研究室はオモシロイ

大学、専門学校や企業などの研究室を訪問し、研究テーマや実験の様子をレポート

第3回 Part.1

第3回 
コンピュータによる日本語研究で新たな文法体系の構築をめざす(1)

Part.1
現代語にも古典語にも適用できる
文法体系を探る

青山学院大学
文学部 日本文学科 近藤 泰弘研究室
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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ここ1~2年、日本語ブームだといわれる。日本語関連の本がベストセラーになったり、日本語をテーマにしたテレビ番組が人気を集めているのだ。たしかに、普段あたりまえのように使っている日本語について、少し踏み込んだ話を聞くだけでも新たな発見があって「なるほど」と思わせられることも多い。これは日常レベルの話だが、学問の世界でも、もちろん日本語の研究が積み重ねられている。なかには、コンピュータを使って日本語を分析し、これまで知られていなかったことを明らかにしていく研究に取り組んでいるケースもある。そこで今回は、青山学院大学文学部の近藤泰弘先生の研究室を訪ね、コンピュータを使った日本語研究について話をうかがうことにした。(Part.1/全4回)

▲近藤 泰弘 教授

近藤先生は、コンピュータを使った日本語研究のパイオニアであり、最近はテレビの日本語関連番組でコメンテーターを務めるなど多彩な活動もしている。

研究の内容をうかがう前に、まず近藤先生の日本語研究のメインテーマについて教えていただくことにしよう。

「私の研究テーマを一言でいうと、日本語の文法体系を構築することです。日本語の文法をなるべく広くとらえて、文法が歴史的にどのように変遷してきたか、それが現在の文法にどのような影響を与えているのかを明らかにして、現代語にも古典語にも通じる文法体系を構築できないかと考えているのです」

現代語と古典語をつなぐ研究で
はじめて見えてくるものがある

日本語の研究はもともと、現代語と古典語に分かれていたそうだ。研究者はどちらかを専門的に研究し、相互の交流も少ない。そうした状況のなかで近藤先生は、学生時代から現代語と古典語をつなぐ研究の必要性を感じ、それを提唱するとともに、一貫してそうした立場で研究を進めてきた。

「日本語では、主語と述語をつなぐとき『は』と『が』を使えます。なぜ2つ使えるのかは、あらためて考えてみると不思議です。たとえば、英語なら『This is a pen』というように1つだけですね。だから、外国人に日本語を教えるときには、なぜ『は』と『が』があるのかとよく質問されます。

そういうことを調べるのも、現代語だけ見ていたのではわからない。でも、古い時代からどのような使い分けがあったのかを調べていくと、少しずつわかってくる場合があるのです。そのため、現代語の文法の考え方を源氏物語に応用してみようとか、逆に、源氏物語の文法による表現は現代語ではどうなるのかといった発想のもとに、現代語と古典語の双方を研究しているのです」

プログラムを自分でつくり
コンピュータの活用を開始

近藤先生のこうした研究スタイルは、コンピュータによる日本語研究につながっていくことにもなった。

「古典語の研究は、史料を集めないとできません。現代語なら、自分の頭のなかで考えてみたり、誰かに話を聞くこともできます。しかし、古典語はなくなってしまった言葉ですから、作品そのものを調べるしかないのです。その場合、従来は作品の『索引』を使って調べていました。ところが、索引には単語が出ていて、それが作品の何ページの何行目に出てくる、ということしかわからないのです。その単語がどのような文脈で使われているかは作品を探していくしかない。それでは非常に研究しにくいので、大学院生のころから何とかならないかと考えていました。

そのころは、パソコンが登場して数年経ち、ようやく日本語が使えるようになってきた時代でした。それで、パソコンに着目したのです。源氏物語のテキストをパソコンで入力して、そのデータを大型コンピュータで処理するというようなところから少しずつ日本語研究にコンピュータを使うようになったのです。そのために必要なプログラムは全部自分でつくりました」

こうして、近藤先生は通常の研究と並行してコンピュータによる研究にも取り組み、古典作品の文脈付き索引づくりを進めた。

《つづく》

●次回は「コンピュータによる日本語研究の成果について」です。

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