研究室はオモシロイ

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第2回 Part.4

第2回 バイオインフォマティクスでゲノム創薬への道を切り開く(4)
Part.4
情報科学の手法で
人間特有の遺伝子を探る

東京理科大学 薬学部
生命創薬科学科 宮崎 智研究室
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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ATGC。この4文字が私たち人間(およびほかの生物)の生命現象を左右している…。といっても、もちろんオカルト的な話などではない。科学、それも最先端科学の話だ。ATGCは、DNAを構成する4つの塩基のこと。Aはアデニン、Tはチミン、Gはグアニン、Cはシトシン。このうちAとT、GとCが対(塩基対)になり、二重らせん構造の段の部分を形成している。そして、その文字(実態である塩基)の配列が遺伝情報であり、生命現象を決定しているのだ。
人間の場合、全遺伝情報(ゲノム)を解読するヒトゲノム計画が一通り完了し、遺伝情報の全体像がぼんやりと浮かび上がりつつある。そして、ヒトゲノム計画を通じてもう1つ浮かび上がってきたものがある。それはバイオインフォマティクス。ゲノムのような膨大な生物情報をコンピュータを駆使して解析する新しい学問領域だ。そこで今回は、日本ではまだそれほど多くないバイオインフォマティクス専門の研究室である東京理科大の宮崎研究室の宮崎智教授を訪ね、どのような研究が行われているのか教えていただくことにした。(Part.4/全4回)

▲宮崎 智 教授

創薬のためのゲノム情報解析手法の創造についても話をうかがうことにしよう。この研究テーマには3つの柱があるそうだ。

「1つは、人間特有の遺伝子の働きを探る道筋をつけることです。異なる生物同士で同じ遺伝子があるかどうかは、ATGCという文字情報の一致度を調べることでわかります。同じ文字パターンのものがあれば、それはA生物とB生物で同じ遺伝子であろうと考えられるわけです。

ところが、種の違いというのは、その種にしかない遺伝子があることによって生まれてきます。そうすると、ある生物種に特有の遺伝子がどのようなもので、どのような役割を果たしているかは、異なる生物種のゲノムの文字情報を比較するという手法では解明することができないのです。

ただ、特有の遺伝子がそれぞれ単独で働いているということは考えにくい。分子情報ネットワークの話にもつながるのですが、タンパク質をつくるための制御とは違うメカニズムで、同じような機能に関与している遺伝子があると考えられます。そこで、文字の並び方は違うけれど、機能としては同じという人間特有の遺伝子を情報科学の手法で見つけたいのです。ただ、それは仮定になりますから、ある程度の分類群をつくったら、本当にそうなのか実験で確かめたいと思っています。

タンパク質の中枢や細胞の働きを
シミュレーションで突き止める

2つ目は、タンパク質の中枢を見つけることです。タンパク質が働くときには活性中心というもの、人間でいえば脳に相当する部分があるのですが、それがどこなのかはわかっていない。実験で調べるのは難しいので、コンピュータのシミュレーションで、いちばん可能性が高い部分を突き止めたいと思っています。それが明らかになれば、そこをターゲットにした仮の薬をつくってブロックしてみる。

もし、タンパク質の働きが抑えられれば、そこが活性中心ということになりますから、仮の薬をもっと洗練されたものにしていくことができるでしょう。

3つ目は、遺伝子発現や細胞の働きをコンピュータ上で再現することです。細胞内にどういうタンパク質があるかということは、遺伝子の情報からわかります。それから、このタンパク質とこのタンパク質がこう関わっているというデータが出ているものもあります。それは大体、AとB、CとDといった2項的な関係になっています。

しかし、遺伝子の情報からつくられるタンパク質を一度に一緒にしたら全体としてどういうことが起こるかはわからない。それをコンピュータ上のシミュレーションで明らかにしようと考えているのです。

というのも、細胞が何らかの物質をつくる場合、1通りのやり方だけではないんです。あるタンパク質をブロックしても、ほかの道を見つける。それがどのようなものか確かめるには、全体の動きを見る必要があります。たとえば、AはBとかかわるだけでなくCとも関わり、AとCという関係もできるということが明らかになっています。ですから、ある道筋をブロックしたら、どういう道筋で目的の物質をつくるのか、もしくはその物質はできないのかということをシミュレーションで解明したいと思っています」

宮崎先生の「ドライな研究室」は、たしかに一般的な薬学部のイメージとはかけ離れている。

取材に訪れたとき、ゆったりした空間にテーブルが並び、学生たちがノートパソコンを操作している様子を見て、ラウンジか何かと思ったが、実はそこが研究室だった。イメージの違いは、研究テーマや研究手法がこれまでにない新しいものであることを物語ってもいる。

動き出して間もない宮崎研究室だが、バイオインフォマティクスによって薬学の未来をどのように切り開いていくのか大いに注目される。

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