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第7回 Part.3

第7回 多様な惑星系の統一的な形成理論を追究(3)
Part.3
私たちが住んでいる
地球は何世代目かのもの?

東京工業大学大学院
理工学研究科 井田 茂研究室
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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2006年8月、国際天文学連合総会で冥王星が太陽系の「惑星」から外されたことは記憶に新しい。教科書に載っていて、一般的には常識になっていることも、常に検証が行われ、新しい考え方が提示されるということだ。それは、もちろん1つの惑星に限ったことではない。太陽系全体、そして太陽系以外の惑星系(系外惑星系)についても、世界中で研究が進められ、次々に新しい事実が発見されたり新しい学説が発表されたりしている。そこで今回は、東京工業大学大学院理工学研究科(地球惑星科学専攻)の井田茂先生の研究室を訪ね、太陽系や系外惑星系について、どのような研究が行われているのか教えていただくことにした。(Part.3/全4回)

▲井田 茂 教授

次に、惑星落下問題とはどのようなものなのか、それを井田先生はどのように考えているのかを教えていただくことにした。

「惑星が成長して地球とか火星ぐらいの大きさになると重力が強くなります。そうすると、ガスの円盤と重力的に引き合うようになって、太陽の周りを回る勢いが失われ、太陽に落ちていくと考えられています。私たちが精密なシミュレーションをしてみても、地球は10万年ぐらいで落ちてしまうという計算結果が出てくるのです」

理論から導かれるのは、惑星は落下するという結論。しかし、現実には惑星は存在している。この矛盾を井田先生は独自の考え方で説明しようとしている。

「惑星が落ちることを認めるのが、1つの解かなと思っています。地球は落ちる。それは正しいんだと。でも、それですべてが終わるわけではないかもしれない。

地球ができるときに、周囲の物質が全部、塊になってしまうわけではなく、ある程度大きくなったら一度落ちる。で、落ちてしまったら、残りの物質からまた大きな塊ができる。それを何世代か繰り返す。つまり、現在の地球は何世代目かのものが生き残ったのだと考えることもできるのです。

円盤は1,000万年ぐらいで消えることが観測からわかっています。円盤がなくなれば、重力の相互作用は起こりません。ですから、円盤が消えていくタイミングのときにできた地球は残る。そういう考え方もあり得るのではないかと思います」

巨大ガス惑星である木星と土星は
円盤ガス消失間際にできた

前記の2テーマ以外に「巨大惑星形成時間の問題」も重要なテーマとして残っている。これは標準モデルがつくられる段階から指摘されてきたものだ。

「巨大ガス惑星である木星と土星は、形成される時間を計算すると、円盤の寿命(1,000万年)を超えてしまいます。木星や土星は円盤ガスを引き付けてガス惑星になったのだから、円盤が存在している間にできないといけない。そこに問題があるのです」

この問題についても、井田先生は逆転の発想で説明しようとしている。

「木星や土星は形成に時間がかかり、円盤が消えかけた頃にやっとできたのだと考えています。これは、惑星落下問題にも関係があります。円盤消失までに余裕を持ってできていたら、太陽に落ちてしまう。惑星形成に時間がかかったからこそ、生き残ることができたと考えられるのです。

そうはいっても、時間がかかりすぎるのは確かです。木星は何とか間に合ったとしても、その外側にある土星は難しいかもしれない。天王星、海王星は、円盤消失に間に合わなかったので、ガスを引きつけずに氷惑星のまま残ったのです。問題は天王星、海王星ができる時間の推定が46億年より長くなってしまう可能性があることです。

この問題については、何らかの連鎖現象のようなものがあったのではないかと考えています。木星ができることが引き金になって土星ができ、天王星、海王星ができることにもつながっていったのではないかということです。ただ、具体的に証明できる段階ではないので、これからの課題ですね」

▼太陽系の主要天体の直径と質量
出典:フリー百科事典『ウィキペディア』“太陽系” 2007年10月21日(日)12:07-UTC版から引用(//ja.wikipedia.org/)

生命の居住可能性に着目し
地球形成の詳細を追う

井田先生は、惑星形成から一歩踏み込んで「地球型惑星形成最終ステージ」というテーマも追究している。

「地球型惑星の場合は、生命という観点から詳細を考えていくことが大切です。たとえば、地球の軌道はほとんど円に近いのですが、ゆがんでいたら周期的に太陽に近づいたり遠ざかったりして気候変動が激しくなり、生命が棲むには適さない惑星になってしまいます。

あるいは、天体として見たら無視できるような、皮みたいにくっついている部分が大気だったり、海だったりするわけで、それは生命にとっては非常に重要なものです。

そういう意味で、地球については軌道のことも調べているし、大気がどのように進化したのか、海がどのようにしてできたのかといった詳細についても研究しているのです」

天文学史上に残る出来事だった
系外惑星の発見

太陽系形成理論を再検証するきっかけともなった、系外惑星の発見。それは、天文学史上の大事件だった。井田先生の話をもとに経緯を簡単にまとめると次のようになる。

1940年代頃から、ほかの恒星での惑星探し「プラネット・ハンティング」が始まった。系外惑星発見、という発表は何度かあったが、それらは結果的に否定された。そして、半世紀を経た1995年8月、当時の最高技術を持っていたカナダの観測チームが「ほかの恒星には惑星はない」と結論する論文を発表した。

銀河系には、環境の異なる中心部を除いても数百億個以上の恒星があるのに、惑星があるのは太陽系だけなのか、地球は孤独な存在なのか。

ところが、すぐに事態は一変する。同年10月、スイスのチームがペガサス座51番星に惑星を発見した、と発表したのだ。それは、ほかのチームも観測に成功し、さらに数々の検証を経て惑星であることが確認された。そして、その後の1年間で約10個の惑星が発見され、2002年には発見された惑星は100個に達した。

異形の惑星の多様性を明らかにし
統一的な惑星系形成理論を考察

系外惑星の発見自体が衝撃的な出来事だったが、驚くべきことは惑星の存在だけではなかった。発見された系外惑星の多くは、太陽系の姿からは想像するのも難しい「異形の惑星」だったのだ。

たとえば、恒星の表面をかすめるような至近距離を数日で高速回転する灼熱巨大惑星「ホット・ジュピター」や、彗星のように中心星からの距離を大きく変えて灼熱から酷寒までの四季変化を繰り返しながら周回する楕円軌道巨大惑星「エキセントリック・プラネット」などがある。

井田先生は、こうした系外惑星系の研究に取り組んでいる。では、具体的には何に着目し、どのような方向で研究を進めていこうとしているのだろうか?

「まず、系外惑星系の多様性を知るということが非常に重要です。どんな変わった惑星系があり、それはどのくらいの確率で存在するのかを観測をもとにして探る。それがわかったら、なぜ、そんな惑星系ができたのかという個別の形成モデルを考える。そういうことを繰り返して、さまざまな惑星系に適用できる一般的な惑星系形成モデルを構築したい、というのが1つの方向です。

もう1つの方向は、地球のような生命居住可能惑星について考えていくことです。そうした惑星はどのくらいの確率で存在するのか、そこに海はできるのか、どのような大気ができるのか、そのような惑星を観測するにはどうしたらいいのか、といったことを探っていきたいと思っています。

どちらの方向にしても、系外惑星系については学内の観測グループと密接に連携しながら研究を進めています。観測計画を立てるときにも意見を述べたり、観測の結果、出てきたデータについて議論して論文を書いたりしています」

【用語解説】 『デジタル大辞泉』小学館(//kotobank.jp/dictionary/daijisen/)より引用

*惑星系(わくせいけい):
恒星、およびその引力によって運行している天体の集団。太陽系以外の恒星にも惑星が存在することが明らかになり、太陽系は太陽を中心とする惑星系の一つと見なされている。中心天体が恒星ではなく、中性子星や白色矮星という例も知られる。

*太陽系(たいようけい):
太陽、およびその引力によって太陽を中心に運行している天体の集団。水星・金星・地球・火星・木星・土星・天王星・海王星の8個の惑星とその衛星、さらに準惑星・太陽系小天体(小惑星・彗星や流星物質・ガス状の惑星間物質など)からなる。海王星のさらに外側を回る冥王星は、長く惑星とされていたが、2006年に国際天文学連合により新たに準惑星に分類された。

*恒星(こうせい):
太陽と同様、自ら熱と光を出し、天球上の相互の位置をほとんど変えない星。

*惑星(わくせい):
恒星の周囲を公転する、比較的大きな天体。国際天文学連合はこのほか、自己重力のため球形であることと、公転軌道近くに衛星以外の天体がないことを惑星の要件としている。太陽系では太陽に近い順に、水星・金星・地球・火星・木星・土星・天王星・海王星の八つがある。海王星の外側を回る冥王星も長く惑星とされていたが、2006年に同連合によって新たに準惑星に分類された。遊星。

《つづく》

●次回は最終回「月の形成について」です。

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