そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

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「トー横」「闇バイト」と
「時間」について

認定特定非営利活動法人 育て上げネット
山﨑 梓(やまざき・あずさ)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
公開:

12月ということで、年の瀬を意識せざるを得ません。とてつもない速さで過ぎていったような感覚なのに、ふと春先のことを思い出すとあまりに遠い記憶としてよみがえってきます。

若者支援に携わる者として、特に気になったのは「若者を取り巻く社会」に目が向いたことでした。今年最も大きくメディアで触れられたのは、おそらく闇バイトに巻き込まれた若者たちでしょう。

宝石店や時計店に押し入り強盗で入った10代の若者の犯行動機が、高額をうたった闇バイトの募集であったこと。またトー横(注1)「トー横」⋯東京都新宿区歌舞伎町の高層ビル「新宿東宝ビル」の横を省略したもの。グリ下(注2)「グリ下」⋯大阪府大阪市中央区道頓堀の「グリコサイン」の下の意。など繁華街に集まる若者に注目が集まり、いまや政治家がマニフェストにあげるほどのテーマになっています。

私はこの1年、間接的に彼らのことを見知った立場でしかありませんが、そう簡単に解消されるものではないように思います。これはあくまで私個人の感覚ですが、彼らとそうでない人のなかにある「常識」や「普通」の感覚に大きな乖離があること。反社会的な言動や周りから認められない行為を正当化するような洗脳や教育を(時には周囲の大人も期せずして)受けている場合があること。

単純にイコールで捉えることはできませんが、過激な宗教派閥によって刷り込まれた正義に近いものを感じます。私からすればそこに論理的な理屈は感じられない教えでも、それにのみ従い、そうでないものをすべて否定するような思考を植え付けられているような、そんな感覚があります。

私は特に最近、時間を意識するようになりました。若者が社会に居場所を感じられないこと、信じられる大人や社会が見つからないまま過ごしてきた時間の長さのことです。

社会の中に存在価値を見いだせずに過ごしてきた18歳の若者がいるとして、その若者は18年間(思春期だけでも10年近く)、自分なりの処世術を見つけ生きてきたのです。その実体験に基づくノウハウを、いきなり私たちが「いやそんなのダメだよ」と言ったとして、クルッと考えを変えることなんてできるでしょうか。

コロナ禍でテレワークせざるをえなかったとき、多くの人が精神不調を訴えていたように、対面とはまったく異なる働き方に困惑したように、その方が培ってきた「生き方を変える」というのはそんなに簡単なことでないのです。その生き方が社会的に理解されるようなものでなかったとしても、それを手放して生きていくというのはそう簡単なことではありません。

若者を取り巻く問題に注目が集まるいま、取り締まりや相談場所を作る動きが増えています。ですが、彼らの費やしてきた時間に対して、どれだけのものが対等に応えられる支援機能を持てるでしょうか。

すこし対象がずれるかもしれませんが、少年院を退院した若者の支援をするスタッフが「再犯することなく、また、自立して生活できるようになるには8年かかる」と話していたことが強く記憶に残っています。



注1「トー横」⋯東京都新宿区歌舞伎町の高層ビル「新宿東宝ビル」の横を省略したもの。

注2「グリ下」⋯大阪府大阪市中央区道頓堀の「グリコサイン」の下の意。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか


認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)

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