第57回 キャリア教育実践レポート

「三重県のキャリア教育推進」Part.1

三重県立津高等学校の実践レポート(1)
「学校生活そのものをキャリア教育の場に」


インタビュー
三重県立津高等学校 進路指導部 主任
上村 和弘先生
※部署名、役職名、施策などは取材当時のものです
更新:2013/05/20
三重県では専門高校における長期インターンシップなどキャリア教育を積極的に推進しているが、普通科でも進学を念頭に置いたキャリア教育を追求している高校は多い。その代表ともいえるのが三重県立津高校だ。県立高校の中でも133年という、最も古い歴史と伝統を有する進学校として知られる。
同校は学校生活そのものをキャリア教育の場と捉え、クラブ活動や行事、人権教育などを大切に、また高大連携などによるSSH(スーパーサイエンスハイスクール)事業、文系キャリアプロジェクトなども積極的に展開。幅広い角度から生徒の「人間力の向上」に努め、真のリーダー育成を目指している。その理念や具体的な内容、生徒の成長の手応えまで、進路指導部主任の上村和弘先生に伺った。

社会の中でたくましく生きる市民へ
学校生活をより一層濃くする取り組みを開始

本校は1880(明治13)年に創立された津中学校を前身に、133年の長い歴史と伝統を有する高校です。各学年9クラス、定員360名の全日制普通科高校で、生徒のほとんどが大学への進学を目指しています。伝統的に制服はなく、自由な雰囲気を尊重。「自主・自律」「文武両道」「凡事徹底」を校訓に、「高い知性と教養を持ったリーダー育成」をミッションとしています。

自由な校風のもと生徒の主体性を尊重してきた本校ですが、県内有数の進学校ではあっても、他の公立高校や私立高校に志望者が流れる傾向が徐々に表れ、10年程前から本校の特徴をもっと打ち出さなくてはと教員は危機感を持っていました。

教員間で議論を重ねた結果、本校の特徴は、テクニカルな受験指導によって進学実績を伸ばすことでなく、基礎学力を根底に骨太な「人間力」を持った生徒を育てていくことが、生徒の生涯学ぶ姿勢と意欲につながり、オンリーワンの高校になるために必要なことであるという結論に達しました。私の2代前の進路指導部主任がキャリア教育の重要性を感じ、全国の事例から本校に合った施策を導入し始めました。最初は生みの苦しみもあったと思いますが、様々な施策を私たちが継承し、全教員や生徒のベクトルを同じ方向に向かうよう、ここ8年程熱心に取り組んできました。

キャリア教育を「社会の中でたくましく生きる市民にするための教育」と定義し「世のため人のため」という志を持った人を育てるには学校生活そのものが生徒にとって「キャリア教育の場」となっている状態が理想であり、学校生活をより一層「濃く」するため組織的で継続的に様々な教育活動を展開しています。

クラブ活動を充実させることが
縦の連帯感・勉強の集中力を生む

高校生活において、学年を超えたつながりが最も効果的に実感されるのがクラブ活動です。本校では運動部・文化部・同好会含め97%の加入率を誇り、技術指導のみならず、クラブの伝統や学習に対する指導まで、先輩から後輩に引き継がれていくことを大切にしています。

例えば、本校では10年程前までは、2年生の秋にクラブ活動を引退するのが主流でした。しかし現在、ほとんどの生徒が3年生の春の県高校総体までクラブ活動に取り組んでいます。

クラブ活動引退まで完全燃焼するという価値観が、生徒や教員の間のコンセンサスとして広がるにつれて、各クラブの実績も高まり始めました。昨春の県高校総体ではボート部やバドミントン部、弓道部、テニス部、水泳部が東海大会や全国大会への出場を決め、その結果、男子が県内全日制総合5位という成績を収めるに至っています。またクラブ活動に思い切り打ち込むことが、生徒の集中力とタイムマネジメント力を高めています。ラグビー部員の中には冬の全国大会を目指す3年生もいますが、時間をうまく切り替えて難関大学に現役で合格する者もおり、後輩への良いお手本となっています。

我々教員も1年から3年生まで、1カ月ごとにこの時期は何を重視すればよいかを示した「進路ストーリー」をつくり、生徒をきめ細かくバックアップしています。メリハリをつけた生活を大切に、クラブ活動と勉強の切り替えをスムーズにすることに重きを置いて指導しています。

学校行事・生徒会活動は
生徒の自主性を尊重

文化祭などの学校行事において、生徒が主体となって積極的に取り組むことで、学校という小さな社会の中で生徒一人ひとりが自らの役割を自覚するとともに、様々な活動への関わりを高める仕組みを工夫しています。

10年近く中断していた体育祭が、3年前に生徒会主導で復活しました。新しい体育祭は学年を縦割とした生徒集団である「団」を中心として実施しています。この団による活動をより充実したものにするため、昨年度から「津高縦割りディスカッション」という企画を入学直後に組み入れました。これは2・3年生が体育祭で同じ団になる新入生のクラスに行き、学年が混在した小グループによって本校の授業や学校行事、クラブ活動など、上級生のアドバイスを含め自由に語り合う企画です。これらの企画や運営も教員が関わることなく、生徒が自主的に行っています。

「人権教育」
人と共感し、相手の立場に立てるリーダーへ

本校では社会で主体的に生きる人間として必要な知識や問題解決能力を養うため、「人権教育」に力を入れているのも特徴です。1年生では子どもの人権、障がい者の人権、在日外国人の人権、部落問題学習、女性の人権という5つのテーマ別の講演会などを実施し、広く人権問題に気付き,正しい認識をもつともに仲間との話し合いを通じて自分を見つめることを目標に、総合的な学習の時間やLHRを使って学習を進めています。に分かれ、それぞれ講演を聞き、調べ学習・班討論を行い、12月に校内発表を行っています。

真のリーダーとなるには、人と共感する心や相手の立場に立って考える姿勢がなければならないというスタンスから、積極的な活動を通してお互いを理解し、高め合っています。

本物の大人と出会う機会を多数用意
「自分探し・未来探し」をバックアップ

以上は広い意味のキャリア教育といえますが、進路指導部としてのキャリア教育も数々行っています。本校では130年を超える歴史とその同窓生を活用し、多くの「本物の大人」と出会う機会を生徒に提供しています。それらの様々な企画を「自分探し・未来探し」と呼んでいます。

昨年度の例として、まず大学教員や弁護士などによる12講座の模擬授業を本校で開催しました。

また夏休みに行われる東京大学キャンパスツアーでは、1・2年生約80名が1泊2日で憧れの東大に出向き、法医学教室などで講義を受けるなどしています。実際の東大生の受験談や学生生活の話などを聞き感銘を受けて、志望動機をさらに強くする生徒もいます。(生徒の感想は下記を参照)

他にも、医師希望者には、三重大学医学部の医師体験や医学部先輩とのディスカッションの機会を設けています。過疎化が進む地域での医療の厳しい現実に触れ、それでも医師になるという強い志を再確認する生徒もいます。また看護職や作業療法士を目指す生徒向けに、看護師・作業療法体験も行っています。法律に興味がある生徒には、実際の裁判所で裁判を傍聴するとともに実際の裁判官や検察官から講義を受ける「裁判所へ行こう!」という企画等、様々な本物の大人との出会いの場を提供しています。

インターンシップと仕事密着体験を実施
生徒が自主的に参加、確かな手応えを得る

昨年度は1年生では年間5回のキャリア講演会を開き、幅広い視点から「社会」と「仕事」について生徒に何かを感じるきっかけづくりを行いました。地元の経済研究所や進学情報企業、地元企業の経営者、地域連携を行っている大学教授などから気づきを与えてもらっています。

昨年度から県内の事業所でのインターンシップを導入することで、生徒は工作機械メーカーや法律事務所、ホテルや個人病院などから夏季休業中に就業したい企業を選び、職場体験を積むことができます。これらは8月の夏休み4~5日間を使って実施しています。一回目の参加者は5名程度に限られましたが、社会への興味関心を高めるとともに自分の適性を判断することができることにより、参加した生徒は確実に一回り成長して帰ってきました。

またインターンシップとは別に、半日間自分の興味ある職業人のそばで学ぶ「仕事密着体験(ジョブシャドウイング)」を地元NPO法人の協力のもとに2013年3月より開始しました。参加した生徒は医師や弁護士、技術者、商品開発、公務員、アナウンサーなど多様な職業人の仕事を間近で観察し、仕事の大変さややりがいも体感しました。ごく限られた時間ながら好奇心旺盛に見て学ぶことができ、働くイメージが変わったり、自分の進路決定に役立つなど有意義な時間となりました。 (生徒の感想は▼下記を参照)

ジョブシャドウイングは3月の高校入試の日に実施しました。我々教員は入試業務に追われる日でもありますが、在校生は自学学習のため、NPO法人に生徒への同行と前後の教育をお願いしています。その意味で、普段からアンテナを高く張り、信頼のおける地元のネットワークを有効に活用することもとても大切なことだと思います。

このように本校のキャリア教育は本物に出会うことが生徒の生き方をより真剣に考えさせる機会となり、結果的に生徒一人ひとりの「志」の実現を支援する仕組みとなっています。これらは生徒全員に公募という形で提示されますので、強制ではなく生徒自身が希望し選択して参加することから、生徒の自主性を大切にした指導が特徴です。

生徒の声を紹介

●「津高校人権委員会のこと」/2年 人権委員長(男子)
津高校は、人権活動に力を入れている学校です。例えば、人権講話を行ったり、授業の一つで人権学習を行ったりしています。そんな津高校の委員会には、この『人権委員会』というものがあります。(中略)私たち2年生は、委員会で学年のモデル案を考え、それをもとにクラスでの人権学習の授業案を組んで、実際の授業を行いました。先生方と授業案の相談をする以外は自分たちですべて決めなければならず、また、授業では人権について、よく知っている人もいればあまり知らない人もいて、その中で授業をするのはなかなかうまくいきませんでした。

しかし、大変だとしても、多くの人に人権について関心をもってもらうためだと思うと、とてもやりがいを感じることができました。また、みんながいろいろな意見を出してくれて、気づかなかったことを気づかせてくれた、とてもいい時間になりました。

●東大キャンパスツアーに参加して/2年 男子
東京大学を訪れ研修ができるツアーです。今年は2年生48人、1年生32人が参加しました。一日目には東大生との座談会がありました。受験を戦い抜いた人の生の話を聞いて、受験や大学生活のイメージを具体的に持つことができました。二日目は、理系と文系に分かれて研修しました。

私は理系グループで模擬授業を受けた後、1台30億円もする顕微鏡を実際に操作し、様々な設備を見学しました。その規模はもちろんですが、それらの施設が学生でも自由に使えると聞いてさらに驚きました。このツアーに背中を押され東大を受験することに決めました。

「仕事密着体験(ジョブシャドウイング)」
2013年3月実施の感想(1年生12名、2年生9名、3年生4名、合計25名が17事業所に参加)

  • 仕事の厳しさや、やりがいがわかった。
  • 弁護士事務所には、弁護士以外にも必要な人が存在することが分かって、弁護士以外の役割で同じ手助けができることもわかった。
  • 津高に入って多忙さを感じていたが、社会人はもっと忙しいとわかった。大人が時間のなさを嘆く理由がわかった気がする。大学の4年間がすごく貴重な時間であると感じた。
  • 食品検査は様々な観点から安全基準がすべて決められていて、それらをすべて満たすことで初めて商品として世に出される。我々が当たり前のように食べているものは、このような人々によって安全が保障されているのだと改めて実感した。
  • ボランティアと一言で言っても、たくさんの内容の仕事があることが分かった。
  • ローカル局で働くことの良さを実感できた。決められたことだけを伝えるのではなく、自ら何かを発信できるアナウンサーになれるチャンスがあると新たな魅力を見つけた。
  • 自分の仕事に一生懸命になれることはカッコいいことだと思った。
  • 社長さんに「仕事は世のため人のためにするものだ」ということを言われた。進路集会や学年集会で何度も言われたことを言われたので驚いた。
  • やっぱり三重県で働きたいと思った。
  • 大学では学部以外のこともどんどん参加して視野の広い大人になりたい。
  • 大学生で行うであろうアルバイトも「社会とのつながり」を意識してやってみたい。
  • 四日市駅周辺の活性化の事例から津市で生かせるものを考えてみたい。

《つづく》
次回は、“グローカルな人材”を輩出するための、津高等学校のさまざまな取り組みについてです。

■三重県立津高等学校

▲上村 和弘先生

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●静岡県のキャリア教育研究開発推進
19 静岡県立静岡農業高等学校(1) 20 静岡県立静岡農業高等学校(2)
●静岡県のキャリア教育研究開発推進
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●かながわキャリア教育実践推進プラン
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●かながわキャリア教育実践推進プラン
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●かながわキャリア教育実践推進プラン
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