第2回 Part.3

バイオインフォマティクスで
ゲノム創薬への道を切り開く(3)


東京理科大学 薬学部 生命創薬科学科
宮崎 智 研究室
※部署名、役職名、研究内容などは取材当時のものです
更新::2006/09/19

遺伝子を制御する部分をコンピュータで探る

次に、分子情報ネットワークの解明というテーマについて教えていただくことにした。これは一言でいうと遺伝子を制御する部分に関する研究だという。

「ヒトゲノム解読の成果として、人間には約2万3,000個ぐらいの遺伝子があることがわかりました。それぞれの遺伝子は1つで働くこともありますが、多くの場合、2つ以上の遺伝子が関連し合って働いている。その関連性を探りたいのですが、膨大な組み合わせになるので、実験ではできない。そこで、コンピュータを使って探れないかと考えたのです。

ヒトゲノムは30億塩基対から成っています。つまり30億個のATGCという文字がずらっと並んでいるようなイメージです。その30億個の文字のなかでタンパク質の情報に対応している遺伝子の部分は数%で、残りの90数%は遺伝子の制御に関わっているのだろうということがわかってきました。

要するに、タンパク質をどのタイミングで、どのくらいつくればいいか、ということが書かれているのだろうということです。ゲノム研究の分野では、それを解明しようという動きがいままさに始まったところで、制御の情報がどういうかたちで、どの部分に書かれているのかをコンピュータで予測することをめざしています」

遺伝子を読み取る「装置」のための
文字列パターンが存在する

宮崎先生は、ヒトゲノムと遺伝子についてさらに詳しく説明してくださったが、その話を要約すると大体次のような内容になる。

ヒトゲノム、つまり30億個の塩基対は、すべてが遺伝子ではない。遺伝子はところどころに分散して存在し、遺伝子と遺伝子の間隔もバラバラ。ただ、遺伝子は読み取れる方向が決まっていて、こちらが先頭、こちらが終わりというのはハッキリしている。そして、それぞれの遺伝子の前に『遺伝子を読み取りなさい』『いつ読み取りなさい』という制御の情報が存在する。その部分をコンピュータで解明しようということなのだ。では再び先生の話の続きに戻ろう。

「ある遺伝子が読み取られてタンパク質がつくられるときには、その遺伝子を読み取る装置のようなものがくっつきます。バーコードリーダーと思ってもらえばわかりやすいかもしれませんね。それがくっつくために『ここにくっつきなさい』というサインが出ている。それは、大体8〜20塩基対ぐらいの長さの文字列パターンですが、そのパターンのいくつかが実験で明らかになってきました。

もし、ある遺伝子と別の遺伝子の前の部分に同じパターンがあれば、その2つの遺伝子は同じように働いている可能性がある。それをコンピュータで探り当てたい。もし、候補が出てくれば実験で確認してもらいます。実験で証明されれば、たとえば病気の関連遺伝子の1つがわかっている場合、それ以外に同じ病気に関わっている遺伝子を突き止めることにつながります。ですから、遺伝子ではない部分のゲノムの解明を大きなテーマの1つにして取り組んでいるのです」

遺伝子の制御部分を探るため
プログラム開発も進める

現在は「バーコードリーダー」を置くサインの共通ルールを見つけようとしている。しかし、そこは生命の神秘とでもいうべきなのか、なかなか一筋縄ではいかないようだ。

「いまは、実験で少しずつわかってきている非常に小さなパターンから共通ルールを見つけることに取り組んでいます。いったん共通ルールが見つかれば、それを踏まえてゲノムをスキャンすることで、どこにどういうパターンがあるかがわかるようになります。ところが、この辺が生物のいやらしいところなのですが、バーコードリーダーをここに置きなさいというサインが微妙に違うんです。

ATGCの文字列にすると、AAATというのもあればAAAAというのもある。だけど、そこに同じようにバーコードリーダーがくっつく。分子から見ると、AAATとAAAAは同じに見えているはずなんです。それをコンピュータで解析すると、別物だと認識してしまう。そこで、違うパターンだけれども同じものとみなして探すしくみをシステムに組み込まないといけないのです」

遺伝子の制御部分を探るためのプログラムも現在開発中だ。基本的なシステムは先生が設計し、研究室の学部生や大学院生が卒業論文や修士論文のテーマとして、プログラムづくりに取り組んでいる。

《つづく》

●次回は最終回「創薬のためのゲノム情報解析手法の創造について」です。

■東京理科大学 薬学部
■東京理科大学

▲宮崎 智 教授

 

Lineup

第15回
工学院大学
工学部電気システム工学科

第14回
日本女子大学
家政学部被服学科

第13回
慶應義塾大学 経済学部

第12回
成蹊大学
理工学部情報科学科

第11回
早稲田大学
スポーツ科学学術院

第10回
首都大学東京大学院
都市環境科学研究科

第9回
明治大学
情報コミュニケーション学部

第8回
実践女子大学 生活科学部

第7回
東京工業大学大学院
理工学研究科

第6回
早稲田大学
教育学部地球科学教室

第5回
埼玉大学 教養学部

第4回
東京農工大学大学院
工学教育府応用化学専攻

第3回
青山学院大学
文学部日本文学科

第2回
東京理科大学
薬学部生命創薬科学科

第1回
東京大学大学院
情報理工学系研究科