EYE's Journal

いま知りたい教育関連のテーマについて、ドリコムアイ編集部が取材・調査

30-1

シリーズ30 インタビュー・馳 浩 前文部科学大臣に聞く
Part.1
馳 浩 衆議院議員
「次世代の学校・地域創生プランを通して
教育の強靭化を!」(前編)

衆議院議員(前文部科学大臣)
馳 浩(はせ・ひろし)
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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2016年8月中旬、編集部は、8月3日の内閣改造により、文部科学大臣の重責を後任の松野博一大臣に譲った馳浩前文部科学大臣の元を訪れ、在任中に進めていた政策、今後の教育行政のあり方について、話を伺った。(全2回)

まずは教育環境の基盤整備を
教育改革には不断の努力が必要

▲馳 浩氏

--大臣を退任された直後ですが、現在の心境からお聞かせください。

2つあります。まずはホッとしたということ。10カ月という期間、国会で法案を成立させるための答弁などをやらせていただきましたが、私が取り組んだのは、例えば教員定数の確保、国立大学の運営費交付金の確保、私学助成の確保などの問題でした。

在任中、大きな災害もありましたけれども、基本的に老朽化対策の施設の整備予算を確保することは、教育環境の基盤整備にとっては、なくてはならないことだと考えていました。これまで、こうした予算は削減対象となりがちでしたが、その削減幅を食い止めることができたと考えています。もちろん、エビデンスに基づいて、予算確保のための根拠を示し、議論が必要であろうという方向に転じることができました。

やはり、教育行政が安定して予算を確保し、教育現場が教育活動に専念できることが望ましいに決まっています。そういう役目は果たすことができた、という意味でホッとしています。

もう1つは、これからの教育行政の方向性を示すことができたこと。教育改革には不断の努力が必要です。私は、中教審の答申を受けて「馳プラン」を出しました。

1つは、教員制度の一体的改革(子供と向き合う教員の資質能力の向上)。1つは「学校の組織運営改革(『チーム学校』に必要な指導体制の整備)」。もう1つは「地域と学校の連携・協働に向けた改革(コミュニティ・スクール、地域学校協働活動の推進)」です。

すでに、この3点については、中教審の答申を受けて、合計して7本ほどの法改正の準備をしております。秋の臨時国会では第一弾として、教職員の質の改善、これに関する「教育公務員特例法」とか筑波の教員研修センターの改正法とか教員免許法改正案、この3点セットで提出されることになっています。

教育行政には継続性が必要で、制度の面から常に不断の見直しが必要です。私自身が、文部科学大臣として、その芽出しを行うことができたこと、それにかかわることができたことを光栄に思っています。

今後は、自民党の文部科学部会の一員として、閣僚経験者という立場で、必要な教育改革の制度改正や財源確保に取り組んでいかなければならないという決意を新たにしております。

--考えていた改革をどこまで進められたとお考えですか?

十分に自分の役割を果たすことはできたと考えています。松野新大臣に、教育再生という流れをつなぐことができたという充実感はあります。

「教育の強靭化」を実現するために
必要なものとは

--教育再生の中でも「いの一番」にやらねばならないと考えていらっしゃるのは、どういうことでしょう?

今回の学習指導要領の改正で重要なのは「教育の強靭化」ということです。下村大臣の時に「学力とは、評価とはどうあるべきか」という議論を当時の中教審でしていただいておりまして、それを踏まえて、この8月に学習指導要領が改訂されました。

こうした議論の中で、どうしても、今まで引きずってきたのが「ゆとりか、詰め込みか」という二者択一の議論。今回、この論争には終止符を打たせていただきました。学習指導要領の改訂で、教育内容の削減は、これ以上しない。これがまず一点です。

同時に、目指すべき「学力」とは何か、という問題があります。これは下村さんの時に出していただいたように、3つの指標があります。

1つ目は基礎学力や技術技能、基本的な知識教養。2つ目が表現力や決断力、想像力。そして3つ目が、まさしく主体的に学ぼうとする力とか求める力、これはリーダーシップと言い換えてもいいのですが、この3つのポイントを基本的な学力と考え、それを踏まえて「強靭化が必要だ」という方向性が出てきたわけです。

「再チャレンジ」も必要です。競争すれば、その競争は残念ながら敗者を生み出してしまう。「人としての価値観」あるいは、社会を生き抜く技術というのは常にバージョンアップしていかなければなりません。

基本的にはやはり「粘り強さ」とか「我慢強さ」とか「打たれ強さ」とか、まさしくそういう「しなやかな強さ」が必要なわけで、勝者は勝者としても、敗者は敗者としても、現実を受け止め、常に自分の能力をブラッシュアップし、再チャレンジしていく強さが必要です。そしてもちろん、謙虚さも必要です。こうした考えを「教育の強靭化」という一言に込めました。

この背景には、1つの事件があります。いわゆる学力テスト問題です。

生徒たちに過去問題調査を徹底的にやらせて、それで高得点をとらせることができれば、学力テストの務めは果たした、と大きな勘違いをしている教育委員会、教育長がいました。

もちろん、テストそのものを否定するわけではありませんが、学力には、教科書を通じて基本的な知識教養を学ぶということと、学んだ事を活用して調べ物をしたり、互いに協力をしあったり、調べて協力しあった事を1つの方向性としてまとめていく、という2つの側面があります。後者の学力の中には、点数だけでは計り知れない価値観があるはずです。

リオ・デジャネイロ・オリンピックの戦いを見ておりますと、象徴的ですが、例えば、卓球は個人競技です。だけども、チーム力があってこそ、成果が発揮され、価値観が生まれてくる。女子団体は銅メダルを獲りましたが、大変素晴らしい成果として評価されるわけです。

もちろん、学力テストでいう「点数」を取る技術は必要なのかもしれませんが、世の中を生きていくには、残念ながらそれだけでは不十分です。

▲馳氏には当サイトの前身、雑誌『ドリコムアイ』で2002年から2006年まで、エッセーを連載していただいた

かつて、私が連載していた『ドリコムアイ』が雑誌形態からネット配信のWEBマガジンになったように、社会は変わって行く。それに対応できなければ、今という時代を生きていくことはできません。「昔は良かった」だけでは通用しないのです。そういう現状を踏まえて、いかに役割を果たしていけるか。いつまでも「紙の媒体」が通用すると思ったら大間違い。ネットを通じて、多くの方々に発信し、ネットを通じることで、双方向のやり取りも可能になるわけです。

そういった意味で、本当の学力とはなんなのか。それは、点数競争だけでは計り知れないものがある、と。こういうことについて、私が大臣の時に発信することができたことは大きな成果だったと思っています。

【後編に続く】

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