シリーズ32

高校におけるアクティブラーニング

Part.4 課題と実践
実施上の課題をとらえ直し
型や方法論にとらわれないALを


編集部
※組織名称、施策、役職名などは取材当時のものです
更新:2017/03/06
アクティブラーニング(AL)の実態調査からは、多くの教員がALに肯定的なイメージを持ちながら、実施にはさまざまな課題を感じていることがうかがえる。その課題をどのようにとらえたうえで、アクティブラーニングを実現していけばいいのか、東京大学の中原淳准教授や浦和高校への取材も踏まえて探ってみた。

従来の授業にもALの要素
組織的取り組みは環境整備も重要

東京大学の中原淳準教授などが実施したアクティブラーニングの全国調査によって、高校におけるアクティブラーニングの現状や課題が浮かび上がってきた。

主な調査内容はPart.1のとおりだが、一番のポイントは約75%の高校で何らかのアクティブラーニングが行われていること、そして、その一方で学校として目標を掲げるなどの組織的な取り組みは少ないことだ。現時点のアクティブラーニングは一部の教科や教員の取り組みが中心で、校内での広がりはそれほどないということだろう。

とはいえ、現時点で75%というのはかなり高い数字とみることもできる。これについて中原准教授は、アクティブラーニングが提唱される以前から、その要素を含んだ授業を実践していた教師が多かったのも一因ではないか、とみている。

つまり、各教科で、生徒が問題の解き方を解説し、クラス全員で質疑するような授業や、小グループで課題を考えるような授業などを以前から実践していた教師がかなりいて、それをベースにアクティブラーニングを行っているケースが多いということだ。たしかに、今回取材した浦和高校でも以前からアクティブラーニング的な授業を行ってきた実績があったという。

もちろん、ジグソー法など授業の型や方法論を明確化したものを取り入れて、新たにアクティブラーニングを実践しているところもあると考えられるので、全体としてみるとかなり高い実施率になっているということだろう。

組織的な取り組みが少ないことについては、調査ではその理由までは明らかになっていない。しかし、そのほかの調査項目なども併せて考えると、学校として組織的に取り組むにはそれを可能にする「環境」も必要になってくるのではないかと推察される。そして、それは個々の教科・教員レベルでの取り組みにも共通するものだろう。

よいイメージの一方で課題も表面化
負担増など懸念を薄めることが必要

同調査の「『アクティブ・ラーニング』という言葉のイメージ」では、校長は「生徒の力の向上に効果的」「積極的に取り組むべき学習」などの数値が高く、教科主任も、「生徒の力の向上に効果的」が高い。つまり、イメージとしては肯定的にとらえている教師が多い。

その一方で、「参加型授業実施上の悩み」の項目では、校長、教科主任とも「教員の負担が増加する」が最も数値が高く、教科主任についてみると「授業の進度が遅くなる」「授業時数が足りない」「客観的な評価が難しい」などが高い。

この2つの調査項目からは、アクティブラーニングを行う意義や効果は認めているものの、いざ実施しようとすると、教員の負担増、授業進度、評価などの現実的な問題が懸念材料として浮かび上がっていることが読み取れる。

こうした懸念のうち、とくに教員の負担や授業進度については、それぞれの高校ごとに状況がかなり異なる可能性もあるが、各校の実情に応じて懸念を払拭、あるいは薄める工夫をし、少しずつアクティブラーニングに取り組める環境をつくっていくことが必要になりそうだ。

これに直接関連するとは限らないが、「研究指定・重点指定の有無と実施率や悩み」の項目では、学校全体として目標を掲げている高校の割合は「指定(文部科学省あるいはそれ以外の指定)あり」のほうが「指定なし」よりも多い。指定校の場合は、予算や実施方法にかかわることなど何らかのサポートがあるため、組織的な取り組みを行いやすい環境になるとみることもできる。

一斉授業よりも底上げが可能に
考える力を含めトータルに評価

評価が難しいということに関しては、たとえば、3人のグループで問題を解いたとき、1人ひとりをどう評価すればいいかの判断基準が不明確なことなどが想定される。

たしかに、3人で何らかの問題が解けたとしても、理解度はそれぞれの生徒ごとに異なるかもしれない。極端な場合は、同種の問題が出たとき1人では解けないかもしれない。したがって、解答できたから1人ひとりが理解できているという評価は早計ということになりかねない。

また、評価に関連してはアクティブラーニングによって狭義の学力が向上するのかということもある。

これについて浦和高校では生物と数学の教師が、平均点はそれほど変わらない、と話す。しかし、生物では一斉授業のときに比べると、ついてこれない生徒がいなくなり、全体の底上げにつながっている。数学では、ただ解法を覚えて問題を解くだけでなく、その問題を深く考えていく姿勢が育っているという。

そもそもアクティブラーニングは、狭義の学力、つまりテストの得点力を高めることだけが目的ではない。どの教科においても、教科書に載っていること、教師が説明したことを受動的に覚えるのではなく、提示されたものを自分自身で考え、より深く理解し、応用もしていけるような力を育てることに意義がある。

したがって、評価については、難しさがあるのは事実としても、得点に表れる理解度だけでなく、自ら考える力が身についているかといった観点も踏まえて、トータルな成果を考えることがポイントになりそうだ。

試行的なAL授業で成果が出る例も
教科・教員レベルの取り組み拡大を

組織的な取り組み、個々の教科・教員レベルでの取り組みのどちらにもあてはまることだが、アクティブラーニングをどのように実施すればいいのかという問題もある。

調査でも「実施上の悩み」としてアクティブラーニングの「授業スキル不足」が校長、教科主任とも高めの数値になっている。ただ、これには、アクティブラーニングを行うには特定の型や方法論が必要、という見方が反映されている可能性もあるだろう。

たしかに、ジグソー法など明確な型や方法論が示されているものについては、教員各自がそれを習得し、自分の授業に適用するにはどうするか検討する必要がある。

しかし、たとえば中原准教授は、アクティブラーニングを実施するときに特定の型や方法論にとらわれる必要はない、と指摘する。

前述したように、従来の授業においても、問題を生徒に解説させる、小グループで課題を考えるといったことは程度の差はあっても行われてきたものだ。それは、そのままでもアクティブラーニングにあてはまるし、そこに何らかの型や方法論を少しでも応用すれば、より進化したアクティブラーニングになる。そう考えると、このハードルはそれほど高いものではない。

実施上の悩みがあるのは事実として、多くの教員がアクティブラーニングを肯定的にとらえているのだから、試行的に一度実施してみるという方法もある。

ある高校では、地歴の教員が、うまくいくか半信半疑ながらアクティブラーニングによる授業を行ってみると、生徒が予想以上に活発に取り組み、見学していた教員からの評価も高かったという例もある。

こうした試行的な授業を行うことが契機となって、より本格的な取り組みへと発展したり、ほかの教員に波及していく可能性もあるだろう。

そして、個々の教科・教員レベルでの取り組みが少しずつ広がっていけば、結果的に学校としての組織的な取り組みにもつながっていくのではないだろうか。

Lineup

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シリーズ15
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高等教育機関

シリーズ10
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シリーズ9
専門学校の実力

シリーズ8
魅力ある短期大学づくり

シリーズ6
リメディアル教育の現場

シリーズ5
忙しい先生の業務効率化と
円滑な学校運営

シリーズ4
専門学校とAO入試

シリーズ3
高校における
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シリーズ2
高校のインターンシップを
考える

シリーズ1
教員を育てる