研究室はオモシロイ

大学、専門学校や企業などの研究室を訪問し、研究テーマや実験の様子をレポート

第19回 Part.3

第19回 
ICTを教育や国際交流に活用する ~修学旅行をより楽しく~(3)

Part.3
スマホアプリで修学旅行の事前学習も深まる

中央大学
経済学部 佐藤 文博教授
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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ICT(情報通信技術)は、私たちの生活や社会に不可欠なものとなり、その進化のスピードも驚くほど速い。次々と新しいハードやシステムが登場し、わずか2~3年前のものが「ひと昔前」のものに感じられることも珍しくない。それと同時に、ICTをどう使いこなすのか、さまざまなジャンルにどのように応用していくのかも問われている。学問の世界でも、ICTそのものの研究だけでなく、ICTを教育や国際交流をはじめさまざまなジャンルに活用する研究が進められ、注目を集めている。そこで今回は、中央大学経済学部・佐藤文博先生の研究室を訪ね、海外との遠隔授業や、修学旅行のために開発したスマートフォン用アプリケーションなど、ICTを活用する研究について話を伺ってみた。(Part.3/全4回)

事前学習と関連づけて生徒が問題や解答を作成

▲佐藤 文博教授

中央大学経済学部・佐藤文博先生の研究室を訪ね、ICT(情報通信技術)を活用する研究について話を伺っている。

前回は修学旅行用に開発されたオリエンテーリングのアプリ「スタスタeye」開発の経緯を伺った。今回は、2012年、佐藤先生がスマートフォン用に開発した同アプリの、実際の修学旅行中での運用や事前学習との連携について伺う。

▲「スタスタeye」使用方法説明画面

「スタスタeye」を使う修学旅行の準備はクイズの問題や解答などのコンテンツづくりから始まる。これは修学旅行の事前学習を兼ねたものになる。

「各学校では、修学旅行の前に事前学習を行っています。目的地について概要や歴史などをまとめることが多いようですが、この事前学習とコンテンツづくりを関連づけるのです。

クイズの問題や解答をつくるためには目的地のことをよく調べる必要がありますから、事前学習の内容を深めることにもつながるのではないでしょうか。

コンテンツは、2時間ぐらいのスタンプラリー形式を想定して、班ごとに生徒がパソコンで作成します。

▲ログイン画面

たとえば、10か所を回るなら、それぞれの目的地ごとに10問のクイズをつくるのです。クイズは文章だけでなく写真やイラストなどを入れて見やすく工夫することもできます。そうしてできあがったコンテンツはほかの班に提供します。自分たちは答えがわかっているわけですからね」

このコンテンツづくりによって、生徒が興味を持って事前学習に取り組むことができるようにするとともに、パソコンを操作してソフトを使いこなすことで情報教育につなげることもできるわけだ。

目的地を巡りながらクイズに答え
班ごとに得点を競う

▲出題画面

修学旅行の班行動の現場では、まずスタート地点でアプリを起動してIDやパスワードを入力したうえでサーバーにアクセスする。

「スタートする場所でサーバーにアクセスすると、システムのほうがGPSで班がどこにいるか判断します。そして、予め決めておいたルートに基づいて、班ごとにどこにいきなさいというかたちで目的地が示されるので、各班の生徒たちはアプリの地図や自分たちが持っている地図で場所を確かめ、その場所に向かいます。そして、目的地に向かう過程でその場所に関するクイズが出題されるのです」

目的に着いた生徒たちは、その場所を見学しながらクイズの答えを考える。事前に調べていた情報を生徒同士で検討したり、現地でヒントを探したり、場合によってはその場所の関係者や地元の人に話を聞くなどしたうえで解答する。これは、より興味を持って目的地を見学することや地域社会とふれあうことにもつながる。

▲解答画面

クイズの得点は何段階かに分かれている。たとえば、答えが4択の場合、1回目の解答で正解なら満点、2回目以降は点数が下がり、4回目なら0点というようになる。そして、合計得点を班ごとに競う。

「このアプリには、ほかの班の得点を見ることができる機能を持たせています。随時、ほかの班の得点を確認することで、それぞれの班の行動が大体わかりますから、班行動ではあってもクラスとしての一体感も生まれると思います」

指定された場所をスマホで撮影し
事後学習にもつなげる

▲課題写真出題画面

目的地では、クイズ以外に写真撮影の課題も出される。

「クイズに正解すると、目的地の建物など何らかの写真を撮りなさいという課題が出ます。スマホの画面上に課題写真が表示され、それと同じ写真を撮影するように指示されるのです。生徒たちはその場所を見つけてスマホのカメラで撮影し、サーバーに送信します」

この写真撮影は、その場所にいったことを証明する、スタンプラリーのスタンプの役割を果たす。もちろん、それだけでなく記念写真にしたり、事後学習で感想文などをまとめるときに使うことも想定したものだ。

写真撮影と送信が終わると次の目的地が提示されるので、生徒たちはそこに向かって移動する。こうしてすべての目的地を巡り、所定の時間内でゴールをめざす。

ワンタッチでの緊急連絡など
危機管理にも対応

▲目標地周辺地図

班行動の途中では、思いがけないことや緊急を要する出来事が起きる場合もあり得る。修学旅行では、とくにそうした緊急時の対応が重要になるので、このアプリは危機管理にも配慮した機能を備えている。

「生徒たちのなかに急病人やケガ人が出た場合などに、ワンタッチで教員のサーバーにつながる緊急連絡機能を搭載しています。逆に、教員側から各班に一斉連絡できる機能も搭載しています。たとえば、大きな地震などの自然災害、あるいは大規模な火事や事故が発生したときなどに、どこに避難するか、どこで集合するかといった指示を即座に出すことができます。

最寄りの避難場所をワンタッチでスマホの地図に表示する機能も持たせています。地図上にはGPSで自分たちがいる位置が表示されるので、初めて訪れたところでも、スムーズに避難場所に向かうことができます」

《つづく》

●次回は、『実証実験で見えた手応えと今後の研究発展について』です

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