第38回 キャリア教育実践レポート

「埼玉県のキャリア教育推進校」Part.2

埼玉県立浦和第一女子高等学校の実践レポート
「多様な分野で次代をリードする人材を育成する」


インタビュー
埼玉県立浦和第一女子高等学校
進路指導部長 加藤 昭洋先生
副部長 瀧本 正史先生
※部署名、役職名、施策などは取材当時のものです
更新:2009/10/19
埼玉県では専門高校のみならず、伝統ある普通科高校も積極的にキャリア教育に取り組んでいる。とくに1900年(明治33年)創立と百余年の歴史がある女子高が、浦和第一女子高等学校だ。
首都圏の有力大学に毎年数多くの卒業生を送り出しているほか、部活動・行事なども活発に行われている。目指す学校像を「個性輝き次代を担う女性を育てる 県民が誇れる進学校」として、さまざまな分野でリーダーシップの取れる人材育成に努めている。総合力を備えた将来の日本を担う人間性豊かな女性が目指すところ。
そのためにキャリア教育をどう捉えて、どのような取り組みを行っているのか、進路指導部長の加藤先生と副部長の瀧本先生に話を伺った。

学問の面白さに目覚め、本物に触れさせる
高校年代にしかできない教育が大切

進学校としての本校は、すべての生徒が大学への進学希望者です。キャリア教育というと、将来の職業を意識させることに目がいきがちですが、私たちはその時点その時点で生徒ができることをしっかりやることも大切だと捉えています。

高校の時点で大切なのは、学問は面白いものだと目覚めさせること、そして本物にたくさん触れることではないでしょうか。学問って面白い、芸術や伝統芸能、スポーツにしろ、本物ってやっぱりすごい、と感性豊かなこの時期に触発を受けたら、それは大学そして社会に出てからも学ぶ意欲につながるでしょうし、人間性・社会性も広がっていくでしょう。

また、男女共同参画社会と言われる中で女子校の存在意義が問われることもありますが、本校の多彩な活動を通して、自分たち女子だけでも何でもできてしまう、その達成感と自信を得る生徒が多く、「女子校で良かった」という肯定的な声が圧倒的です。いずれは男女が混じり合う社会に出ていくわけで、この一定期間、女子の中でリーダーシップを取る経験は貴重でしょう。そこで得た自信と経験は社会に必ず役立つし、女子校の存在意義は確実にあると思っています。

部活動や生徒会活動も大切にし、
生徒の自主性と責任を尊重する

本校は学力向上委員会などを設置して進学に向けた勉強に力を注いでいますが、それ以外にも行事や部活動、生徒会活動等も大切にすることで、人間性豊かで総合力とリーダーシップを持った女性を育成することを目指しています。自主性と責任が尊重される学校としての伝統が息づき、生徒に自学自習の態度が身についているのが特徴。私たち教員も生徒にあれこれ事細かく指導するようなことはなく、意欲を後押しする姿勢を大切にしています。

近年は人生や世界を考え、未来を目指すため、意識付けの部分としてキャリア教育にも力を入れています。具体的には週1時間の「総合的な学習の時間」を中心に、本校オリジナルのガイダンスノートに沿ったカリキュラムを通して、次なるステージへの基礎を作り、考えを深め、成長していくよう促しています。

OGを招いて「進路講演会」を実施
社会人としての生き方を学ぶ

キャリア教育の最初の行事といえるのが、4月に開かれる卒業生による進路講演会や進路懇談会です。進路講演会は全校生徒を対象とし、女性のキャリアモデルとして生き方を考えさせ、適切な進路選択の一助とするため、各界で活躍している卒業生OGを招いています。2008年には本校卒業生で日本テレビアナウンサーの豊田順子さんをお招きして、高校時代の活動やアナウンサーという仕事を通しての体験談などを語っていただきました。

進路懇談会は、3年生を対象として、卒業生(教育実習生を含む大学生)ら、志望校決定までの経緯や受験勉強の方法・手順などの体験談や、大学での生活・専攻している学問について具体的な話を聞き、進路意識を高めています。生徒各自の進路希望に沿って、全13分野の分科会として実施しています。

本校は活発で話し好きな生徒が多く普段から教師との親交も密でコミュニケーションが活発ですが、こうした講演会などでも生徒の問題意識は高く、例年積極的に手を挙げて質問する姿が見られます。実際、卒業生の話を聞いて「大学進学に向けての心構えや社会人としての生き方を学ぶことができた」という感想が進路ガイダンスノートにも多く書かれています。

夏休みには「職業調べ」を実施
発表会で職業の認識を深める

1年生の夏季休暇中の課題としては「職業調べ」を行っています。調べる職業は、自分が将来就きたい職業が望ましいのですが、他の身近な職業でも良いとしています。実際の仕事内容、職業を選んだ理由、この職業をやっていて良かったこと、大変なこと、必要な資格、高校時代をどう過ごすべきか等をインタビューし、話を聞いて感じたことを自分なりにまとめて担任に提出します。身近にいる父親の仕事を調べたり、近所のお医者さんや専門家だったりといろいろ。かつては調べるだけで終わっていましたが、今はクラス発表会で互いにまとめたものを発表したり、意見交換したりすることでいろいろな職業の認識を深めています。

大学見学会には100名を超える保護者が参加
子どもの進路支援と情報交換に意欲的

夏休みには保護者と教員による大学見学会を実施しています。例年、120名から150名もの保護者が参加するため、大学側からも「とても熱心ですね」と驚かれることもあります。保護者が自ら情報を得てわが子の進路を支援しようという意識が強いですね。保護者の中には本校のOGもいるのですが、とくに母親同士の交流意欲は非常に高いといえるでしょう。

名物行事「一女祭」への参加意欲が
将来のリーダーシップに反映されていく

夏休み明けの行事には「一女祭」があります。これは体育祭と文化祭がセットになった本校の名物行事です。3年生になると受験が間近に迫っているため、本腰を入れて打ち込みたい生徒と、受験勉強を疎かにしたくない生徒の間で多少ぎくしゃくしたり、意見の相違がどうしても出てきたりしますね。その時に教員が調整役になることもあります。ただこの「一女祭」をやりたくてこの学校に入ったという生徒もいるわけで、私たち教員はその熱が冷めないようにしています。

あまり加熱しすぎないようにと夏休み末の1週間に準備期間を限定していますが、こうした行事が生徒たちの活力となっているのは間違いなく、行事にそれぞれが主体的にかかわることが、社会に出てからのリーダーシップにも反映されていくのだと思います。

体育祭ではスポーツ競技はもちろん、仮装行列やミュージカルなど伝統的な行事が行われます。また文化祭では実行委員会とそれをバックアップする有志が募ってさまざまなイベントや文化発表が行われます。それらを仕切る上級生の姿を見た下級生は、自分たちも来年はもっと頑張ろう、と伝統が継承されていきます。その間は教員も生徒の邪魔にならないよう、見守るという感じですね。

生徒はSSH参加で科学が好きになり
将来の夢も明確になった

本校はSSH(スーパーサイエンスハイスクール)に指定されていることから、科学教育の充実にも力を注いでいます。参加者を募って2008年にはサイエンスツアーとして、1年生は夏季休業中(2泊3日)に、筑波宇宙センター、あぶくま鍾乳洞、アンモナイトセンター、アクアマリンふくしまを訪問しました。

2年生は夏季休業中に東北大学オープンキャンパス見学と加速器の実習を行うラボツアーを実施しました。これら先端科学の研究所や大学等を訪問し自己啓発に努めています。また大学教授等による講演会や出張講義を行い、生徒の科学的視野を広め研究に対する意識を高めています。2008年度には東京大学名誉教授・養老孟司先生に「科学とは何か」「言葉とは何か」について講演していただきました。この時は保護者も約100名が参加しました。

3年生が3年間SSHに参加しての感想には以下のものがあります。

「SSHは大学での講義が多く、大学の雰囲気を感じることとともに、大学では主に一つの分野のことしか深く学べないが、これらの講義で様々な分野のことに多少なりとも触れることができ、とてもよい経験ができたと思っている。やはり一つの分野だけを深く知るのではなく、広く深く物事を知らなければ、正確に物事の判断はできないと思うようになった」

「本当にSSHに参加することができた私は幸せものだと思います。研究で成果が出せたのも、不自由なく満足するまで実験が行えたのも、素晴らしい環境があったからだと感謝しています。SSHを通して、さらに科学が好きになり、将来の夢も明確になりました。本当に私にとってSSHの活動は人生を変えました」

実績ある元選手などを招聘
スポーツにおけるリーダーを育成

さらに「スポーツにおけるリーダーの育成」として「運動部リーダー育成研修会」を実施。2008年11月には陸上の元オリンピック選手である高野進氏(東海大学准教授)などによる講演会を開きました。高野先生の選手時代の経験、現在の指導者の立場としての心の持ち方などを、ユーモアを交えて講演していただきました。その後のグループワークでも活気溢れる話し合いが繰り広げられました。

今後部活動を発展させていく生徒は、一歩踏み出そうとする「勇気」を持つことや、達成感を仲間と共有する「感動」の大切さもまた感じることができたのではないかと思います。また、部活動内のリーダーを育てるとともに、スポーツ以外の部場面でもリーダーとして活躍するためのヒントが得られたと思います。

伝統文化の継承を通して
地域との交流も充実

本校は「伝統文化の継承と充実」も大きな特徴です。長唄部・琴部・能楽部・華道部・茶道部・日本舞踊同好会などがありますが、地域や小中学校と連携しての発表会を実施し、日本の伝統文化を継承することにも力を入れています。

今年は浦和コミュニティセンターで開かれた「第2回うらわコミセンまつり」に参加し、日頃の活動の成果を発表するいい機会となりました。これらを将来の職業と考える生徒は少ないですが、一生の趣味や生きがいとする生徒も多くいるようですね。

私たちはこれからも生徒の進路を支援するために、さまざまな角度から取り組みを行っていこうと考えています。生徒が希望する大学に進むこと、そして将来的に希望する職業に就けること。これが私たちの願いです。

■埼玉県立浦和第一女子高等学校

▲瀧本 正史 先生(左)、加藤 昭洋 先生

Lineup

【第21回】~【第30回】
千葉県のキャリア教育推進
~宮城県のキャリア教育推進

【第11回】~【第20回】
かながわキャリア教育実践推進プラン
~静岡県のキャリア教育研究開発推進

●静岡県のキャリア教育研究開発推進
19 静岡県立静岡農業高等学校(1) 20 静岡県立静岡農業高等学校(2)
●静岡県のキャリア教育研究開発推進
17 静岡県教育委員会(1) 18 静岡県教育委員会(2)
●かながわキャリア教育実践推進プラン
15 神奈川県立光陵高等学校(1) 16 神奈川県立光陵高等学校(2)
●かながわキャリア教育実践推進プラン
13 神奈川県立横浜桜陽高等学校(1) 14 神奈川県立横浜桜陽高等学校(2)
●かながわキャリア教育実践推進プラン
11 神奈川県教育委員会(1) 12 神奈川県教育委員会(2)

【第1回】~【第10回】
現在の高等学校におけるキャリア教育の実態
~産業社会と人間