EYE's Journal

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7-1

シリーズ7 魅力ある短期大学づくり
Part.1
インタビュー 日本私立短期大学協会にきく
役割と機能を見直し時代のニーズに対応

日本私立短期大学協会 会長
目白大学・目白大学短期大学部 学長
佐藤 弘毅 氏
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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短期大学は、多彩な学科・コース編成、短期間に集中的に学べること、学生生活からキャリア形成までのきめ細かな支援、学びやすい環境など、さまざまな特色・魅力がある。しかし、短期大学全体を見れば、事実上の大学全入時代が始まろうしている状況のなかで、高等教育機関としての独自性を強め、より魅力ある学校づくりを進めていくことが焦点になってもいる。今回のシリーズでは、短期大学のいまを検証するとともに、魅力ある学校づくりに取り組んでいる事例を探っていくことにした。
第1回目は、日本私立短期大学協会(日短協)の佐藤弘毅会長に、短期大学の現状と今後の展望、短期大学の充実化を図るための取り組みなどについて話を伺ってみた。

大きな岐路に立つ日本の高等教育

▲日本私立短期大学協会 会長 佐藤 弘毅氏

――短期大学が置かれている環境や短期大学の現状について、どのように見ていますか。

「短期大学だけでなく、日本の高等教育全体が非常に大きな岐路に立っていると思います。それは、量的な面、質的な面の両方から論ずることができます。

量的な面では、すべての学校種において需給関係が崩れてきています。その背景は、大きく2つあります。1つは18歳人口のピークが過ぎ、我が国が初めて経験する未曾有の人口減少社会を迎えていることです。学習者の母集団が、どんどん縮小しているわけで、これは個々の大学や短期大学ではどうすることもできない日本社会全体の大きな問題です。

もう1つの背景として、国の規制緩和政策があります。2002年ぐらいまでは国の政策で、高等教育機関の整備は原則抑制でした。つまり、原則として新設や学部学科の増設、定員増などを認めないということで、量をコントロールしていたのです。しかし、一連の規制緩和で2003年以来、その方針が撤廃されたため、高等教育機関の数や定員が増えた。その結果、需給バランスが崩れ、すべての学校種において、定員割れが進行する事態になったのです。

まず、短期大学が厳しくなったのですが、そのあとを4年制大学も追っています。いま短期大学が歩んでいる道は2年後ぐらいには4年制大学がたどる道になるでしょう」

――質的な面というのは、どのようなことなのでしょうか。

「短期大学を含む大学進学率は50%台に達しています。いまや国民の過半数が大学に進学する時代になっているわけです。いわゆるユニバーサルアクセスですね。昔のように選ばれた少数の人が大学に進学するのではなく、大半の人が大学に進学するようになると平均的な基礎学力の低下が起こります。

そういう状況を受けて、大学・短期大学ではさまざまな教育改革を行い、学生の質の保証に取り組もうとしているのです」

短期大学のアイデンティティを確立していくことが重要

――短期大学はこれまで、高等教育機関として重要な役割を果たしてきたわけですが、転換期を迎えているということですね。

「短期大学制度が発足してから来年で満60年になります。そのうち、大きく分けて発足から50年近くは、短期大学が繁栄を続けた時代だったといえます。

戦後、男女同権の時代となり、女性の高等教育機関への進学意欲も高まりました。そして、短期大学には、短期間で集中的に学べる、教育費も安くて済む、早く仕事に就ける、といったよさがある。当時、『4年制大学までは…』と躊躇していた保護者たちも『短期大学なら』と考えるようになった。

こうして、短期大学はとくに女性の進学の受け皿として非常に人気が高くなり、大変な勢いで学校数も学生数も増えていったのです。ただ、短期大学が本来持つべきアイデンティティが十分に発揮されていたか、見つめ直してみる必要もあるかと思います」

――本来持つべきアイデンティティというのは、どういう意味でしょうか。

「それは、学校教育法に規定されている短期大学の設置目的のことです。学校教育法では、短期大学は『職業または実際生活に必要な能力を育成する』ことが目的とされていて、4年制大学とは目的が異なります。

しかし、短期大学は発足以来、4年制大学と判別できないような分野が人気を集め、英文科、国文科、教養系の学科、家政系の学科、教育系の学科などが数多く設置され、4年制大学のミニ版のようなかたちで発展してきたのです。

ところが、先にお話ししたように、10年ぐらい前から短期大学を取り巻く環境が大きく変わりました。4年制大学も増え、親の教育観も変わって、女性でも4年制大学にどんどん進学するようになった。そうすると、真っ先に影響を受けるのが4年制大学と競合するような分野で、とくに、文学系、語学系、教養系などの学科は著しい定員割れを起こすようになったのです。

その一方で、幼児教育、保育、看護、福祉などの分野は引き続き人気が高い。これらは職業直結型で、しかも、その職業は主として女性が支えているということもあり、短期大学にとって、全盛を極めていたころもいまも変わらぬ強みになっています。

こうした実情も踏まえながら、同じ『大学』であっても、わが国がなぜ短期大学という制度をつくったのか、原点に立ち戻って考え直し、短期大学独自の境地を切り開く必要性があるのではないかと考えているのです。短期大学が強みとしている分野はこれからもさらに頑張らなければいけないし、強みを発揮できる分野をもっと拡大、拡充していく。そうして、短期大学のアイデンティティを確立していくことが大切だと思います」

アメリカはじめ諸外国では
短期高等教育が健全に機能

――日本の短期大学を海外と比較すると、どのようなことがいえるのでしょうか。

「アメリカやカナダなど北米、イギリス、フランス、ドイツなどヨーロッパ、あるいはオーストラリアなど世界の主立った国では、わが国の短期大学に相当するものとしてカレッジという短期高等教育機関が非常に健全に機能しています。カレッジは、ユニバーシティとの役割分担がきちっとできていて、国民も役割の違いや設置されているコースをよく知ったうえで教育機関を選び、学んでいます」

――日本の短期大学と単純には比較できないとは思いますが、海外で短期高等教育がうまく機能している理由は何でしょうか。

「どの国も、学校教育制度は国家目標と深い関係があり、非常に重要なシステムとして組み上げています。国あるいは州などの目標設定が裏付けになっているわけです。

たとえば、アメリカでもカナダでも、カレッジは圧倒的多数が州立、市立など公立です。このあたりは私立短期大学が中心の日本とは事情がかなり異なります。

これらのカレッジがめざしているのは、学術中心の大学とは違って、実際生活や職業に必要な知識や技術の教育、あるいは、新しく国民になった移民の人たちへの市民教育です。

もう1つ忘れてはいけないものとして、とくにアメリカのコミュニティカレッジでは選抜機能があります。高等教育を希望するすべての人を最初から4年制大学に入学させると、大変なコストがかかります。それよりも、主として一般教育などをカレッジで行い、さらに上級の学習にふさわしい人を大学3年に編入させる。そういうふうにして、州などの財政を効率的に使おうという政策もあるのです。

ですから、アメリカのコミュニティカレッジの主な役割は、編入学教育、職業訓練、市民教育の3つです。このうち、職業訓練と市民教育については、社会に出て働いた人がさらに学び直し、グレードアップしていくことも一般的に行われています。

このあたりは、学び終わった人を受け入れる社会の有り様とも関係するのですが、学びの場と働く場をいったりきたりするのがあたりまえになっていて、カレッジはそうした生涯学習ニーズにも応えているのです」

短期大学教育の再構築をめざし
新時代の役割や機能を提言

――2009年1月に、日短協では「短期大学教育の再構築を目指して」という本をまとめられましたが、これはどのような背景、目的があるのでしょうか。

「本書を作成したのは、冒頭からお話ししているような危機意識があったからです。そこで、2007年11月、本協会に短期大学教育の充実について検討する委員会を設置しました。委員会では約1年間の検討を経て報告書を提出し、それに基づいて本書をまとめたのです。

本書を刊行して以来、私は全国に9つある日短協の支部に説明に伺ったり、協会傘下のさまざまな研修会の機会をとらえたりして、少しでも多くの短期大学関係者に本書の内容を知っていただくような活動をしています。さらに、そうした周知活動とともに、具体策として早急に取り組むべき課題も決めています」

急いで取り組むべき4つの課題を設定

――取り組むべき課題というのは、具体的にはどのようなものですか。

「本書では、短期大学の役割と機能について提言しています。これは、それぞれさらに議論を深めていかなくてはなりませんが、最も急ぐべきものとして4つの課題を取り上げました。

1つ目が、分野横断的な学習到達目標の設定。2つ目が、分野別の到達目標の設定。3つ目が、専攻科の活用。4つ目が、地域の生涯学習拠点化です」

――それぞれの概要を教えていただけますか。

「分野横断的な学習到達目標の設定は、短期大学を修了した者には分野を問わず、これだけの能力を身につけさせる、という目標を設定しようということです。昨年11月に中央教育審議会から『学士課程教育の構築に向けて』という答申が出て、そのなかで『学士力』を提言しています。専攻分野を問わず大学を卒業したら、これだけの力を身につけている、といえる到達目標を設定しようというものです。その短期大学版として『短期大学士力』というものを想定しているのです。

分野別の到達目標の設定は、いまも強みを発揮している幼児教育、保育、福祉などの分野については、資格取得の要件に加えてさらにこれだけのことができます、という目標を設定するものです。

短期大学の場合、学科で学んだことを活かす専門就職が54%に達していて、4年制大学の30数%に比べると、はるかに高い。これは短期大学の特徴ですから、そういう分野では学生の力をさらに高めていこう、ということです。

一方で、企業などへの一般就職が46%あります。そのため、短期大学では汎用的な職業能力の育成にも力を注いできたわけですが、こちらもより具体的な目標設定をすべきだと考えています。

専攻科の活用は、本科と1年あるいは2年の専攻科を組み合わせることで、多様な教育プログラムを開発することです。それによって、より多くの資格取得や学士の学位取得を可能にしたり、地域の人材ニーズにより細やかに対応していったりするのが目的です。

生涯学習拠点化は、諸外国のカレッジのように、いったん社会に出た人が新しい資格や技術を学べる場にしようというものです。ただ、これは経営的な面ではいちばん難しいので、国の財政支援や学習者支援など大きな枠組みをつくることも必要になってくると思います」

それぞれの地域性を踏まえ
高校との連携強化を

――短期大学が本来持っている特色や魅力を伝える意味でも、高等学校との連携がより重要になると思うのですが、その点についてはどのようにお考えですか。

「高大連携は非常に重要ですが、地域による違いがあると思います。たとえば、東京のように大学や短期大学がひしめいているような地域では、連携といっても実際には難しい面もあります。しかし、地方都市などでは連携が有効に機能する可能性も大きいと思います。

これまでの高大連携は、短期大学の授業を高校生に開放したり、短期大学の先生が高等学校に出向いて出前授業をしたりするというものが多かったと思います。これからは、もう一歩踏み込んで、その地域に必要な人材を養成するにはどうしたらいいか、高等学校側の知恵も借りて考えていくような取り組みもあっていいのではないでしょうか」

文科省の委託事業として
短期大学のあり方を研究

――今後、短期大学をより魅力ある存在にしていくために、どのような取り組みをしていく予定ですか。

「日短協としては、先程お話しした4つの課題について、協会内に委員会を設置して、具体的な検討を進めていきます。

それとは別に、文部科学省の『先導的大学改革推進委託事業』として調査研究を行うことになりました。テーマは『短期大学における今後の役割・機能に関する調査研究』で、事業期間は2009年5月から2011年3月までです。この事業は、目白大学短期大学部の名前で申請し採択されたものですが、本学だけで行うわけではなく、研究推進委員会を設けて実施します。委員会は、私が委員長を務め、ほかの短期大学の先生方を含め計15名、さらに課題別チームを設け、全体で30数名がこの事業に取り組みます。

2年間かけて、先程来お話ししている4つの課題について研究するとともに、そうした新しい役割と機能を担うためには短期大学設置基準の内容が従来のままでいいのか、抜本的な見直しをしたいと考えています。さらに、海外の事情も調査研究し、わが国の短期大学のあり方について提案をしていく計画です」

高等教育ニーズの拡大に
短期大学は積極的な対応を

――最後に、短期大学全体の将来について、展望などをお聞かせいただけますか。

「私は、短期大学について2つのことを主張しています。1つは『すべての国民に高等教育を』ということです。高等学校への進学率が90%を超え、ほぼ全入になってから30年以上が経ちます。国民はさらなる学びを求めて、いまや大学・短期大学への進学率が50数%にまで達しています。こうした高等教育を希望する国民のニーズに、短期大学はこれまで以上に積極的に応えていくべきではないでしょうか。

もう1つの主張は『地方の高等教育の灯を消してはいけない』ということです。短期大学は4年制大学に比べて、全国の中小都市にまで広がっています。中には、小規模な短期大学が、その地域の高等教育を一所懸命守っているようなところもあります。そういう地域で短期大学が行き詰まると、地域の高等教育そのものが失われてしまう。自由競争だけに任せてそうした事態を招くのでは、あまりに無策といわざるを得ません。全国津々浦々にある、そこそこの規模の都市には必ず高等教育の機会があるようにすべきです。

人材立国を標榜するわが国は、そのくらいの国家目標を立ててもいいはずです。これは荒唐無稽な話ではありません。実現可能なことなのです。

私は今後も、さまざまな機会をとらえて、こうしたことを国や世論に訴えかけていきたいと考えています」

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