第49回 キャリア教育実践レポート

「岐阜県のキャリア教育推進」Part.1

岐阜県教育委員会事務局学校支援課に聞く
「地域社会人を育成すべく、体験学習や外部の教育力を活用」


インタビュー
岐阜県教育委員会事務局 学校支援課 課長補佐・指導主事
酒井 猛氏 / 小栗 英幸氏
※部署名、役職名、施策などは取材当時のものです
更新:2011/08/29
日本のほぼ中央に位置する岐阜県は全国7位の面積を誇り、かつ7つの県に囲まれた数少ない内陸県の一つだ。北部の飛騨地域から南部の美濃地域まで自然に恵まれており、農業・林業から河川を利用した漁業・養殖業が営まれている。また古くからモノづくりが盛んで製造業が岐阜県の中心的産業になっており、陶磁器や家具・木工、アパレル、電気化学、プラスチック、食品など特色ある地場産業がある。
岐阜県の県立高校は全63校。岐阜、西濃、美濃、可茂、東濃、飛騨の6学区に分かれ、各学区に普通科や専門学科(工業、商業、農業)、総合学科などがバランス良く配されている。普通科は学区制だが、専門学科や総合学科は全県一区としてどの地域からも進学できる。
岐阜県では「岐阜県教育ビジョン」を平成20年に策定。キャリア教育に関しても従来から高い意識を持ち、全高校でインターンシップを実施。また就職指導員の配置をはじめ、地域や産業と一体となった取組を行っている。現在の高等学校の取組状況と課題などを、県教委事務局学校支援課の酒井さんと小栗さんにお話を伺った。

「自立力」「共生力」「自己実現力」を育み、
地域社会人を育成する。それがキャリア教育そのもの

岐阜県では平成20年12月に「岐阜県教育ビジョン」を策定し、今後の方向性と具体的施策を明らかにしました。その中で、子どもたちに自ら学び考え行動できる「自立力」、豊かな人間関係を広げ深めていく「共生力」、そして高い志をもって夢に挑戦していく「自己実現力」の3つの力を育み、豊かで活力ある地域づくりに貢献できる「地域社会人」を育成することを基本理念として掲げています。

こうした観点からの教育が、まさにキャリア教育そのものと本県では考えています。そのために教員の資質向上、新学習指導要領に基づく基礎・基本の徹底、小学校から中学校・高校・大学という学校種間の連携など確かな教育力を持つ学校づくりを推進しています。また、学校や地域の教育力の向上を図るとともに、体験活動やさまざまな世代の人と触れ合う機会の充実を通して、社会全体で子どもたちを育む教育コミュニティづくりを進めています。

全ての高校でインターンシップを実施し、
普通科や進学校でも将来の職業を意識できる

岐阜県が推進するキャリア教育支援事業を具体的に紹介すると、1つ目に「高校生インターンシップ推進事業」があります。

県立高校と地域の産業界が連携し、高校生に対して就業に関わる体験的な学習を実施することにより、勤労観や職業観を醸成し、主体的に進路を選択する能力や問題を解決する能力、調和のとれた豊かな人間性などの「生きる力」を育成することが目的です。

全日制公立高校63校全てでインターンシップを実施しており、平成22年度は8,486人の生徒が参加しました。

県としては、インターンシップ活動中に生徒が他人にケガをさせたり、物を壊したりした場合に被る損害賠償金及び費用を補償する賠償責任保険を予算化し、在学中に一度は体験できる体制を整備しています。

職業に関する専門学科と総合学科の生徒は3~5日間、普通科やそれ以外の学科については3日程度です。例年、岐阜県インターンシップ推進協議会、岐阜県労働局、他機関と連携を図っています。

普通科では希望者が主で、専門高校と比べると参加者は少なくなる傾向にありますが、就職者が多い高校はもちろん、全ての生徒が大学進学を目指す進学校においても力を入れています。

例えば近年は、医学部を目指す生徒を複数の高校から集め、県立多治見病院(東濃地区)でインターンシップとして職場見学や体験学習を行っています。病院という場所柄、人数に限りがありますが、少しでも多くの生徒が現場を見ることで、医師の仕事の認識を深めるとともに、勉強への意欲が高まってくれることを意図しています。

岐阜県では全員参加の中学校の職場体験を受けて、高校段階でも将来の職業を意識させるきっかけにつながると考え、今後もインターンシップを重視していく方向です。

キャリアアドバイザーを雇用し、14校に配置
就職支援アドバイスなど違った視点からの相談窓口に

2つ目は「県立高等学校就職指導員配置事業」です。これは就職指導員(キャリアアドバイザー)を、就職希望者が多い県立高校に配置し、新規求人の開拓、生徒へのキャリア意識を高める就職指導等を行い、生徒の円滑な就職を支援するものです。また、就職に関する専門知識を持ったキャリアカウンセラーを講師として招聘し、生徒にとって望ましい勤労観・職業観の育成を目指し、より高度な就職相談にも応じてもらっています。

キャリアアドバイザーは企業経験豊富な方や多くの産業とネットワークを持つ方などを、ハローワークを通じて雇用する形で、1年間は学校にほぼ毎日、一般の先生方と同様に勤務してもらっています。

ちなみに平成23年6月時点で、14校で実施中。各高校の校長先生からは、現場の教員とは違った視点・切り口で生徒をサポートしてもらえる点が好評で、今後も継続したいという声が上がっています。

「県立学校リーダーズプラン推進事業」として
特色ある学校づくり、キャリア教育にも力を入れる高校は多数

3つ目は「県立校学校リーダーズプラン推進事業」の実施です。これは各校の校長のリーダーシップの下、学校課題を踏まえ創意工夫した先進的事業等を提案し、優れたプランを実施することにより、生徒一人ひとりの個性を伸ばす特色ある高校づくりを推進するもの。

自校の現状分析や理念(目標)を踏まえ、生徒や保護者、教職員、学校評議員、学校関係者評価委員、地域の意見等を集約。学校評価で明らかにした課題を解決するために企画立案した、先進的な学習活動を支援の対象としています。

平成22年度は、県立高校および県立特別支援学校70校(課程別校舎別)から114件のプラン提出があり、この中から18件を採決しました。
(キャリア教育に関する実践例としては▼下記を参照のこと)

この中には地元企業が、生徒を育てようという高い意識が見られる取組、また地元の町おこしにつながるもの、国際競争力を高めるものなど、地域・産業を巻き込んでの取組が多数見られます。

「飛び出せスーパー専門高校生推進事業」では
地場産業をリードする職業人を育成

4つ目は「飛び出せスーパー専門高校生推進事業」があります。専門高校等が、岐阜県の国際競争力を高め、企業のリーダーとして活躍できる高度な産業人を育成するために、地域と連携しながら専門教科の学習活動を行い、職業人として高度な資質・能力を育成。本県産業をリードする高い地位と役割を担う時代の優れた産業人の育成を図るシステムです。

平成22~23年度は8校が指定を受け、事業を実施しています。

指定校の取り組み内容は以下の通り(抜粋)
●地域文化の調査・研究を通して、新しい地域観光プランについて地域へ提言(益田清風高校)
●地域や企業との連携により、地域特産加工食品の開発・商品化と地域への提言(大垣養老高校)
●地域の構造物の調査・研究、大学・企業等との連携により、飛騨の匠の技術を習得(高山工業高校)

学校と社会をつなぐコーディネーターを抜擢、
基礎学力定着サポートにも力を注ぐ

5つ目は「キャリア教育コーディネーター配置事業」です。これは緊急雇用創出事業で、労働雇用課が岐阜経済大学に委託する形でコーディネーターを抜擢します。コーディネーターは教育現場と企業の橋渡し役となって、県立高校に実習指導者(熟練技能者、社会人講師)を派遣し、出前講座等を実施します。

それぞれの高校の教育の特色に応じて、こんな人を外部から呼んではと提言し、コーディネーターの豊富なネットワークを活用して専門家を招きます。いわば社会と学校のマッチングを図っていく役割で、現在33校でのべ62講座が実施予定となっています。

そして6つ目が「ステップアップカリキュラム研究開発推進事業」です。基礎学力定着サポートプラン(岐阜県教育委員会平成23年2月に策定)に基づき、研究指定校等において、義務教育段階での学習内容の確実な定着を図るために、実践研究を行い、その成果を検証するとともに成果の普及を図ります。

平成22年度は研究指定校において教育課程の研究・編成、学校独自教材の研究・試作を行い、23年度は課程の実践・改善、学校独自教材の作成・活用・改善を行っています。調査協力校には各種取組の研究開発を行ってもらいます。中でも羽島高校はカリキュラムの中に「ステップアップ学び」という学校設定科目を配置するなど、近年精力的にキャリア教育を柱とした学校改革に乗り出しています(Part.2にて紹介)。

労働局調べでは就職率は全国No.1
地元貢献に優位な人材が育つ

岐阜県の高校は総じてキャリア教育を組織的に全校体制で行っているところが多く、校長や教頭などの管理職、進路指導主事、教員みんなでキャリア教育を学校の特色にしよう、そして活性化の起爆剤としていこうという気運があります。

全国的状況と同じく、岐阜県においても、ここ十数年は就職者より進学者の割合が増える傾向がありますが、就職希望者の就職率(労働局調べ)は平成23年3月時点で99.6%と全国で1位、また同年の文部科学省調べでも96.0%と高い位置にあり、日々の成果が表れているといえるでしょう。

しかし、その数字に喜んでもいられず、生徒が就職した後の離職の問題は全国の傾向と同様にあります。私たち教育委員会も知事部局の労働雇用課、ハローワーク、労働局等ともさまざまな会合を持って意見交換して、できるだけフリーターやニートを減少させ、目的意識を持って進路に邁進し、目を輝かせて学び、働く若者を増やすべく協力し合っています。

ちなみに岐阜県では就職者のうち77.5%が県内に留まる傾向があります。従来は進学も就職も隣の愛知県をはじめ、外部に出る動きも活発にあったのですが、経済環境の変化により地元志向が顕著に見られます。外向きではないという見方もできますが、逆に地域と学校が協力し合って一緒に育てている結果が、地元に貢献しようという生徒を増やしているともいえ、本県の「地域社会人の育成」というビジョンにかなっているともいえるでしょう。例えば専門高校の中には地元で開発した商品をWEB販売といった試みを行う高校もあり、生徒が世界に向けて発信しようという試みも垣間見られます。

教育の根本にキャリア教育の視点を持ち続け、
中学や大学と連携を高め段差のない支援をしたい

県としては、今後も、できるだけ生徒一人ひとりの進路や目的に寄り添い、自分の生きる道をつかんでくれることを願いながら、支援していきたいですし、高等学校が、全ての教育の中にキャリア教育という視点、今の勉強や行事・取り組みが何のためにあり、将来どんなことにつながるのかという意識を持てるような施策を続けていきたいですね。

幸い、私たち岐阜県の教育委員会は義務教育課や高等学校課という区分けではなく、学校支援課は小学校・中学校・高校の教員経験者が分け隔てなく集まってきており、連携が取りやすい組織体制です。こうした良き環境も活かし、いろいろと話し合い、高校でのキャリア教育が小中学校と大学、産業界との橋渡しとしても十分機能するよう、段差のない継続的な支援をしていけたらと考えています。

『県立学校リーダーズプラン推進事業』
(キャリア教育での実践例を抜粋)

●岐阜県の味として、老舗和菓子店とのコラボ商品を開発し、WEB市場で販売。これらWEBショップの運営、空き店舗を活用したショップおよびオリジナル商品の開発を通し、地域との連携を深めつつビジネスの理解力と実践力を身に付け、ビジネスに必要な豊かな人間性の育成を図った(平成22年/土岐商業高校)

●就業に関わる体験的な学習、卒業生と語る会、専門講師による講演や相談等による体系的なキャリア教育を推進することにより、生徒一人ひとりに自信をもたせ、自立した人間の育成を図った(平成22年/坂下高校)

●発達段階に応じたキャリア教育を充実させるとともに、これまで継続して行ってきた地域連携活動をさらに活性化することで、地域を支える福祉分野のスペシャリストとしての職業観・勤労観の醸成を図った(平成22年/岐阜各務野高校)

●飛騨地区最大の専門学科設置校(普通科のほか、情報処理・ビジネス・生活文化・園芸科学・生物生産・環境科学を有する)として、地域社会を担う人材を育成するため、地域住民や企業と連携し、朝市や地元のアンテナショップに置いて、製品の仕入れ・販売、店舗の装飾、商品開発、調査・分析等を実施した(平成21年 飛騨高山高校)

●地域の企業と連携したリーダー養成塾の開催、オリジナル商品の開発、コンテンツ制作、NPO法人や公的機関と連携したICT教育などを通して、専門的な技能と資質の養成を図った(平成21年 大垣商業高校)

Lineup

【第21回】~【第30回】
千葉県のキャリア教育推進
~宮城県のキャリア教育推進

【第11回】~【第20回】
かながわキャリア教育実践推進プラン
~静岡県のキャリア教育研究開発推進

●静岡県のキャリア教育研究開発推進
19 静岡県立静岡農業高等学校(1) 20 静岡県立静岡農業高等学校(2)
●静岡県のキャリア教育研究開発推進
17 静岡県教育委員会(1) 18 静岡県教育委員会(2)
●かながわキャリア教育実践推進プラン
15 神奈川県立光陵高等学校(1) 16 神奈川県立光陵高等学校(2)
●かながわキャリア教育実践推進プラン
13 神奈川県立横浜桜陽高等学校(1) 14 神奈川県立横浜桜陽高等学校(2)
●かながわキャリア教育実践推進プラン
11 神奈川県教育委員会(1) 12 神奈川県教育委員会(2)

【第1回】~【第10回】
現在の高等学校におけるキャリア教育の実態
~産業社会と人間