そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

8-1

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感情と積極性
~vs他国~

認定特定非営利活動法人 育て上げネット 理事長
工藤 啓(くどう・けい)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
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「あまり感情を表に出さないから、イマイチ何を考えているのかわからない」というのが、大人から見た若者像のようです。確かに、本当に仲の良い友人といるとき以外は、あまり「自分」を出さないよう、“それなりに”人間関係をやり過ごすような場面を良く見ます。普段から心を開いて自分自身を表現してほしいという願いは、学校の先生や保護者に共通することかもしれません。

ただ、本当に感情の表現力が弱くなっていたり、感情が高まらなくなっているかといえば、私はそうは思っていません。自分を表現し過ぎることはリスクであると考えている部分はありますが、場面場面ではその内包する感情を見ることができるからです。

「おっ、普段よりも積極的にコミュニケーションしているな」と思う場面として、日本ではない「他国」との接点があったときがあげられます。例えば、今年日本が優勝をしたワールドベースボールクラシックや、ワールドカップなどを一緒に観戦しているときには、日本のピンチや日本のチャンスに、普段あまり感情を出さない若者も声援を飛ばしたり、ガッツポーズをしたりしています。

また、日本語をうまく話すことができない他国の方々とかかわるときにも、相手を助けてあげたい、日本人の考え方を伝えたいという想いから、日本人相手には使わないようなジェスチャーも交えてコミュニケーションを取っています。

先日、たちかわ若者サポートステーション(厚生労働省事業)事業の一環で、利用者を連れて在日米軍基地(横田基地)に行きました。私の友人であるアンソニー君にアテンドをお願いし、日本にいながら異国の空気を体感していただいたのですが、あまり言葉を出さない、感情を表出することが少ない若者が、店員さんと片言の英語とジェスチャーで楽しそうにコミュニケーションを取っていました。帰りの車のなかでも終始笑顔で感想を述べ合う姿がありました。

現在の環境下では変わらなくとも、ある環境を社会の側が準備することで、これほどまでに若者の感情が表れてくる。私は、若者自身が時代と共に変化したというよりは、普段とは異なる環境を与える力の弱体化が、社会の側にあるのではないかと思います。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか

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