EYE's Journal

いま知りたい教育関連のテーマについて、ドリコムアイ編集部が取材・調査

45-1

シリーズ45 女性高等教育最前線ルポ
Part.1 
法政大学
誰のものでもない、自分の人生を生き抜く。
変化激しい時代に求められる力とは。

法政大学
総長 田中 優子 教授
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
公開:

「江戸時代の文学・生活文化」を専門とする田中優子教授は、法政大学社会学部教授、同学部長を歴任後、2014年4月、総長に就任。以来、長期ビジョン“HOSEI2030”の策定や法政大学憲章の制定に着手するなど、大規模な大学改革を進めてきた。東京六大学初の女性トップとして輝かしいキャリアをもつ田中教授は、一人の女性としてどのような人生観を育み、キャリアを築いてきたのだろうか。田中教授の高校・大学時代や法政大学総長としての取り組みを通じて、「変化激しい今の時代に身につけるべき力」について考えてみよう。

型にはまらず、興味あることに
挑戦し続けた学生時代

▲総長 田中 優子 教授

神奈川県横浜市に生まれ育った田中優子教授は、鎌倉市内にあるカトリック系の女子中高に進学した。幼い頃から本を読むことが好きだった田中教授は、高校進学後もその思いを育んでいった。

「校則の厳しい高校でしたが、当時から好きなこと、これと思ったことに挑戦してきました」

「女性だからこうあるべき」と生き方を決めつけるのではなく、型にはまらず自分らしく生きたい。このような考えを抱いていた田中教授は、読書好き・本好きを活かせる課外活動として編集部を選択。自らカメラを持って取材・撮影に臨むうちに、写真にも興味を抱くようになった。

「横浜港では港に携わる人々がたくさん働いている。その姿を見てみたい」と、早朝の横浜港を撮影。写真好きが高じて、自ら高校にかけあい、写真部を設立したこともあった。

「今と違ってフィルムの時代です。自分で現像や焼き付けをしたかったので、理科室の一角に暗室を作ってもらいました」

一つ好きなことができると、そこから新しい世界を知り、興味・関心の幅が広がっていった。

「もっと知りたい、その先にある世界を見てみたい」という思いが高じていき、やがて高校の外ーーすなわち社会そのものにも目を向けるようになった。

「社会で何が起こっているのか。どんな課題があるのか。大学に進学したら、社会で起きていることをしっかりと見つめ、課題を解決する方法を自分なりに考えていきたいと考えるようになったのです」

漠然とだが、ジャーナリストになれたらと思った。この思いを叶えられる大学はどこにあるだろう。進路指導の教員に思いをぶつけたところ、こんな言葉が返ってきた。「あなたには、法政大学が合っていると思う」ーー教員の言葉が腑に落ちた。

「高校時代、法政大学の教員が書いた本を何冊も読みました。彼らは評論家としてテレビや雑誌などのメディアに情報を発信していたのです」

キャンパスの中に閉じこもることなく、常に社会と関わりを持ち続ける法政大学の教員たち。彼らの姿に、理想の社会人像を見出したのだ。

法政大学に進学した田中教授は、多くの出会いと発見、学びを得た。

「知識豊富で自分の考えを持った教員や学生がたくさんいました。彼らは、対等に議論を交わせる存在です。大学で様々な人と出会ったことで、私自身の価値観も育まれましたし、興味・関心の幅がさらに広がっていきました」

日本文学を専攻していたが、言語学の授業を履修したことから言語調査に参加した。江戸文化の楽しさを知ったのも、学部時代だ。「まったく興味がなかった分野でした。それが学生時代、江戸文化に詳しい作家の著書を読んだことから、専攻するように。今では、江戸文化が私の専門分野となりました」

思わぬ出会いがある度に、田中教授は「面白そう」と自ら飛び込んでいった。その連続により、思わぬ広がりを得たのである。

先を読めない時代だからこそ、
変化を楽しむ心をもとう

法政大学で江戸文化を研究した田中教授は、同大学で教鞭を執るようになった。そして、2014年4月、法政大学総長に就任。その2年後にあたる2016年、「法政大学憲章」を制定した。

今、社会は大きな変革期を迎えている。終身雇用が当たり前の時代は終わりを告げた。企業のグローバル化がますます高まる一方、AIの進歩により多くの仕事が淘汰されると言われている。

「つまり、私たちは流動的な社会の中で、先を読めない時代を生きていくことになるのです」

今、存在しない新しい職業が生まれるかもしれない。海外で働くことが、当たり前になるかもしれない。宇宙空間で働く日が訪れるのも、そう遠くないかもしれないのだ。

「たとえば、弁護士を目指している高校生が法学部に進んだとします。高校生が社会に出る頃には、弁護士の仕事や役割が変化しているかもしれません。“今の知識や価値観”で判断しても、その通りになるとは限らないのです」

では、これから社会に羽ばたく子どもたちは、先の読めない時代をどう生きていけばよいのだろうか。その方法を、法政大学憲章で掲げている「自由を生き抜く実践知」から読み解くことができる。

自分という個を知り、同時に社会の理想を描くことが、実践知の基本となる。そして様々な場所で、様々な文化や価値観を持つ人々と関わりながら自分自身の価値観を深めていき、自分の言葉で表現する力を身につけ、「こうなりたい」「こうしたい」と思ったことを実践していく。これが「自由を生き抜く実践知」である。

法政大学では、学生達が「自由を生き抜く実践知」を身につけられるよう、学修環境の整備にも力を入れている。「100分授業」は、その1つ。一セメスターを100分×14回の授業とし、これまでの90分授業では難しかった討論形式の授業も可能とした。また、学部を横断して科目を履修できる「公開科目」を増やした。転部や転科をせずとも、興味ある領域の学問を専門的に学ぶことが可能だ。

かつて、田中教授は成績優秀な兄と自分を比べて、「私も兄のように生きていくべきなのかもしれない」と考えた時期があったという。

しかし、その思いは自然と消えていった。やりたいと思ったことに挑戦し、興味・関心の幅を広げ、法政大学という学びの場と出逢い、江戸文化という専門分野を見出した。田中教授は、誰のものでもない“自分自身の人生”を生き抜いてきた。

「親の言うがままに進路を決める高校生がいますが、それでは他人の人生をなぞるようなもの。高校生の皆さんには、他人を生きようとするのではなく、自分自身の人生を歩んでほしいですね。そして高校の先生や保護者の方々はぜひ、子どもたちの個性や能力を認め、『それでいいんだよ』と言ってあげてください」

今、第4次グローバリゼーションが到来したと田中教授は考えるが、第1次グローバリゼーションが起きたのは江戸時代のことだ。

「私たちは、すでに何度も変化を経験してきたし、変化の中を生き抜いてきたのです」

先の見えない未来を不安に思うよりも、「どんな未来が待っているだろう」とワクワクしながら思いを馳せてみようーー田中教授は最後に、こんな力強いメッセージを贈ってくれた。

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