研究室はオモシロイ

大学、専門学校や企業などの研究室を訪問し、研究テーマや実験の様子をレポート

第1回 Part.3

第1回 ロボットによる日常作業の可能性を探る(3)
Part.3
その場で必要な動作を
手と言葉で教える

東京大学大学院
情報理工学系研究科 稲葉 雅幸研究室
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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日本はロボット先進国だ。かつては産業用ロボットが日本の製造業を躍進させ、最近はより人間の生活に近いところでロボットが活躍を始めている。ホビーの世界ではすでに産業化が進み、家庭やオフィスなどにヒューマノイド(等身大の人間型ロボット)が入ってくるのも、それほど遠い将来のことではないかもしれない。そこで、東京大学大学院情報理工学研究科の稲葉雅幸先生の研究室を訪ね、最先端のロボット研究について話をうかがうことにした。(Part.3/全4回)

▲稲葉 雅幸 教授

全身動作プランナは、何らかの目的を果たすにはどのように動けばいいかをロボットが考えるものだが、複雑な動作や意味の判断を伴うような動作は、プランナだけでは実現が難しい場合もある。

そこで、身体誘導にもとづく全身行動教示の研究に取り組んでいる。この研究は、ロボットにとって未知の行動をその都度教え、ロボットがその行動を獲得できるようにすることをめざすもの。これまでに、手を引いて移動させることや、手で教えた動作を覚えさせることに成功している。

「わかりやすくいうと、子どもの手を引いて歩かせたり、子どもの手を握って動作を教えるようなものです。手を引く移動の場合、引っ張られる力をセンサーで感知したら、その方向に動くようにプログラムしています。そして、たとえば流し台まで引っ張って連れていって、やかんを持って水を注ぐ動作を教えます。このとき、音声と組み合わせて動作を教えるようにしています。『持って』『注ぐ』といった言葉と動作を対応づけて覚えさせるのです」

手取り足取り子どもに教えるように

▲HRP2W

教え方は、子どもを相手にするように、手取り足取りといった感じになる。やかんの取っ手を握らせる場合なら、ロボットの手を取って力を加え、握るという動作を言葉とともに教える。ロボットは、そこで発生した動作を言葉と対応させて記憶する。そして、その動作を獲得させることによって、次に「やかんを持って」といわれたらロボットだけで動作ができるようにしていくのだ。

また、いろいろな動作を覚えさせても人間からの指示があいまいだと、ロボットが質問してくるようになっている。

「これは、HRP2の下半身を車輪型にしたロボットでよく研究しています。人間が『それを取って』といっても、ロボットには『それ』が何かわかりません。そういう場合は物の属性、つまり色やサイズなどを質問してくるようになっています。『赤い物ですか』とか『小さい物ですか』といった定型文を覚えさせておきますが、どの属性について質問するのがいいかはロボットが判断します」

行動教示の研究は、ロボットの実用段階を想定したものでもある。将来、家庭にロボットが入ったとき、家のなかの環境も、求められる動作も一律ではない。その場その場で必要な動作を教え、それを覚えることが不可欠になってくるからだ。

《つづく》

●次回は最終回「生活支援ロボットの実用化に向けて」です。

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