そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

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少子化進む一方、
不登校数・通信制高校生徒数が
最大を記録

認定特定非営利活動法人 育て上げネット
山﨑 梓(やまざき・あずさ)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
公開:

テレビをつけていると、気になるテロップがたまたま目に飛び込んできました。生活のなかに「学校」が溶け込んでいる現代は、人類史上でみれば特異なのだ、というのです。若者が1か所に集まって学ぶという行為が1年中繰り返されている現代が、珍しい時代なのだと。

番組ではChatGPTなどのAIがもたらす、子どもの成育の変化について話をしていたようでした。番組を観られたのは終盤だけでしたが「多くのものが自動化、無人化されていく時代に、教育が、私たちの生活がどう変わっていくのか」という話をしていたと記憶しています。

日本の義務教育が生まれたのは1872年。だれもが学校に行くようになって150年ほどしか経っていません。この150年で社会も大きく変わりましたが、さらにコロナ禍で強制的に変革が起き、子どもたちの要求も変わってきているのかもしれません。

大人社会もテレワークが進み、場所に捉われなくなってきた現在。メタバースの技術開発も続いています。いずれ、今いる場所が現実世界であるかどうかも曖昧になっていく状況で、ひとつの場所に人を集めることに、いつまで意味があるのかという問いが湧いてきます。

日本生産性本部が8月に発表した調査では、テレワークについて、おおむね満足感があり、継続を期待する声の方が大きく、生活面や健康状態が良くなったという回答も約40%とされています。個人的にもこの結果にはうなずけます。

この世界には人と関わることに抵抗がなく、コミュニケーションに際限のない人がいるのだと、私が知ったのは大学生のときでした。それはそれは驚愕しました。1日に10人も話すとキャパオーバーする自分とは対照的な存在と出会ったのです。いまだに週に数時間は、パートナーすら関わらないひとりになる時間がないと過負荷になってしまいます。

テレワークで、雑談が減ったことや社内のコミュニケーションが少なくなったことは、個人的には肯定的に捉えていましたが、ネガティブにみるケースもよく聞きます。どちらの声にも理屈があるのだと思います。

しかし「私はテレワークのほうがラクだ」と意思表明できる、選択できるのは、33歳になって自分の体との付き合いも長くて言語化もできるからであって、子どもはそうもいかないですよね。「今日はひとりになりたい」なんて言えるようになったのはつい最近のことで、幼少期は言語化されない「なんか気分じゃない」と、親を困らせるだけの言葉で学校を休んでいたのを思い出します。

昨年、不登校数が過去最大を記録して大きな話題となりましたが、直近の学校基本調査では通信高校の生徒数は過去最大で、過去最高の伸び率を記録しました。子どもが望む「学び」の在り方もこれから大きく変化していくのでしょう。それは150年の「学校」という概念の変革時期なのかも知れません。

私たちの活動でも、オンライン/オフラインともにあることは重要と捉えています。両方を備えているプログラムもあれば、オンライン特化、オフライン特化のものもあります。また、最初がどうであれ、その参加者に合う方へ導かれるようになっていることが肝要であると思います。当時の言語化できなかった自分を思うと、選んだのは自分であるけれど、変えられる柔軟さがあったらもっと良かったと思うからです。

大人の労働環境が対面もテレワークも存在するように、学校がそんな選べる環境になることはあるのでしょうか。今年度も上半期が過ぎ、公表されるデータをみていて思うことでした。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか


認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)

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