EYE's Journal

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29-2

シリーズ29 看護職の現場最前線レポート
Part.2
訪問看護師という仕事と
看護職の学習支援(後編)

訪問看護師、大学非常勤講師、コラムニスト(東京新聞)
宮子 あずさ(みやこ・あずさ)
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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「看護師」とひとくくりにいっても、その職場は病棟・外来・手術室など、異なる知識や経験を必要とする仕事があり、診療科によってさらにさまざまな知識が必要となる。看護師のやりがいや労働環境などの著書・研究で知られ、東京新聞でコラムニストを務める宮子あずさ氏は、訪問看護師として、今も多くの患者の自宅を訪れている。看護師人生を振り返っていただくとともに、訪問看護師の現場の話と大学や大学院での指導内容について伺った。(全2回・前編はこちら

看護職向けの学習支援を
大学と大学院で行う

▲宮子 あずさ氏
博士(看護学/東京女子医科大学)、人間総合科学大学、東京女子医科大学大学院非常勤講師

宮子氏は現在、訪問看護師として勤務する傍ら、人間総合科学大学と東京女子医科大学大学院で非常勤講師を務め、看護職の学習支援を行っている。それは仕事をめぐる失敗や反省、手さぐりで見つけた解決策など、宮子氏自身の経験が礎となっている。

「私は30歳くらいの頃、職場で仕事がうまくいかなかった時などに、罵られるばかりの時がありました。日々、どんなにがんばっても結果が出ずに、悩みました」

マニュアル通りに、しっかりと仕事をこなしているつもりでも、何か足りていないのではないかと感じた宮子氏は、その解決策を模索するために、通信制大学への進学を決意する。

「大学通信教育で勉強を初めてみて、いろんなことを勉強しているうちに、新たなことがわかることが面白くなってきて、看護の現場で『できること』から『わかること』に価値観が変わってきて、看護師として働きやすくなりました。学ぶということは、自分の場面を解釈する力をつけていくことだと思いました」

宮子氏が看護師として勤務しながら進学したのは、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科(短大)、産能大学経営情報学部経営情報学科(学士)、武蔵野美術大学造形学部(学士)、明星大学大学院人文学研究科(修士)の、いずれも通信教育課程である。これらは、看護の専門領域と直接関係があるわけではない学科だが、そこで看護職として学ぶことにどのようなメリットがあったのか。

「学んでいくということは、複雑さを理解する力をつけるということです。医療の現場で働いていくということは、医療のしくみ自体が複雑で、その複雑さを理解していく力が大切です。それはさまざまな領域を広く学んでいくことで、力がついていくのではないかと思うのです。看護職が長く仕事を続けていくためには、自分らしく学んでいくことが力になるのではないかと思います」

看護そのものを学ぶことも大切ではあるが、大学やその他の教育機関を活用し、一見無関係に見える領域を学ぶことで、仕事に役立てられる知識やヒントがあらゆるところに存在するということだ。

「看護職の学習支援をしたいというのが私のライフワークです。学び続けていくことで看護師をとりまくこの複雑な状況を、または誰かを恨んだりせずに仕事ができよう、考えながら乗り越えていく、そういう力をみんなで育てていく、そんな支援がしたい。だから看護職への学習支援を続けていきたいのです」

大学や大学院の非常勤講師として、宮子氏はどんな授業を行っているのか。

「具体的には、論文を書く支援です。人間総合科学大学では卒論。東京女子医科大学大学院では博士論文です」

看護職の学習支援をするのなら、非常勤講師ではなく、宮子氏自身が教授や准教授として大学に身を置くという方法もあるが、なぜあえて看護師を続けているのか。

「やっぱり看護職は、看護職のしんどさを共有している人と学びたいのではないかと思います。だから私は大学の常勤ではなく、看護職として働きながら、学習支援者として同伴したいと思っているのです」

看護師に向いている人とは
人間に対して興味のある人

宮子氏は著書も多く、多くの読者が看護師を目指すきっかけになっている。そんな宮子氏に、看護師に向いている人とはどんな人なのかについて聞いてみた。

「よく『人間が好きな人がなるといい』という人もいるけれど、私は看護師になってから、複雑な気持ちになることが増えました。

病気が人を変えるということがあります。元気な時は『良きオトナ』で、『家庭があって、家族に優しかっただろう人』が、病気によって醜さが引き出されてしまい、看護師はそれを目の当たりにすることになります。人の醜いところを見なければならないのに、『看護師は人間が好きでないと』と言われると、しんどいのではないでしょうか。やっぱり、人間が怖くなったり、いいなと思うことがあるなど、この仕事でないと見られない、人間の本当っぽいところや真実みたいなものが垣間見ることのできるのがこの仕事です。

ひどいところも素晴らしいところも、本当っぽいところに触れられる世界ですから、好きになるかどうかではなく、『人間の本当のことを知りたい』というところが強いのではないでしょうか。だから、人が好きでも嫌いでも、人間についてすごく関心があるという人がいいと思います」

最後に、看護師を目指すみなさんに、一言、アドバイスを求めた。

「やっぱり看護師は長く続けてもらいたい仕事です。長く続ければ、つらかったことも楽しかったことになりますし、いろんな人に会えるので、楽しみながら働けるというのがメリットだと思います」

取材・構成:松本 肇(教育ジャーナリスト)

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