シリーズ32

高校におけるアクティブラーニング

Part.3 識者に聞く
アクティブラーニングを通じて
「個」を超える学習体験を


東京大学 大学総合教育研究センター 准教授
中原 淳(なかはら・じゅん)
※組織名称、施策、役職名などは取材当時のものです
更新:2017/02/20
高校におけるアクティブラーニングについて、現状をどうみればいいのか、どのような意義があるのか、取り組みを活発化させていくには何が必要なのか。全国の高校を対象に実態調査を行い報告書を公表した東京大学大学総合教育研究センターの中原淳准教授に話を伺った。

アクティブラーニングを見える化し
数字を用いた「鏡」として提示

高校におけるアクティブラーニングの現状。その全国レベルでの実態調査(Part.1で紹介)を行った理由を中原先生は次のように説明する。

「私の本来の研究分野は、企業などの人材開発です。教育と経営の中間あたりの研究ですね。

ほとんどが企業などとの共同研究で、学生たちが企業に入ってからどのように行動したり、どのような課題を抱えているのか実例をたくさん見てきました。その結果、教育機関で学んできたことと企業で必要になる能力との間に、溝というか断絶があるということを強く感じるようになったのです。

そこで、5年ぐらい前から、トランジション研究といって、教育機関から仕事領域への移行の研究を始めました。

大学に関してはかなり調査を行い、本もまとめて、ある程度見えてきたので、それを一歩進めて高校のことを調べてみたいと考えました。大学でどう学ぶかは高校時代に何を考えていたかによる部分が大きいからです。

ちょうどアクティブラーニングが注目されていたので、それに着目して日本教育研究イノベーションセンターと共同研究を始めたのです」

中原先生がめざしたものは2つ。

1つは日本全国のアクティブラーニングの実体を「見える化」すること。もう1つは、アクティブラーニングの事例をたくさん集めて情報提供していくことだ。

「数字などのデータで見える化されてないものは客観的に分析したり議論したりすることはできません。ですから、徹底的に見える化する。そして、それをアクティブラーニングの現状を映した『鏡』としてお出しする。

その数字を用いた『鏡』を、学校や教育委員会や現場の先生方が、アクティブラーニングについて考えたり行動したりする際の判断材料の1つとして活用していただきたいのです」

実態調査の結果を見て、中原先生は高校のアクティブラーニングの現状をどのようにとらえているのだろうか。

「ポイントはいろいろありますが、1つだけあげるなら、高校におけるアクティブラーニングは点にはなっているけれど面にはなっていないということですね。

『教科として参加型学習に取り組んでいる教科がある』高校は約75%ありますが、『学校全体として参加型学習に関する目標を掲げている』のは約23%にとどまっています。学校全体として目標を掲げ、カリキュラムを作成し、実践して評価するというサイクルが回っているところは少ないのでしょう」

では、アクティブラーニングの実施率が教科レベルでは75%に達していることについては、どう考えればいいのだろうか。

「いまいわれているアクティブラーニングの定義や方法論にかかわらず、従来からアクティブラーニング的な要素を含む授業実践に取り組まれていた先生方が、たくさんいらしたということだと思います。

共同研究プロジェクトの柱の1つである事例の収集と提供は、まさにそういう先生方にスポットライトをあてる作業なのです。これまで名前はついていなかったけれど、実はアクティブラーニングといえる授業実践を再発見し、事例として広く学校現場などに発信していくことが大切だと考えています」

社会で必要になる力を身につけて
教育機関から仕事領域へと移行

中原先生ご自身は、高校におけるアクティブラーニングの意義について、どのようにお考えなのだろうか。

「私自身は、学校教育が専門の方々とはかなり考え方が違うと思います。それを前提にしてお話しするなら、アクティブラーニングは『生きる術』を身につけられるものだと思っています。

企業に限らず仕事の場では、多様な背景を持った人たちと対話しながら、何かをつくりあげたり、物事を成し遂げたりしていかなければなりません。

ところが、そのために必要となるスキル、つまり『生きる術』を身につけないまま教育機関から仕事の場に入ってきて、行き詰まるような人が非常に多いのです。

ですから、大学はもちろんですが、鉄は熱いうちに打てといわれるように、高校段階まで前倒しして『生きる術』を少しずつ身につけられるようになってほしい。

もう少し具体的にいうと、仲間と共同で何かを創造する経験、多様な人と対話する経験、人を巻き込んで何かを成し遂げるリーダーシップ経験、高校でそういう経験をすることが、社会に出たら誰もが必要になる力を身につけることにつながっていくと考えています。

アクティブラーニングはそのために有効なものだと思うので、高校生にはアクティブラーニングを通じて『アクティブラーナー』になってほしいのです」

中原先生は、従来の授業による学習とアクティブラーニングの関係について建物にたとえて説明する。

「これまでは1階で、通常の授業によって基礎学力を育てていた。これからは、それに加えて2階でアクティブラーニングによる授業を行い、社会に出てから必要になる力を獲得していく。

2階部分はそんなに多くなくていいんです。それぞれの学校の実情に応じて、たとえば1階が95%で2階が5%でもいい。ただ、1階が100%で2階は0のままだと、教育機関から仕事領域への移行がますます難しくなっていく気がします。要するにバランスなのです。

その割合がどの程度がよいかは、生徒の状況や学力やキャリア観も違うので、それぞれの現場の先生が対話をしながら決めていっていただくことが大切なのではないでしょうか」

現場の先生それぞれの考え方で
生徒に合ったアクティブラーニングを

アクティブラーニングの取り組みをさらに活発化させ、生徒をアクティブラーナーに育てるためには、これからどのようなことが必要になるのだろうか。

「私たち自身は、この研究を進めているからといって、学校現場に対して何か特別なことができるとは考えていません。

ただ、『鏡』としての数字は今後もお出ししていきます。計画では2020年まで毎年、調査を行い、経年変化を追っていくことにしています。それから、たとえば数学で何かやってみたいという声があれば、こういう先生がこんな授業をしています、学校をこんなふうに変えたいという声があれば、こういう事例がありますということをお伝えする研修やセミナーも行いたいと考えています。

でも、やはり一番のポイントは学校現場だと思います。それぞれの学校ごとに事情が異なるので、できるところから取り組みを始めて、それを少しずつ広げていけばいいのではないでしょうか。

アクティブラーニングという言葉や定義を気にする必要もないと思います。いろいろな方法論などもありますが、そういうものでなくていい。

先ほどお話ししたように、以前からアクティブラーニングといえるような授業を実践してこられた先生方はたくさんいます。ですから、関心を持った先生方がそれぞれの考え方で、生徒たちに合ったアクティブラーニング的な授業をしていけばいいと思います。

たとえば、古典を読んだあとで、その後の物語の展開を考えてもいいし、英語の授業のなかで英語でディスカッションしてみるのもいい。やり方はどういうものでもかまわないのです。

大切なのは、生徒が個のなかにとどまる学習経験だけでなく、何らかの方法で個を超えた学習経験をすること。そして、それによって『生きる術』を獲得できるようにしていくことではないかと考えています」

《 Part.4「アクティブラーニングの課題と実践」につづく 》

■東京大学 大学総合教育研究センター
■東京大学 中原淳研究室「NAKAHARA-LAB.NET」
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