研究セミナー
産学連携仕事体感プログラム
全学版インターンシップ
コンピテンシー診断
3年 5月 ゼミ・サークルなどでのグループ相談会(通年)
マスコミ就職セミナー
6月 プレ就職・進路ガイダンス
コンピテンシー診断
公務員ガイダンス
8月 全学版インターンシップ
9月 工場・事業所見学会(理系)
10月 就職・進路ガイダンス
就職適性検査・筆記試験対策テスト
エントリーシート対策講座
仕事研究セミナー
フランス企業フォーラム
11月 就職活動体験報告会
女子学生のための就活セミナー
OB・OG訪問会
WEB就職適性試験対策講座
グループワーク講座
ドイツ企業フォーラム
全国U・Iターンセミナー
就職活動直前セミナー
12月 業界研究会(理系)
ジョブスタディ(理系)
1月 学内企業セミナー
5大学合同グループディスカッション&
グループ面接体験講座(理系)
公務員業務説明会
企業見学会
マナー講座
就職活動ガイダンス(理系)
2月 学内企業セミナー
OB・OG懇談会
模擬面接会
3月 理工学部学校推薦ガイダンス
4年 4月 理工学部学校推薦応募〜決定
5月 就職活動支援講座
6月 学内企業セミナー
10月 学内企業セミナー
11月〜 学内採用選考会・面接会

非正規労働につながる
退学率にも注目

最後に、退学者についても触れておきたい。卒業にたどり着くことなく大学を去る退学もまた、大学の出口力の問題といえなくもないからだ。

文部科学省は年間6万人以上の大学退学者がいると推計。その退学者が非正規労働者増加の要因になっているとも考えられるため、今年から本格的に調査に乗り出すという。

明治大学は学部退学者数についても公表している。その資料によると、2009年4月に入学した学生7,348人のうち、標準修業年限である4年後の2013年3月までに退学(除籍を含む)した学生は251人で、退学率は3.4%。8〜10%と試算される全国の退学率推計よりもはるかに低い数値となっている。

■明治大学 就職キャリア支援センター
■明治大学
 
 
 

▲明治大学 キャリア支援部 就職キャリア支援事務長 高瀬 功氏

Lineup

シリーズ16
生徒のネットトラブルに関する
高等学校アンケート調査

シリーズ15
インターネット活用に関する
高等学校アンケート調査

シリーズ14
看護師への進路を考える

シリーズ13
生徒募集広報に関する
高等学校アンケート調査

シリーズ12
高等学校における防災対策に
ついてのアンケート調査

シリーズ11
エンタメでキャリアを磨く
高等教育機関

シリーズ10
ゆれるAO入試

シリーズ9
専門学校の実力

シリーズ8
魅力ある短期大学づくり

シリーズ6
リメディアル教育の現場

シリーズ5
忙しい先生の業務効率化と
円滑な学校運営

シリーズ4
専門学校とAO入試

シリーズ3
高校における
「奉仕」活動のあり方

シリーズ2
高校のインターンシップを
考える

シリーズ1
教員を育てる