EYE's Journal

いま知りたい教育関連のテーマについて、ドリコムアイ編集部が取材・調査

31-1

シリーズ31 地域を活かす大学最前線ルポ
Part.1
東日本国際大学
「グローカルな人財」を育成し地域と一体となって地方創生

東日本国際大学 学長
吉村 作治(よしむら・さくじ)
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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東日本国際大学は、所在するいわき市とその周辺における「知」の拠点として、地域との一体化を推進している。地域が求める「人財」の育成や地域との連携にかかわる取り組みは多彩で特色あるものが多い。就任2年目に入り、地域との一体化を加速する吉村作治学長に、地域における大学のあり方、独自の教育理念に基づく「人財」の育成、文部科学省に採択された地方創生事業、地域振興の研究などについて話を伺った。

教養科目のeラーニングを
いわき市民に無料で配信

▲吉村 作治学長

東日本国際大学と地域社会との関係を吉村学長は明快に説明する。

「地域社会があってこその大学だと考えています。大学は、地域社会で『知』の部分、つまり知恵とか知識とかの部分を担っています。ただ、知は人間の一部にすぎないことを忘れてはいけません。

よく『地域貢献』といわれますが、私はその言葉は使いません。貢献という言葉には、立場が上の大学が知で何かをしてあげるという意味合いが含まれていると感じるからです。

地域に貢献するのではなくて、地域と一体になる。地域の皆さんが欲する知があればそれを提供する。そして、地域を盛り立てていく。これが大学にとって必要なことではないでしょうか。いわき市で生まれたら、いわきの小学校から中学校、高等学校、大学まで出て、いわきの企業に入って、いわきのために活躍する。地域と一緒にそういう人を育てるのが本学の使命だと考えています」

吉村学長は、地域の人々が欲する知を届けるために、ユニークな取り組みの準備を進めている。それは、同学のeラーニングを無料で開放する試みだ。

「本学では、教養科目をeラーニングで学べるようにしているのですが、来年の4月から、そのeラーニングの教養科目をいわき市民に無料で配信します。お世話になっている地域の方々に、我々が持っている少しの知をお渡ししたいと考えているからです。

本学の学生数は、4学年全体で、約1,000人ですから、多くはありません。しかし、eラーニングの無料配信を行うことによって、いわき市民32万5,000人が本学の教育の対象者になるのです」

地域と一体となる大学。eラーニング無料配信はその理念を具現化する例の1つといえる。

財宝・財産である学生を磨き
価値ある「人財」をつくる

地域と一体になるという考えのもとで、同学では「人間力」を備えた「グローカル」な「人財」の育成をめざしているという。その具体的な内容を教えていただく前に「人財」という言葉を使っている意味について伺ってみた。

「本学では人間を財宝であり財産だと考えているので『人財』という言葉を使っています。『人材』は人間を材料のように考えている言葉だと思います。そう考えている企業などは人間を自分たちに都合のよい形にしようとするでしょう。

でも、財宝や財産だと考えたら、そんなことはできません。もっと輝くように、価値が出るように、磨くはずです。

本学の学生は親御さんから預かった大事な財宝、財産なのです。その大事な学生を、いかに磨いて価値を高めていくかを常に考えています。そのため、本学の教員は非常に面倒見がよく、学習面や生活面できめ細かく学生をフォローしています」

世界的な視野を身につけたうえで
地元に根付いて活躍を

財宝であり財産である学生を磨き価値を高めていくためのキーワードが「人間力」と「グローカル」だ。

「人間力というのは、建学の精神である儒学に基づくものです。具体的にいうと、自分も周囲の人も幸せにする力、そして、困難を乗り越えて未来を切り開く力のことです」

この力を育成するために「人間力育成講座」を開き、「論語」を必須科目として開講している。人間力育成講座は、各界の知識人・文化人を講師として招く講座。論語は2科目あり、吉村学長も、中国とエジプトの比較文化論として論語の授業を担当し、物事の善悪の見きわめ方を含めて人間性の大切さを教えている。

もう1つのキーワード「グローカル」について吉村学長は次のように説明する。

「グローカルは、グローバルとローカルを組み合わせた造語です。日本以外の国を見て世界的な視野を身につけたうえで、地元に根付いて活躍する。本学は、そういう人財を育てることをめざしているのです」

県の補助金で留学制度を創設し
企業との提携で講座を開講

グローカルな人財を育成する方法の1つとして、吉村学長は学生の海外留学を奨励している。これは20歳でカイロ大学に留学し、それ以来、約180ヶ国を見てきた吉村学長の経験に基づくもの。そして昨年8人の学生をイギリス留学に送り出した。

「福島県に働きかけて、学生の留学に補助金を出していただけるようになりました。県が4分の3、本学が4分の1を出して、学生が経済的な負担なしで留学できる制度をつくったのです。

8人の学生は、イギリスの大学に1か月間留学して、英語を学んだり、現地の社会や文化に触れたりする経験をしてきました。帰国した学生は、英語が上達したのはもちろんですが、視野が広がり、ひと回り成長していましたね。そういう様子を見て、ほかの学生たちも留学したいという気持ちが強くなったようです。昨年、8人の留学生を募集したときは応募者が15人くらいだったのですが、今年は40人も応募してきました」

吉村学長はこれをさらに発展させる構想を描いている。それは、資金の一部を自己負担してでも留学したいという学生を増やすこと。さらに、短期留学だけでなく、1年間の留学ができる制度をつくることだ。

「現時点では、1年間留学すると卒業するのに5年かかります。でも、学生は4年で卒業したい。では、どうすればいいか。

一番いいのは海外の大学と提携して単位互換をすることですが、これは簡単にできることではありません。解決策は本学のeラーニング。これを活用すれば、世界のどこでも本学の授業を受けることができ、単位を取得して4年で卒業できます」

一方で、同学はローカルを重視しているため、地域との一体化につながるさまざまな取り組みも進めている。その一例が企業との提携。今年、いわき市の複合リゾートとして全国的にも有名なスパリゾートハワイアンズと協定を結んでいる。

「従来の科目とは別に、企業が求める人財の育成につながるような講座を設けて、企業の方が講師になって授業を行います。スパリゾートハワイアンズは観光業なので、本学の経済経営学部と健康福祉学部に関連が深い、観光と食の講座を開講します。

今回の協定にとどまらず、今後はいろいろな企業と提携して、講座を増やしていきたいと思っています。

いわき市とその周辺には企業が約3,500社もあり、いい企業が多い。私はいろいろな企業の方と話をしているのですが、どういう学生を求めているのか聞き、それを人財育成に反映させるようにしています」

地域と一体となるという考えに基づいて、人間力を備えたグローカルな人財を送り出している同学は、本年度就職率100%を達成している。(※平成28年3月卒業生実績)

他大学や県・地元企業とともに
地方創生推進事業に取り組む

同学独自の取り組みに加えて、ほかの教育機関や福島県、企業と連携する事業も動き出している。

「文部科学省の『地(知)の拠点大学による地方創生推進事業(COC+)』に『ふくしまの未来を担う地域循環型人材育成の展開』が採択されました。これは、本学、福島大学、桜の聖母短期大学、福島工業高等専門学校、福島県が協定を締結し、地域の産業界と連携しながら、地域で求められる人間を育てるとともに県内企業への就職と定着を図り、地方創生につなげていくものです」

この事業では、協定を締結した3大学と高専の学生の県内就職率を平成31年度までに10%向上させることをめざしている。そのために、就職した先輩が後輩のアドバイザーとして助言するサポーター制度の創設、企業と連携した授業の共同開講、インターンシップなどを実施する。

地域振興戦略の研究を進め
エジプト研究でも日本の拠点に

同学では、地域の振興を学問の立場からも追求。「地域振興戦略研究所」を設立し、所長である吉村学長のもとで研究活動を進めている。

「企業や住民と連携しながら地域の振興を図り、いわきを日本一のまちにするにはどうしたらいいか。その戦略を考えるための研究所です。設立して2年目ですが、7月27日には第1回の調査研究発表会を開催しました。

地域振興については、現在の研究所だけにとどまらず、関連する学部と大学院を開設しようと考えています。そして、7年後に学校法人として120周年を迎えるので、それを機に大きく躍進することにつなげたいと思っているのです」

研究面では、「エジプト考古学研究所」も注目を集めている。

「この研究所も2年目ですが、それ以前に私自身のエジプト研究が50年あるので、研究としては52年の歴史があります。私は、本学を日本におけるエジプト研究の拠点にしたいと考え、私が育てた研究者14人をここに集めました。7月7日には第1回の研究発表会を開催しています。

エジプトでは、クフ王のピラミッド南側から発見された『第2の太陽の船』の修復・保存、各地での発掘調査などを進めています。

このエジプト研究の分野で、本学を研究大学にしたいと考えています。大学には教育と研究という2つの役割がありますが、やはり研究をしてこそ大学だといえるでしょう。実際に、すぐれた研究をしている大学は評価が高まり、学生も誇りを持てます。ですから、エジプト研究をさらに深めて研究大学にすることをめざしているのです」

地域との一体化を推進する多彩な取り組み、独自の理念に基づく人財の育成、研究機能の充実化。これらは、地方創生を実現するとともに、同学のさらなる進化、飛躍にもつながるものといえるだろう。

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