EYE's Journal

いま知りたい教育関連のテーマについて、ドリコムアイ編集部が取材・調査

46-1

シリーズ46 先生とアプリ
Part.1 ICT教育先進校に聞く①
神奈川県立生田高等学校
21世紀型スキルの「道具・文房具としてICTが使える」
人材を育成するために

神奈川県立生田高等学校
管理運営グループ グループリーダー 総括教諭
天野 尚治 先生
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
公開:

生田高等学校は神奈川県のICT利活用校指定を受け、いち早くICT環境構築に取り組んできた。パナソニック教育財団の助成を受け「道具としてのICT」を推進。さらにスマホによるBYOD(私的デバイスの活用)導入で、全生徒がICT利用可能となった。本校ICTの舵を取る天野尚治先生に話をうかがった。

本校ICT導入の黎明と
神奈川県のモデル校指定

▲天野 尚治 先生

2013(平成25)年当時、理系志望者が比較的多い本校には、理科全般を広く勉強する「自然科学コース」があり、このクラスを対象として、同年後半に「ICT利活用推進モデル校」と「ICT利活用スーパースクール」の指定を受けました。この自然科学コースは今春の卒業者をもって、廃止されました。

モデル校とは、我々教員サイドの研究校です。コンピュータだけでなく、さまざまなICT関連の視聴覚機器を使い、違った視点からの授業アプローチができないかというものです。単焦点プロジェクタや書画カメラを導入し、コンピュータだけでなく、視覚的に変化が出せるような授業をさまざまな教科で積極的にやろうと。

例えば生物の実験で細かい解剖を大写しで出す画面提示なら、ICTに及び腰の教員でも比較的容易です。これで授業に変化が出せないか、教員全員が取り組んでほしいと、始まりました。

スーパースクールは、自然科学コースの1クラス40人を対象にタブレットとそれを束ねるサーバー・クライアントシステム、加えて1人1台で有線は難しいので無線LANも入りました。

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ただ5、6年前のWi-Fiインフラでは、1台のAP(アクセスポイント)に5台つながればいい方です。そんな状態でも、生徒たちが身近にコンピュータを使える環境は絶対必要です。普通高校にはコンピュータ教室がありますが、それだけでは不十分です。

やはり一般教室でも、いつでも使える状態を求める必要がある。それは、苦労の連続でした(笑)。結果的に1教室で10台なら何とかなるレベルで、仕方なく生徒を班分けし、各班に1台です。

当時はペンプラス(PenPlus)が提供され、生徒が入れたものをすぐさま情報共有できる授業支援アプリとして展開しました。ただ、その状態では、コンピュータが得意な子がいつも使ってしまい、不得意な子はやらない。

ICT利活用の成果としては、難しい部分がありました。

ところが授業効果では評価が一変します。それまでの一方通行の講義型授業では、教員の説明の仕方、展開の仕方がずっと問われてきました。ですが、1時間のうちの半分、あるいは単元の1時間をグループ学習すると、生徒の顔つきが変わり、すごくいい手応えがありました。

今でいう協働学習、グループ学習のはしりですが、生徒間のやり取りで授業が活性化されることに気づいた。講義型教科の先生もグループ学習を多用するようになり、その進展が本校のターニングポイントになりました。

パナソニック教育財団助成で
一歩前進したICT利活用

2015(平成27)年からICT利活用事業推進校という前の事業を引き継ぎ、高校改革がスタートし、継続的にICTを使っていくことになります。その段階で初めて、クラス単位でノートPCでもタブレットでも使えるようにしようと、Wi-Fiが整備されました。

当時から少し性能の良いAPが出始め、指定事業の協力メーカーのAPにも非常に優れたものがあったのでWi-Fiを強化しました。翌16年ころにWi-Fiをもう少し重点的にやるとともに、BYOD(私的デバイスの活用)の話も出始めました。

かなりAPの性能が上がり、1教室で40台使うこともほぼ可能になりましたが、40台のパソコンを教室で配り、片付けるのは結構手間で、プロジェクタの設置も最初は大きな負担でした。そこで県からパナソニック教育財団を紹介してもらえたので、最初は一般助成(年間50万円)をいただいて研究することになり、その一般助成で全教室にマグネットスクリーンを設置できました。

本校は当時から「21世紀型スキル」としての仕事の仕方、考え方に着目し、これからの子どもたちは「文房具としてICTが使えるようになってほしい」と考え、使える・使えない、の判断もできる生徒を育てるというコンセプトを持っていました。

同財団からは特別助成(2年間150万円)もあるので継続してはとお誘いいただきました。ここでは有識者、大学の先生からアドバイスをいただけるので、もう少し体系的にICTを使うことを捉えていこうと。単に効果だけでなく、どういうタイミングで使うとどんな効果があるのか、少し研究を進めました。

ICTの導入で学力が向上するのかという声もあります。「文房具としてのICT」は、それで学力が上がるという考え方をしません。効率化で空いた時間を勉強に充てるという展開も可能ですが、同財団からそういった部分も提示、指導いただき、それも含めたまとめができました。

BYODの導入と急速に進む
ハード・ソフトの整備

その後インフラ整備も順調に進み、BYODも本校が神奈川県のパイロット校として、いち早く着手しました。私学では入学の際に1台十何万もするようなものを購入する場合もありますが、公立高校ではなかなかできませんが、生徒、家庭にある程度ご負担いただくことは、やむを得ません。でも今の時代、生徒たちはスマホを持っているので、これをベースにしてやっていったらどうか。そういう着眼でBYODがスタートし、3年位になります。

APも通常の県立高校は3教室に1台くらいの網羅で少し穴があるのは間違いありません。しかし、当初から文房具、ツールとしてのICTを目指している本校では、それでは困るので、県に入れていただいたものに加え独自に準備し、メーカーにも少し協力いただいて、ほぼ全館Wi-Fiが使える状況にしました。ICTの利用でも班に1台のパソコン・タブレットが、生徒のスマホで済むようになりました。

そこで必要なのが授業支援のシステムです。本校ではG-Suiteを最初の導入から利用しており(当時はグーグルアップス)、それを基幹システムとしていました。ペンプラスの後、ロイロノートを入れることになり、現在も利用しています。ロイロノートは生徒たちが便利に使えるツールとして授業支援に活躍しています。G-Suiteは我々でも扱いやすいし、表計算などのツールはすべてWeb上で使えるので重宝します。学校全体の運営を支える基幹システムはG-Suiteです。

これもモデル校の頃から使っているのですが、クラウドはクラッシー(Classi)です。クラッシーは進路支援の色が強く、模擬試験の結果や、朝学習のコンテンツを持っているほか、学力だけでなく生活全体で勉強をどう捉えているかのスタディサポートなどの機能もあります。これら3つの基幹システムで本校は動いています。クラッシーは保護者の方も見ることができます。

考える力を引き出す
教員のスキルが求められる

ICTは文房具としてのツールですから、授業の中で使う・使わない、の判断も含め、生徒が自由にいつでも使えるのが大前提です。21世紀型スキルには、思考判断も含まれています。「どう考えるか」の部分が今、課題になっているところです。ICTを使いながら考える力をつける。そこを今後どうしていくか。これは、課題設定、発問をどう仕掛けていくかで、教員にとって一生涯の課題です。

例えば3択問題でも、間違えた子は、どこが違うのだろうと、すぐにフィードバックが来ます。そこでもう一度考え直し、ここだと気づく。そういう気づきをいかに多くの生徒に、多くさせるか。つまり、発問のレベルで生徒が気づく部分をどう入れていくか。さらにゲーム感覚もあっていいし、そのほうが面白い。でもそれは、教員側のスキルの問題になってしまいます。

自宅学習の部分でも生徒がやっていて面白い、もっとやりたいと思うような課題設定が必要です。いまはICTで配信できるし、問題の集計も簡単にできます。問題の質やレベルに注意を払い、そこをしっかりと出すことで、生徒はやる気を出すと思うのです。

アプリの活用では、本校は圧倒的にロイロが多いですが、QRコードを読み込んで何かをしていたり、シミュレーションソフトをやっていたり、最近は教科書会社もページを読み込むと動画が出るARのような仕掛けもある。それ以外に、すごく面白いアプリもあります。数学ならGRAPES(関数グラフ作成ソフト)が秀逸ですし、理科ならWebベースのPhETというシミュレーションの教材サイトはHTMLで動くので端末やOSに依存しないで使えます。

ただ、授業風景を撮影してみて思うのですが、BYODの授業では生徒は一斉に小さなスマホ画面を見ているという、全然面白くない画面構成になるのです(笑)。

BYOD導入で強化される
セキュリティ教育とモラル意識

本校では、BYODを直接インターネットに接続しています。もちろん認証はかけていますが、セキュリティ的にはフリーWi-Fiと同レベルです。ゲームもできるし動画サイトも見られる。それでもOKです。Wi-Fiを切ってLTEにしても、接続はできるのですから、ならばセキュリティ云々より、モラルをきちんと教育していこうと。

本校では1年生が1学期のうちに2回、携帯電話(スマホ)教室をやっています。モラルを身につけ、危ないことから生徒を守ることを目指しています。講師は通信キャリアやサイバー対策関係からも来てもらっています。2年生の情報の授業では、もう少し突っ込んだモラルの話をします。これが本校のスタイルですね。

校務でICTを活用するのは、例えば定期テストです。本校はマークシートが8割位を占めますが、昔の定期テストのような採点の手間を省いています。思考型の問題がないのではなく、定期テストは知識を問う問題でいいと考えています。普段の授業の中で思考を問うことをやっていけば、十分評価には耐えうるだろうと、マークシートを導入したわけです。校務上の情報の多くは、残念ながらまだ紙です。我々の出張など事務方の仕事は殆どICT化されていますが、やはり紙がなくならないとダメですね(笑)。

キーボード技術より重要な「打ちながら考える」スキル

本校はBYOD3年目で、生徒はほとんどスマホですが、2台目にPCを持ちたがる生徒が増えています。21世紀型スキルを考えると、キーボードはまだしばらく消えないという認識です。

キーボードは2年生の情報の授業でタッチタイピングをやりますが、個人的には特に必要ないのではとも思います。ただ打ちながら考えることは、書きながら考えるのと一緒で、必要になるスキルでしょう。論理的に打ち込んでいく練習は、した方がいいだろうと思います。考え方の段取りを身に付けておくことは、決して悪いことではありません。考え方にはいろんな方法、順序がある。そこを制限する必要はないと思います。

ICT導入に向け教員は何を目指していくべきか

いま、教育そのものが大きく変わるところだと思うのです。よく聞く言葉ですが、次世代を担う人材を育成している、その片鱗でも感じていれば、いろんなことが前に進むと思います。いまはWi-Fiを使っていますが、Wi-Fiもいずれ別の手段に置き換わるでしょう。次世代を背負って立つために、いちばん大切なのは何か。そこを大事に進めていただければと思うのです。

県内の研究仲間は「1人の50歩よりも50人の1歩」と言います。ちょっとずつでも、次世代につながることをやれたらいいと思います。公立高校の場合は何もないので、いろいろ考えなきゃいけません。最初から全部揃っているわけじゃないですが、そこを工夫するのが面白いです(笑)。

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