第51回 キャリア教育実践レポート

「岩手県のキャリア教育推進」Part.1

岩手県教育委員会事務局に聞く
「各教科も工夫し、『総合生活力』と『人生設計力』を育成」


インタビュー 岩手県教育委員会事務局
学校教育室 産業教育担当 指導主事 伊藤 俊也氏
※部署名、役職名、施策などは取材当時のものです
更新:2012/01/10
東北地域の北東部に位置し、都道府県の中で北海道に次ぐ2位の面積を誇る岩手県。県の人口の7割は内陸部の北上盆地に集中している。盆地と海岸部以外は山地や丘陵地が多く、緑豊かな県として農業や漁業の豊かさで知られる。食糧自給率の高い県だが、近年はメーカーの工場誘致なども進み、北上市などを中心に自動車や半導体、製薬会社なども集まっている。平成23年3月の東日本大震災津波により沿岸部は甚大な被害を受けたが、各高校も地域一体となって復興への歩みを進めている。

岩手県には全日制・定時制・通信制を含めて全80校の県立高校がある。普通高校、専門高校、専門併設高校、総合学科高校があるが、平成22年3月に「いわてキャリア教育指針」を、同年8月に「いわてキャリア教育の手引き」を策定して、県一体となってキャリア教育の推進に力を入れている。現在の高等学校のキャリア教育の取り組み状況と課題などを、県教育委員会事務局学校教育室産業教育担当の伊藤俊也指導主事にお話を伺った。

「総合生活力」と「人生設計力」を育成
高校では後者に比重をおく

岩手県教育委員会では、平成21年6月に学校関係者及び企業の有識者などを委員とする「いわてキャリア教育推進検討委員会」を設置し、本県の児童生徒の実態と課題を明らかにし、その解決に向けて本県にふさわしいキャリア教育はどうあるべきかを検討してきました。

そこで出された意見を参考に、キャリア教育を行う上での基本的な考え方や発達段階に応じたキャリア教育の在り方、キャリア教育を推進するための体制等について取りまとめ、方向性を指し示したのが「いわてキャリア教育指針」です。

本県ではキャリア教育を「児童生徒が自己の在り方・生き方を考え、主体的に将来の進路を選択し、社会人・職業人として自立するための能力を学校教育活動全体で計画的・組織的に育むこと」と定義しました。

そして、そのための大きな枠組みとして「総合生活力」と「人生設計力」の2つの育成が大切だという認識に至りました。

「総合生活力」とはいわば社会生活を生き抜くためのエンジンであり、児童生徒が将来の社会人・職業人として自立して生きるために必要な能力で、健康・体力、豊かな人間性、確かな学力などに当たります。これは、小学校・中学校・高校すべての基礎になるものです。

「人生設計力」とはいわばハンドルの役目を担うもので、児童生徒が主体的に人生計画を立て、進路を選択し、決定できる能力のこと。社会を把握する能力、勤労観・職業観、将来設計力などがこれに当たり、中学校・高校と進んでいくにつれてこちらに比重をおいて指導していこうというわけです。

高校においてどうキャリア教育を進めたらいいのかについては、平成22年8月に「いわてキャリア教育の手引き 高等学校編」にまとめ、各高校に配布しました。この手引きでは、キャリア教育の進め方、全体計画の作成、キャリア教育校内推進体制の整備、各教科等との関連、インターンシップ、キャリア教育の評価など、それぞれの項目を詳しく紹介しています。

各教科の中にもキャリア教育の視点を導入
教員の工夫に期待

本県は、学校行事に頼るのではなく、普段のHRや総合的な学習の時間、そして一つ一つの教科の授業の中にキャリア教育の要素を織り込みながら展開していこうというところに特徴があります。「1年に1回インターンシップをやっているから大丈夫」などという安易な考えや姿勢ではなく、日々バランス良く栄養を摂ってこそ身に付くという考え方に立っています。

各教科・科目の学習内容をキャリア教育の視点で見直し、その学習が生徒の生活や今後の人生とどう結びついていくのか、実社会でどう活用されるのかを担当教員一人ひとりが工夫し、学ぶ楽しさ・面白さを伝えて「総合生活力」と「人生設計力」につなげていこうと考えています。

例えば国語ならば、「話す」「聞く」「書く」「読む」の言語活動を通じて、コミュニケーション能力を高めていったり、公民ならば集団の中での個人の役割とは何かを考えさせたり、歴史であれば過去の政治や文化、事件等が今の時代にどうつながっているかなどを考えさせる取組などです。他にも数学は筋道を立てて考え表現する能力を高めたり、理科では生命を尊重し環境保全に寄与する態度を育てたりすることに力を入れるという具合です。

本県の総合教育センターでも初任者研修をはじめ様々な教員研修を実施し、教員のキャリア教育に対する理解を深めています。

6割以上の高校でインターンシップを実施
専門高校はほぼ100%

もちろん本県ではインターンシップも積極的に行っています。定時制・通信制を含めた全80校を対象として平成22年に実施したアンケートでは、

(1)生徒全員が実施している……30校(37.5%)
(2)一部の生徒が実施している……21校(26.3%)
(3)実施していない……29校(36.3%)

となっており、(1)と(2)を合わせて63.8%の高校がインターンシップを実施しています。そのうち全日制の専門高校、専門併設高校、総合学科高校ではすべての学校がインターンシップを実施しており、うち94.4%の専門高校は生徒全員が実施するなど高い割合となっています。残り5.6%は部活動の影響等で実施できなかった場合がほとんど。

一方、普通高校におけるインターンシップの実施状況は、52.8%にとどまっています。

専門高校の卒業生に離職率が低い傾向があり
普通高校にもインターンシップを奨励している

近年、高校卒業者の離職率の高さが全国的な問題となっていますが、やはり本県でもそうした傾向は否めません。ただ、その割合が専門高校の場合は低く、普通高校の場合は高い傾向があります。普通高校ではインターンシップの代わりにキャンパス見学会や大学の学部学科の説明会を開く場合が多いのですが、就職者の割合が高い高校はもちろん進学者の割合が高い高校にも、将来の職業の理解のためにインターンシップを奨励しています。

学年別インターンシップ実施状況を見ると、第2学年において実施している割合が53.8%と最も多く、その内訳は生徒全員が実施している高校32.5%、一部の生徒が実施している高校21.3%となっています。総合学科高校及び専門併設高校は、第2学年に加え、第3学年でも実施している場合も多くなっています。

他にも各高校では、進路指導担当や担任を中心にガイダンスや面談・相談等の校内体制を整えています。

大槌高校の場合〔1〕
第1学年の10月にインターンシップを実施
進学から就職まで幅広い進路実現を支援

本県でキャリア教育を実践してきた普通高校として、県立大槌高校の取組を紹介させていただきたいと思います。同校は大槌町で唯一の高校として、生徒・保護者はもとより地域からも、就職から進学まで幅広く対応することを期待されています。この期待に応えるため、かねてより地域との連携・協力を図りながら、インターンシップなどキャリア教育を組織的・系統的に進めてきました。

就職希望者・進学希望者それぞれの進路を実現するため、第2学年に進級する際に教養コース(就職及び専門学校進学希望者)、文理コース(四年制大学進学希望者)のいずれかのコースを選択させています。

特徴は、第1学年でインターンシップを行っていること。第3学年へ進級する際にはコース変更ができないため、第2学年に進級する前までに自己の在り方・生き方を深く考えさせ、主体的な進路選択(コース選択)に結び付けているのです。また、第2学年において上級学校・企業見学会や進路について考える日を設定するとともに、総合的な学習の時間を中心とした3カ年のキャリアプログラムを策定し、教職員が一丸となってキャリア教育を推進しています。

大槌高校の場合〔2〕
地域との連携は専門高校にも引けをとらない
震災後の避難所運営にもキャリア教育の成果が現れる

ともすると学校行事によるキャリア教育の活動は一過性のものになりがちですが、大槌高校では事前指導・事後指導を重視し、系統性に配慮して活動が計画され、組織的に行われています。インターンシップを例にすると、第1学年の10月を見据え、全教職員が挨拶、整容、提出物の徹底、欠席・遅刻の防止などの指導を行うことによって生徒に「大高生」としての自覚と誇りが醸成され、これがキャリア教育の根幹となっています。さらに中学校時代の職場体験と重ならないよう、受入先の調査や生徒の希望調査などを徹底して行います。教職員は生徒の作成した履歴書を持参して事業所を訪れ、インターンシップの趣旨、指導内容、評価方法、日程などを説明し、事業所からの要望なども聞きます。

こうした努力により、内陸部に比べて事業所が著しく少ない沿岸の大槌地区においても、専門高校に勝るとも劣らぬ支援を得ています。インターンシップ終了後は、文化祭において体験を壁新聞形式で発表したり、体験記の収録を作成したりすることでこれまでの活動を振り返り、第2学年に進級する際のコース選択に生かしています。

こうした取り組みは、教員研修の機会がある度にキャリア教育のモデルケースとして担当指導主事が広く県内に紹介するとともに、独立行政法人教員研修センターによる平成23年度キャリア教育指導者養成研修において、キャリア教育の実践事例として全国に紹介されました。

平成23年3月11日の東日本大震災津波で大槌町は壊滅的な被害を受け、同校の体育館は8月上旬まで避難所として使用されました。こうした状況にあって、生徒たちは自らが被災者であるにもかかわらず、ボランティアとして主体的に避難所の運営に協力しながら自己の在り方・生き方を深く考え、この町の復興・再生のために尽くしたいという思いを一層強くしています。こうした姿は、まさに地域と一体となって組織的・系統的にキャリア教育を推進してきた同校の実践の成果といえるでしょう。

震災の影響はあるが、求人は増える傾向に
学校と地域が一体となった取組を支援していきたい

平成23年9月末現在の岩手労働局職業安定部による調査では、求人数は昨年同期より増加傾向にあります。本県全体では求職者のうち半数以上は県内就職を希望していますが、求人数は県外が多く、就職内定者数も県外の方が多い傾向があります。また、内陸部と沿岸部でも若干の違いがあります。

県としては、地域が一体となって生徒を育てている以上、いずれは地域に戻ってきて蓄えた力を還元してもらいたいという思いはあります。

沿岸部は東日本大震災津波で壊滅的な被害を受けましたが、事業所の再開に向けた動きも見受けられ、復興に向けて求人も少しずつ増える傾向にあります。キャリア教育を推進するには、学校と地域との連携・協力が欠かせません。県教委としても、被害を受けた学校やその地域の復興を支援していきたいと考えています。

岩手県の実践事例の紹介

◆花泉高校(第2学年:総合的な学習の時間)
「職場を体験する」

自分の興味・関心のある職業について2日間実際に体験することにより、生徒の勤労観・職業観の育成を図る。その際に、依頼状、お礼状の作成や電話のかけ方、話し方など、実社会のルールを学ぶことにより、社会性や道徳性の育成を図る。学習・体験したことを個人新聞やグループ新聞にまとめ、文化祭で発表を行い、様々な職業について理解させる。

◆福岡高校(第1学年:総合的な学習の時間)
「職場訪問」

二戸市にある高校だが、盛岡市内を中心とした事業所から訪問先を選び、生徒自身が電話でアポイントを取って訪問を実施する。事前学習ではインターネット等で事業所について調べ、訪問後はレポートを作成して文化祭で展示・発表を行う。実際に体験した実感を通して、働くことの意義や社会に貢献することの意義を理解し、人間としての在り方・生き方を考える。

◆盛岡商業高校(第3学年:総合的な学習の時間)
「キャリアアッププログラム」

社会人基礎力講座、マナーアップ講座、実践的面接指導、電話マナー講座など各種講座を通じて、商業高校の基本である「整容、挨拶、ビジネス会話・マナー」等を身に付けさせる。キャリア教育の視点として、望ましい勤労観・職業観の育成を図るとともに、社会の変化に対応できる「総合生活力」を養う。(Part.2で紹介)

◆盛岡峰南高等支援学校(第1~3学年:就業体験実習)
「就業体験実習」

全学年に6月と10月に「就業体験実習」を3週間ずつ実施。長時間の職場での実習を行うことにより、働くことへの関心を高めている。また、職場でのきまりや生産の仕組み等を知り、社会人としての心構えや働くことの大切さを知る機会となっている。

■岩手県教育委員会
Lineup

【第21回】~【第30回】
千葉県のキャリア教育推進
~宮城県のキャリア教育推進

【第11回】~【第20回】
かながわキャリア教育実践推進プラン
~静岡県のキャリア教育研究開発推進

●静岡県のキャリア教育研究開発推進
19 静岡県立静岡農業高等学校(1) 20 静岡県立静岡農業高等学校(2)
●静岡県のキャリア教育研究開発推進
17 静岡県教育委員会(1) 18 静岡県教育委員会(2)
●かながわキャリア教育実践推進プラン
15 神奈川県立光陵高等学校(1) 16 神奈川県立光陵高等学校(2)
●かながわキャリア教育実践推進プラン
13 神奈川県立横浜桜陽高等学校(1) 14 神奈川県立横浜桜陽高等学校(2)
●かながわキャリア教育実践推進プラン
11 神奈川県教育委員会(1) 12 神奈川県教育委員会(2)

【第1回】~【第10回】
現在の高等学校におけるキャリア教育の実態
~産業社会と人間